「シャネル・ネクサス・ホール」で初個展を開催中のマベル・ポブレット。「海、水」をテーマにした作品で彼女が伝えたいこととは?

BY JUN ISHIDA

画像: 《My Autumn》シリーズより ARTWORK PHOTO COURTESY OF ALEJANDRO GONZALES

《My Autumn》シリーズより
ARTWORK PHOTO COURTESY OF ALEJANDRO GONZALES

 水の中から浮かび上がろうとする人物。飛沫の立つ水面では、煌めきの中、人物が水に溶けてゆくようにも見える。そんなイメージの揺らぎの瞬間を作品化するのは、キューバ人アーティストのマベル・ポブレットだ。写真を断片化し、折り紙のようにピラミッドの形状に折ったものをプレキシガラスの上に重ねてゆくことで、写真とも彫刻ともつかぬ作品を作り出す。ポブレットは現在37歳。フェデロ・カストロ政権下のキューバで育った彼女は、自身の経験をもとに、女性としてのアイデンティティや世界との関わりを問いかける作品を発表している。東京・銀座の「シャネル・ネクサス・ホール」で、日本初となる個展を開催するにあたり、彼女が選んだテーマは「海、水」だ。キューバもまた、日本と同じく四方を海に囲まれた島国である。「WHERE OCEANS MEET」と題した展覧会で、ポブレットが伝えたかったこととは? キューバからおよそ48時間かけて日本にやってきた彼女に聞いた。

画像: 断片化したイメージをピラミッド状に折った集合体が新たなイメージを作り出す。 ©CHANEL

断片化したイメージをピラミッド状に折った集合体が新たなイメージを作り出す。
©CHANEL

―「海」という存在が意味するものは多義的であり、国によって解釈が異なると、展覧会のプレビューでおっしゃっていましたが、キューバの人々にとって「海」はどのような存在なのでしょう?

海は国と国を結びつけたり、離したりするものです。人によって意味するものは異なると思いますが、キューバ人一般にとっては、海とは期待であり希望であり、懐かしさと同時に悲しみを生むものです。

―ネガティブな感情とポジティブな感情が常に同居する存在なのでしょうか?

海のどの岸に立つかで変わってくるのだと思います。キューバ人にとっては、海は限界も意味します。他の国に渡ることを目指し、海で命を落とす人もいますから。2015年に、そうした海を渡る移民をテーマにした作品を制作しました。移民の多くはアメリカを目指しますが、バイデン政権になってからは、より安全な方法でアメリカにいる親戚に会えるようになりました。政治的な意図はありませんが、自分や他の人たちの個人的な経験に基づき作品を作っています。

―あなたにとって「海」とは?

私にとって、海とは自由へのチャレンジです。

画像: キネティックアートの作品《HOMELAND》シリーズより ©CHANEL

キネティックアートの作品《HOMELAND》シリーズより
©CHANEL

―他の国に移り住んで作品制作を行うことを考えたことはありますか?

ありません。キューバは、私のベースであり、インスピレーションを受ける場所です。今もなお、自国の文化を学び続けています。ここから、作品を通じて何かを変革する助けをしてゆければと思います。

―水から浮かび上がるイメージが度々現れますが、このイメージが意味するものは何でしょう?

自分の中から自然と出てくるものなんです。海の中にいると、身体が浮かび上がり音もしないので、カプセルの中にいるか、あるいは宇宙に浮かんでいるようで感覚を覚えます。煉獄のような場所とも言えるかもしれません。人々と国々の間にあるものだと思います。

画像: 様々な土地を旅した写真を使用した《TRAVEL DIARY》シリーズ ©CHANEL

様々な土地を旅した写真を使用した《TRAVEL DIARY》シリーズ
©CHANEL

―折り紙は、日本の折り紙からインスパイアされたのですか?

コロナ禍でアトリエに籠もっていた時に、ピラミッドを作ろうと思いつき出来たものなので、日本を意識したものではありません。ピラミッドは、様々な意味を持ちます。文化によってその意味は異なりますが、私にとっては、誕生から成長、そして人生の最後にたどり着くニルヴァナを意味します。学生時代からクリスタルを用いたピラミッド形の作品を作っていて、いつか紙で作ることを考えていました。積み重ねることにより出来上がるピラミッドは、人々の記憶や生活における価値を表すのだと思います。

―円の形状も度々現れますね。

円は無限を表します。スタートもなければ終わりもない。成長して消滅して、また生まれて。人生のサイクルを表します。

画像: 左奥に展示された円形の作品が最新作となるNFT作品《SUBLIMATION》 ©CHANEL

左奥に展示された円形の作品が最新作となるNFT作品《SUBLIMATION》
©CHANEL

―今回の展示では初めてのNFT作品も発表されました。

私にとってのNFTは、コロナ禍の中で閉鎖的に暮らさなければならない経験から生まれたプラットフォームです。私たちは、オンラインの世界でも生き続けなければなりませんでした。NFTは、私に無限の力を与えてくれるように思えます。例えば、これまでは実際に展示の場に行かなければ鑑賞することができませんでしたが、デジタルデバイスを使えば、場所に囚われず作品を鑑賞することができます。

―今後、取り組んでみたいことは?

特に関心を持っているのは、公共のアートです。都市空間の中で作品を発表したいですね。社会におけるアーティストの役割を考えると、衛生面や環境面に何かしらの貢献ができたらと思います。《ISLAS(島)》のシリーズでは、海の写真の断片を使っていますが、海岸に落ちているものをリサイクルして作品にしてみたい。似たようなことを試みている人はいると思いますが、それぞれの地域で制作し、その地域の衛生概念を刺激する、といったことを考えています。

画像: 没入型のインスタレーション《ISLAS》 ©CHANEL

没入型のインスタレーション《ISLAS》
©CHANEL

―あなたにとってアートは何を意味しますか?
コミュニケーションのための道具ですね。我々に疑問を投げかけてくるものであり、何も訴えてこないものはアートではないと思います。

マベル・ポブレット
アーティスト。1986年キューバ、シエンフエゴス生まれ。写真やビデオ、キネティックアート、パフォーマンス、パブリックアートなど、多彩な技法、手段で作品を制作。2017年、第 57回ヴェネチア・ビエンナーレのキューバ館でインスタレーション作品を展示。

「WHERE OCEANS MEET マベル・ポブレット展」
会期:〜4月2日
会場:シャネル・ネクサス・ホール
住所:東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4階
開館時間:11時〜19時(最終入場〜18時半)
入場料:無休
電話:03(6386)3071
公式サイトはこちら

※4月15日~5月14日「KYOTOGRAPHIE京都国際写真展2023」に巡回

その他の展覧会情報もチェック>>

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.