近年、ビジネスの“場”やスタイルは大きく変化しつつある。それがもたらすものは効率性やスピードアップだけではない。会員制ビジネス・サロン「kudan house」が志向する、新たなビジネスの感性とは

BY MASANOBU MATSUMOTO, PHOTOGRAPHS BY MAGIC KOBAYASHI

 この秋、東京・九段にある国の登録有形文化財「旧山口萬吉邸」をリノベーションして、会員制ビジネス・サロン「kudan house」がオープンした。この旧山口萬吉邸は、東京タワーの構造設計者としても知られる建築家、内藤多仲が手がけた築91年の洋館。馬車が通れるように作られたエントランスやダンスホールを兼ねた居間、中庭に面したサンルームなどを有し、当時、もっともモダンとされた装飾が残る。サロンの運営を行う株式会社NI-WAの代表取締役、吉川稔氏はオープンするずっと前から「ここを“和のアート”をテーマにしたビジネス・サロンにしたい」と話していた。

画像: 東京・九段の閑静な地に佇む「旧山口萬吉邸」。内藤多仲が構造設計、ガウディを日本にはじめて紹介した今井健次らが意匠設計を担当している COURTESY OF KUDAN HOUSE ほかの写真をみる

東京・九段の閑静な地に佇む「旧山口萬吉邸」。内藤多仲が構造設計、ガウディを日本にはじめて紹介した今井健次らが意匠設計を担当している
COURTESY OF KUDAN HOUSE
ほかの写真をみる

 このところ、“次世代のビジネスにはアート的な発想が必要だ”という考え方が流行している。事実、実践的なスキルよりアートや哲学などリベラル・アーツを重要視する欧米の伝統的な大学やビジネス・スクールが再評価され、一方ではアート・スクールに通うエグゼクティブも増えているという。そうした動向を見据えたうえでの構想だろう。

「通常、ケーススタディをしながらロジカルに分析、判断し、ビジネスをスピーディかつ高度に行うことが良しとされていますが、実際の現場では、それだけでは解決できない重要な問題がたくさん起こります。そして、そういった難題は、必然的に意思決定をするエグゼクティブのところに集まってくるんです。では、世界の一流と呼ばれるエグゼクティブたちは、そのとき、どういうアプローチをとるか。彼らが拠り所にするのは、世界観とか宇宙観といわれるような、抽象的な感性なんです」。そのビジネスに効く感性を学び、共創できる日本発信型の場として「kudan house」は誕生した。

画像: 吉川稔氏は、2001年にリステアホールディングス副社長、2014年にはカフェ・カンパニー副社長に就任。民間委員として「クール・ジャパン官民有識者会議」にも参加した。現在は、都市緑化、省エネ事業などを手がける株式会社東邦レオおよび、その子会社でもある株式会社NI-WAの代表取締役を務める ほかの写真をみる

吉川稔氏は、2001年にリステアホールディングス副社長、2014年にはカフェ・カンパニー副社長に就任。民間委員として「クール・ジャパン官民有識者会議」にも参加した。現在は、都市緑化、省エネ事業などを手がける株式会社東邦レオおよび、その子会社でもある株式会社NI-WAの代表取締役を務める
ほかの写真をみる

 すでにこれまで、“日本の香り”をテーマにした美術家、館鼻則孝の展覧会、“月見とカクテル”“茶とビジネス”のワークショップなどの多様なプログラムが実施されている。また、いわゆる伝統文化にひもづいた内容だけでなく、2019年にW杯を見据えた“ラグビーとビジネス”の座談会など、日本がいま抱える問題に関連したフレッシュなテーマ性のものもある。なかでも好評を博したのが『再構築する日本庭園』と題されたプログラムだ。この冬、オープン時には施工中だった日本庭園が完成。そのお披露目を兼ねて、庭師たちの実演ショーや、ふだんはめったに見られない庭師の道具の展示、関連トークショーが行われた。

画像: オープン記念イベントでは、ゲストスピーカーに隈研吾氏を迎え、20年後の社会について考えるシンポジウムを開催 COURTESY OF KUDAN HOUSE ほかの写真をみる

オープン記念イベントでは、ゲストスピーカーに隈研吾氏を迎え、20年後の社会について考えるシンポジウムを開催
COURTESY OF KUDAN HOUSE
ほかの写真をみる

 この日本庭園こそ、このサロンの象徴的な存在だと吉川氏は言う。造園は、京都・いのはな夢創園の庭師、猪鼻一帆氏が担当。そして、世界的に注目を集めるポートランド日本庭園でガーデン・キュレーターを務める内山貞文氏がコンセプトを監修した。「 “日本庭園とは何?” “造形的に何があれば日本庭園になるの?” “庭師でない僕にも作れるの?” と内山さんを質問攻めして(笑)。そのとき、内山さんから返ってきた言葉は、“日本人が作れば、必然的に日本庭園になる”ということでした。答えや型があるようで、ない。要は心の問題。その“正解がないもの”をどう掘り下げて、自分で問いを立てられるか——それはビジネスに必要な発想だと思いましたし、まさに、正解があるようでないものに取り組む『kudan house』のシンボルだろう、と」

画像: 庭の制作は、京都・いのはな夢創園の庭師、猪鼻一帆氏が担当。「日本庭園は時代ごとに“革新”が起こり、変化しながら今に至るそうです。しかし、近年は日本人の生活スタイルが変わり、若手が力を試す場がない。それならばここでイノベーティブな日本庭園に挑んでもらおう、と猪鼻さんにお願いしました」 ほかの写真をみる

庭の制作は、京都・いのはな夢創園の庭師、猪鼻一帆氏が担当。「日本庭園は時代ごとに“革新”が起こり、変化しながら今に至るそうです。しかし、近年は日本人の生活スタイルが変わり、若手が力を試す場がない。それならばここでイノベーティブな日本庭園に挑んでもらおう、と猪鼻さんにお願いしました」
ほかの写真をみる

画像: 外部からスピーカーを迎え、さまざまなテーマのトークセッションを行う座談会形式のプログラム「KAKUREGA」もスタート。2019年1月以降も随時、開催予定 COURTESY OF KUDAN HOUSE ほかの写真をみる

外部からスピーカーを迎え、さまざまなテーマのトークセッションを行う座談会形式のプログラム「KAKUREGA」もスタート。2019年1月以降も随時、開催予定
COURTESY OF KUDAN HOUSE
ほかの写真をみる

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.