蔡國強、杉本博司、藤森照信。出自の異なる3人のアーティストが茶室に魅せられる理由

BY YOSHIO SUZUKI, EDITED BY JUN ISHIDA

画像: ここはマンハッタンの築130年の建物、その地下にある茶室躙り口のこちら側から中を望む。多目的な用途も想定され、茶室としては広めの六畳間。炉が切ってあり、水屋も備えた堂々たるものである。「型にはまらないこと。アーティストのニーズに忠実にこたえてユニークな茶室にすること。多様な使い方に対応できること。アーティストの人柄に合わせること」。蔡國強氏から茶室の設計を依頼された建築家の重松象平氏が意識したのはそんなことだった PHOTOGRAPH BY AKIRA YAMADA

ここはマンハッタンの築130年の建物、その地下にある茶室躙り口のこちら側から中を望む。多目的な用途も想定され、茶室としては広めの六畳間。炉が切ってあり、水屋も備えた堂々たるものである。「型にはまらないこと。アーティストのニーズに忠実にこたえてユニークな茶室にすること。多様な使い方に対応できること。アーティストの人柄に合わせること」。蔡國強氏から茶室の設計を依頼された建築家の重松象平氏が意識したのはそんなことだった
PHOTOGRAPH BY AKIRA YAMADA

「茶室は簡素にして俗を離れているから真に外界のわずらわしさを遠ざかった聖堂である。ただ茶室においてのみ人は落ち着いて美の崇拝に身をささげることができる。」(岡倉覚三『茶の本』原文英語、村岡博訳 岩波文庫所収)

 昨年、横浜美術館で大規模な個展『蔡國強展:帰去来』を開催した現代美術家、蔡國強。上海演劇大学で舞台美術を学んだあと筑波大学芸術学群に研究生として在籍し、1995年まで日本で活動。その後、ニューヨークに拠点を移した。火薬を用いた絵画作品や屋外での大規模なパフォーマンスで知られ、文字どおり、「芸術は爆発」が作風である。

 蔡はこのほど、マンハッタンのイーストビレッジにアトリエを完成させた。1885年に建てられた古いビルを改築したもので、建築事務所OMAの重松象平に設計を依頼した。このアトリエ兼オフィスでは、ギャラリーが行うべき業務も自分たちで引き受ける。ときにここでパーティを開くことも。

画像: 蔡國強 氏 PHOTOGRAPH BY AKIRA YAMADA

蔡國強 氏
PHOTOGRAPH BY AKIRA YAMADA

 流暢というほどではないにしても、記者会見やインタビューを日本語でこなす蔡。自分は日本で活動したときに多くの人に支えられ、そのおかげで現代美術家としてデビューできたのだとしばしば語る。そして蔡は2002年、『蔡國強の茶室ー岡倉天心へのオマージュ』という展覧会を彫刻の森美術館で開催している。茶に関して造詣が深いということだろうか。

「日本に来てから茶道を知りました。そこでは人間と自然、人間と人間の関係に思想があります。茶室の中ではビジネスの話や諍いさかい、戦いの話などはしないで、人生とか哲学、自然の美しさを語り合いますね」

 現代アートの都であるニューヨークに、茶室を持ったアトリエを構える。ビジネスの場であり、制作の最前線。それは戦国の武将たちが茶に入れ込む気持ちと通じるものがあるのか。

「アトリエは進行形で日々、時間ごとに変化します。ニューヨーク・タイムズがインタビューに来るといわれればそれ用に準備をし、フランスのテレビクルーが来たら別の対応をする。美術館との打ち合わせをし、直面する問題は次々に解決していかなければならない。そんな中にあって、まわりの時間の流れから超越し、離れた場所が欲しかったのです。アトリエの中で、そこに入れば何も変わらない、空白のような場所をつくっておきたかったのです」

画像1: PHOTOGRAPH BY AKIRA YAMADA

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画像2: PHOTOGRAPH BY AKIRA YAMADA

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 実際に設計をした重松に聞いてみた。茶室に必要な要素はなんだったのだろうか。

「茶室を定義する基本的要素(つくばい、躙にじり口、畳間、床の間、天井)と、その配置や寸法を考えることはもちろんですが、蔡さんからは茶道に特化した空間ではなく、彼が瞑想をしたり、ときに昼寝をしたり、ゲストルームとしても使いたいという要望もいただいていました。ですので、ルールを崩しながらも、シンプルな侘びの雰囲気と茶室がもつ独特の親密性を保つこと、蔡さんが主人として自然にリラックスしたりもてなしたりできることをイメージし、彼の人柄を表現できることに集中しました」

 地下にありながら、自然光を取り入れ、竹林があるのもそういう配慮からだろう。茶室を求められたとき建築家自身は何を考え、どう対応するのか。

「茶室を設計するのは初めてでしたので、実際にお茶の作法を習いに行ったり、茶室もたくさん見学に行きました。伝統的な事例はもちろん、建築家やアーティストが手がけたコンテンポラリーな事例も見ました。造っていくプロセスの中ではニューヨークの裏千家の方に何度か見ていただきました」

 このアトリエ全体はドアや隔たりをできるだけなくして連続性を高めた空間に仕上がっているのだが、唯一、茶室だけは蔡が一人になれる場所ということで遮蔽し、周囲から断絶できるようになっている。

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