グルメ食材店「DEAN & DELUCA」を生み、そのムダのない美学によって米国のキッチンのありようを根底から変えてしまった男がいる。彼は今、実用的でありながらロマンティックな海辺の家で暮らしている

BY KURT SOLLER, PHOTOGRAPHS BY BLAINE DAVIS, PRODUCED BY COLIN KING, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA

 セグリックの美学は、のちに(「ハイスタイル」と「テクノロジー」を合わせて)ハイテクデザインと呼ばれた大きなムーブメントの一角をなし、長いあいだ影響力を持ち続け、キッチンの新しい時代の到来を招くことになった。「DEAN & DELUCA」でイタリア産のシーズニングソルトを買うようになったヤッピーたち(小説『アメリカン・サイコ』で描かれた80年代後半のエリートビジネスマン、パトリック・ベイトマンの世代)は、木製の戸棚やフォーマイカ(合成樹脂)の調理台の代わりに、オープンシェルフやアルミ製の調味料入れ、キャスターつきのステンレススチール・ワゴンを買い揃えた。

これに、プロが使うようなごつい料理道具と、インポートもののおしゃれなナイフやパイレックスのボウルを調達すれば、本格的なレストランのキッチンと、独身で料理上手という男のファンタジーをかけ合わせたような演出効果が得られるというわけだ。キッチンといえば、それまでは女性の領域で奥に引っ込んだ存在だった。しかしこの「使い勝手のいいキッチン」というわかりやすい再定義は、瞬く間に近代的なアメリカンホームの中心的存在として全米に広まった。そして、万人受けするこのスタイルは、「業務用」と「家庭用」の境を曖昧にしてしまった。

画像: メインの浴室。オーストラリア産のシダの木がコーラー社製のバスタブを覆うように置かれている

メインの浴室。オーストラリア産のシダの木がコーラー社製のバスタブを覆うように置かれている

 セグリック自身、現在も実生活でこのスタイルを貫いている。レトロな風情あふれるニューヨーク州イーストハンプトンの目抜き通りから数ブロック離れ、小石が敷き詰められた歩道を下っていくと、平地に建つ新築の納屋のような家が見えてくる。セグリックが週末を過ごす家だ。裏手にはむきだしのコンクリートの壁に囲まれた中庭があり、周りにはシダが生い茂っている。広さは約214㎡。18年前、ディーンとふたりで過ごすために彼自身がデザインした家は、この付近に建っている板葺き屋根のある農家風の茶色っぽい家や、素朴なジョージアスタイルの家と静かな対照をなしている。

この家はすべて、あらかじめ長さを揃えて鍛造(たんぞう)したスタンディングシーム(板金の縁を折り曲げてつなげる工法)のスチールでできている。手がけたのは、航空機の格納庫など工業用の建築物を専門とするオハイオ州の会社だ。ロングアイランドの空によくなじむ青みを帯びた鋼色のクールな風合いで、20年はもつとメーカーが保証している。

高さが6mほどもある幅の狭い窓は、ソーホーの小売店のショーウィンドウによく使われているタイプだ。玄関には、消防署の標準仕様で、ドアの上下が別々に開閉する「ダッチドア」がついている。長さが15mもあるメインのリビングスペース(セグリックはここを「プラザ」と呼ぶ)の床にはコンクリートを敷き詰め、コイル式の輻射熱床暖房が設置されている。壁は白い石膏でなめらかに仕上げられ、上部には3つの南向きの天窓がある。

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