日本ではおよそ30年ぶりとなる、世紀末ウイーンの代表的画家エゴン・シーレの回顧展。日本人の姉弟ユニットSHIMURAbrosの新作個展。今後、さらなる活躍が期待される日本の中堅作家3名のグループ展。今月の見たい3つの展覧会をみどころとともに紹介する

BY MASANOBU MATSUMOTO

『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』|東京都美術館

画像: エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》 1912年 油彩、グワッシュ/板 レオポルド美術館蔵 LEOPOLD MUSEUM, VIENNA

エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》 1912年 油彩、グワッシュ/板 レオポルド美術館蔵
LEOPOLD MUSEUM, VIENNA

 エゴン・シーレは、19世紀末、ウィーンで隆盛をきわめた芸術的、文化的ムーブメント、いわゆる「世紀末ウィーン」の代表作家のひとりだ。巨匠クリムトも認めた天才。自画像を含め、とりわけ人間の内なる部分、エロスや狂気をあぶり出すような絵画を多く残した、ナイーブでスキャンダラスな画家。28歳にしてこの世を去った夭折の芸術家ーー。さまざまに語られてきたシーレだが、実際には、どんなふうに時代を生き、何に突き動かされて創作活動を展開したのか。本展は、シーレの世界的なコレクションをもつレオポルド美術館の所蔵作品を中心に、油彩画やドローイング、言葉などからシーレの激動の人生を総覧する。

 こうしたシーレの回顧展は、日本では30年ぶりの開催となる。見どころは、シーレが執着した「自画像」のなかでも代表作と呼ばれる《ほおずきの実のある自画像》、クリムトの影響を受けた学生時代の作品《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》、スペイン風邪で死する1918年に制作した未完成の作品《しゃがむ二人の女》など。もちろん、卓越したシーレの才能は自然に開花したのではなく、当時のウィーンに興った新しく革新的なムードも後押ししたの事実だ。本展では、クリムトやココシュカら同時代のウィーンの画家たちの作品、彼らが牽引した芸術的動向にも触れながら、シーレという夭折の天才に広く光をあてる。

画像: エゴン・シーレ《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》 1908年 油彩、金と銀の顔料/カンヴァス レオポルド美術館蔵 LEOPOLD MUSEUM, VIENNA

エゴン・シーレ《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》 1908年 油彩、金と銀の顔料/カンヴァス レオポルド美術館蔵 
LEOPOLD MUSEUM, VIENNA

『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』
@東京都美術館
開催中。4月9日(日)まで。
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SHIMURAbros 『見かけの虹- Specious Rainbow』|東京画廊+BTAP

画像: 東京画廊+BTAPでのSHIMURAbros 個展『見かけの虹 - Specious Rainbow』の展示風景 PHOTOGRAPH BY KEI OKANO, COURTESY OF THE ARTIST AND TOKYO GALLERY+BTAP

東京画廊+BTAPでのSHIMURAbros 個展『見かけの虹 - Specious Rainbow』の展示風景
PHOTOGRAPH BY KEI OKANO, COURTESY OF THE ARTIST AND TOKYO GALLERY+BTAP

 SHIMURAbros(シムラブロス)は、姉ユカと弟ケンタロウによる姉弟ユニット。1999年より共同制作を行ない、以降、映画をベースに、表象あるいはイメージが生まれるメカニズムを主題にしたメディアアートや彫刻、インスタレーション作品を手がけてきた。世界各地の美術館に加え、カンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭などでも作品を上映、展示。現在は美術家オラファー・エリアソンのスタジオに研究員としてベルリンに滞在し、創作活動を行っている注目の作家だ。

『見かけの虹- SpeciousRainbow』と題した本展で紹介するのは、彼らが2009年から取り組んでいる「Trace」シリーズの最新作。円形の抽象的な小さな彫刻(あるいは立体絵画)のようなかたちをした作品だが、光を反射・屈折させる光学ガラスを素材に用いており、見る位置によって色やそのグラデーションが違って見えるーーいわば、新しい映像体験装置。多様な映像表現技術が発展した現代において、プリミティブな光と色の戯れの美しく驚くべきかたちで再提示しようとする姿勢が面白く、SHIMURAbrosらしい。実際にこのオブジェの前に立つと、そこで光によるさまざまな現象が起こっているのがまざまざと感じられて、またこの小さなオブジェ自体が、光や色により現象を捕獲しているようにも見えて、なんとも楽しく、愛おしい。

画像: 東京画廊+BTAPでのSHIMURAbros 個展『 見かけの虹- Specious Rainbow』の展示風景 PHOTOGRAPH BY KEI OKANO, COURTESY OF THE ARTIST AND TOKYO GALLERY+BTAP

東京画廊+BTAPでのSHIMURAbros 個展『 見かけの虹- Specious Rainbow』の展示風景
PHOTOGRAPH BY KEI OKANO, COURTESY OF THE ARTIST AND TOKYO GALLERY+BTAP

SHIMURAbros 個展『見かけの虹- Specious Rainbow』
@東京画廊+BTAP
開催中。2月18日(土)まで。
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『ACT Vol.5 引き寄せられた気配』|トーキョーアーツアンドスペース本郷

画像: 海老原靖 《Rose#01》 2009 キャンバスに油彩(「NOISE」シリーズより) ©YASUSHI EBIHARA

海老原靖 《Rose#01》 2009
キャンバスに油彩(「NOISE」シリーズより)
©YASUSHI EBIHARA

 アーティスト・イン・レジデンス事業や展覧会の企画などを通じて、同時代の表現の発信、作家の国際交流を支援してきたアートセンター「トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)」。この『ACT(Artists Contemporary TOKAS)』展は、TOKASのプログラムに参加経験のある作家を中心に、注目すべきアーティストを取り上げるエキシビションだ。作家のステップアップの場としても注目されており、ここで紹介された作家が、以降、活動や発表を広げていくケースも多い。今年度で5回目となる本展では、海老原靖、鮫島ゆい、須藤美沙の3名の作家が作品を発表する。

 海老原は、近年、マコーレー・カルキンやオードリー・ヘップバーンなど銀幕のアイコンをモチーフにしてきた画家。本展では、モニタに映る映画ワンシーンや俳優の顔を一時停止した状態で切り取り、油彩で表現した「NOISE」シリーズを発表。鮫島の作品は、金継で異なる陶器の破片をパッチワークのようにつなぎ合わせ新たなものにする「呼び継ぎ」の技法を、絵画に転用させたもので、古代遺跡や使われなくなった道具、伝承、オカルトなどを題材にした作品を展示する。天体観測や神話に関心を寄せてきた須藤は、紙にピンで無数の穴をあけ、星々や銀河、惑星などの図像を浮かび上がらせる作風で知られる作家だ。本展では、太陽観測衛星「ひので」が捉えたX線画像を素材に、研究者へのインタビューなどをもとに、イメージを広げたインスタレーションを発表する。

画像: 鮫島ゆい 《呼び継ぎ(memento/blue)》 2022 パネルにキャンバス、アクリル、油彩 ©YUI SAMEJIMA

鮫島ゆい 《呼び継ぎ(memento/blue)》 2022
パネルにキャンバス、アクリル、油彩
©YUI SAMEJIMA

『ACT (Artists Contemporary TOKAS) Vol.5 引き寄せられた気配』
@トーキョーアーツアンドスペース本郷
2月11日(土)から3月26日(日)まで。
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