BY AKIKO ICHIKAWA, PHOTOGRAPHS BY DEAN KAUFMAN
東京と香港を主な拠点とし、今年のロサンゼルスやミルウォーキーでの展覧会をはじめ、ニューヨーク、ロンドン、パリなど世界各国で常に展示や制作を続けるアーティストの加藤泉。本人は「出稼
ぎにいってるんです」と軽い調子だが、その移動自体がモチベーションになっているようだ。「海外ではいつもと違う人、食べ物、空気に触れて、ワクワクする気持ちが増える。それが大事で、すぐじゃなくても制作に関係してくる」と話す。
この秋には京都の建仁寺・両足院で旧友のメキシコ人アーティスト、ボスコ・ソディとの二人展『黙:Speaking in Silence -ボスコ・ソディ&加藤泉』を開催する。出会いは2007年、東京にレジデンス(滞在制作)に来ていたソディが加藤を訪ねたことだ。「初めはよくしゃべるし、メキシコ人に会ったのも初めてだし、ちょっと引いてたんだけど(笑)、それから世界中のいろんなところで会うようになって、仲良くなった。同じようなタイミングでお互いキャリアを積み重ねていって、今は対等に話せる存在」だという。その後、加藤がメキシコに行った際、オアハカにある廃墟の教会で二人展をやろう、という話が持ち上がったが、コロナ禍で中断。次の候補地だった京都での展示の場所が思いがけず早く見つかり、今回の展示につながった。「教会や寺社、モスクとか世界各地の宗教施設で展示ができたらいいね、って飲みながら話してた」
作品は絵画も立体も、ずっと"ひとがた" と呼ばれるモチーフを使って作ってきた。この作風ができた経緯について「日本の美大では絵の基礎として、まるで写真みたいな絵を描くことを教えられる。でも自分はなぜそれが基礎なのかまったく理解できなかった。子どもは丸や点など記号的なもので絵を描くけど、それこそが絵の始まりなんじゃないかと思って。それで自分は子どもには戻れないけれども、基本的なことからやり直そうと、点々などを描きながら、目の前の自分の絵とやり取りをしながらだんだんできてきた。コンセプトありきではなく、造形的でアカデミックに展開している感じです。最初はほかのモチーフもいろいろ描いていたけどボツになって、人の形が残っていった。同じようなことをやっているように見えるかもしれないけど、常に変化している。いつも記録を更新したいというか。スポーツと同じで毎日練習していて、あるとき実る、みたいな感じ」と語る。"ひとがた" に対峙し何を感じるか、何に見えるか、は見る人の自由な想像に委ねたいが、出雲大社がある加藤の出身地、島根特有のアニミズムからの影響もよく指摘される。「八やおよろず百万の神だとか神話的なものが根づいた土地に生まれ育ったことが、自然と作品に影響を与えているかもしれない。ただ、作品に物語性を与えるのは、説明的になって情報が限定されてしまうので避けています。あえて服も着せず、あるのは男と女の区別くらい。なぜこの時代に絵とか彫刻をやっているかというと、自分の考えや生きているということの情報を説明なしで入れやすいから。一方でコンセプチュアルアートになると説明のために作品を作るから、入れる情報量は少なくなる」(後編に続く)
『黙:Speaking in Silence -ボスコ・ソディ&加藤泉』展覧会
メキシコと日本、ふたりのビッグアーティストが自主企画する展覧会。二国は地球の反対側に位置しながら、自然観やプリミティブな信仰などに共通点も多く見られる。京都最古の禅寺、建仁寺の塔頭寺院である両足院を会場にふたりの作品が展示される。会期中は茶会などのイベントも予定。11月2 日〜17日。
公式インスタグラム :@speaking_in_silence_kyoto
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