毎年4月にミラノで開催される、世界最大のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」。2019年の注目すべきトピックとは? 第2回は、先進技術と手作り感をミックスしたノマド層向けの家具にフォーカス

BY KANAE HASEGAWA

 居場所を多拠点に設け、地球儀を回すかのように軽々と国境を越え移動する人――いわゆる「ノマド」の数は世界的に増えているようだ。「こうした生活形態の変化に合わせて、住まいのあり方も見直す必要があると感じたのです」。こう語るのは、スイス、ローザンヌを拠点にするデザイン事務所、「Panter & Tourron(パンター・アンド・トゥーロン)」のアレクシス・トゥーロン。

 昨年、サンフランシスコで「Airbnb(エアビーアンドビー)」の主宰するデザインラボに半年間、参加し、世界各地から集ったクリエイターたちと議論を交わす中で気づいたのだという。「従来のような、家に家具を備え付けるという考え方も柔軟に変えていかなくては」と続ける。リサーチを進める中で考えたのは、既存の技術と素材を生かした“移動に適した家具”の提案だった。そのヒントになったのは、軽量かつ耐久性の求められる航空産業向けや、衝撃から身体を守ることが求められるスポーツ産業向けに開発された素材と技術だ。これらをもとに5つのアイテムからなる家具のセットをデザインし、ミラノデザインウィーク中に初めて披露した。

画像: ノマド層向けに提案する家具のコレクション「Tense(テンス)」。向かって右のルームデバイダーは多くの都市にある3Dニッティングマシンで編み上げることが可能

ノマド層向けに提案する家具のコレクション「Tense(テンス)」。向かって右のルームデバイダーは多くの都市にある3Dニッティングマシンで編み上げることが可能

「Tense (テンス)」と名付けられたセットは、ラウンジチェア、ローテーブル、ルームデバイダー、ウォールランプ、シーリングランプの5つのアイテムからなる。いずれも、使う人がパーツを組み立て、居場所を移すときには解体して持ち運ぶことを想定したデザインとなっている。どんなところでも組み立てられるように、工具を一切必要とせず、面を引っ張った時に起きる「テンション=張力」を利用することで形になるというものだ。

 ラウンジチェアはU字型に折り曲げた合板の上からウェットスーツに使われているネオプレン素材をカバーのように覆い、ファスナーで閉じることでできている。折り曲げられた合板の広がろうとする張力と、それを抑制するネオプレンのみで自立する、構造を持たないチェアだ。総重量10kg以下というから女性でも持ち運び可能だろう。

画像: 「Tense ラウンジチェア」 動かさなくてもいい家具から、持ち運ぶための家具へと発想の転換。そのために家具の作り方そのものを変えた

「Tense ラウンジチェア」
動かさなくてもいい家具から、持ち運ぶための家具へと発想の転換。そのために家具の作り方そのものを変えた

画像1: ミラノデザインウィーク・レポート
Vol.2 
移動性の高い
ノマド層に向けた家具の提案

 ローテーブルも工具を使うことなく組み立て可能。2枚のスチール板を曲げて筒状の脚を作り、この筒の円周がピッタリとはまるように、アルミニウムのテーブルトップに設けた溝に筒をはめ込むと、筒の張力で自立するテーブルが完成する。

画像: 「Tense ローテーブル」 アウトドア用ギアの構造を参考にした作り

「Tense ローテーブル」
アウトドア用ギアの構造を参考にした作り

画像2: ミラノデザインウィーク・レポート
Vol.2 
移動性の高い
ノマド層に向けた家具の提案

 何もないところに到着したとき、なにはさておき欲しいのが灯りだ。そうした環境に置かれた人のために、電気業者の手を借りなくても、使う人が照明を組み立て、解体できるシーリングランプも作った。2枚のデュポン社製不織布タイベックの中にLEDシートを仕込んだだけの照明器具は、キャンプで使うテントの構造からヒントを得たという。一般的な紙よりはるかに軽く、汚れにも強いタイベックは、通常、防護服や医療といった機能性を追求した現場で使われる。しかし、和紙にも通じるタイベックの繊細さをランプシェードに転用したこのアイテムは、ミラノデザインウィーク中、多くの問い合わせがあったという。

画像: 「Tense シーリングランプ」 丸いアルミニウムの枠に不織布のタイベックを被せたその張力からおのずと生まれるフォルム

「Tense シーリングランプ」
丸いアルミニウムの枠に不織布のタイベックを被せたその張力からおのずと生まれるフォルム

画像: PHOTOGRAPHS: COURTESY OF PANTER & TOURRON

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF PANTER & TOURRON

 いずれも既存のハイテク素材を借りながら、自分たちで組み立て、解体するという手作り感を交えたハイブリッドさは、現代らしいモノづくりの姿でもあると思う。じつは、デザインデュオのパンター・アンド・トゥーロンはエルメス、クリストフル、ルイナールといった歴史あるメゾンとも協業している。今後、こうしたラグジュアリーメゾンからも今回のようなノマドコレクションが登場するかもしれないと思うと頼もしい。

 

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