グルメ食材店「DEAN & DELUCA」を生み、そのムダのない美学によって米国のキッチンのありようを根底から変えてしまった男がいる。彼は今、実用的でありながらロマンティックな海辺の家で暮らしている

BY KURT SOLLER, PHOTOGRAPHS BY BLAINE DAVIS, PRODUCED BY COLIN KING, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA

 セグリックはここで、パートナーで建築家のマヌエル・フェルナンデス=カステレイロ(66歳)と暮らしている。14年前、ふたりは共通の友人を通じて知り合った。フェルナンデス=カステレイロの設計事務所はシンプルを極めた住宅プロジェクトを手がけており、そのひとつがセグリックの家と似ていると友人が話したことがきっかけだ。「この家を見に来たときは、思わず『いったい、どういうことだ!』と口にしていましたよ」と彼は言う。そばにいたセグリックが「私たちふたりは同じ考えを持っていたというわけだ」と言いかけるなか、フェルナンデス=カステレイロはそのときのことを具体的に説明し始めた。

 ふたりの考えが一致していたのは幸いだった。ハイテク・ムーブメントそのものを反映したような彼らの住まいは、ありきたりのデザイン様式を踏襲することはほぼないからだ。それどころか、彼らの家のデザインは、これまで住宅に使われてきた陳腐なものをそぎ落とすという決意表明でさえある。ふたりには、「やらないほうがいいこと」と「捨てるべきもの」がわかっているのだ。たとえば、この家の室内にはドアがとても少ない。レストランでよく見るアルミ製のスイングドアがトイレの目隠しに使われているのと、物置用の大きな引き戸が別のトイレを隠すのに使われているくらいだ。

画像: ふたりが使うベッドのリネンは「デ・ポルトー」のもの。自在に組み替えられる棚は、モダン・オフィス・システム社製

ふたりが使うベッドのリネンは「デ・ポルトー」のもの。自在に組み替えられる棚は、モダン・オフィス・システム社製

寝室にはフレームが布張りのベッドがあるだけで、周囲を囲む白色のスチール棚には建築やデザインの本が並んでいる。この寝室は、巻き貝のような独創的なかたちをしたマスタースイートの中央にある。中に入って歩を進めると、ふたりが買い集めたコンテンポラリーアートの作品を隠したウォークイン・クロゼットがある。アンディ・ウォーホルの描画や、ヴォルフガング・ティルマンスやキャサリン・オピーの写真といったコレクションだ。

さらに奥には、もともとは病院用につくられた陶製の深いバスタブが置かれている。メインの部屋は、あえて壁をむきだしにしてある。「目に入ってくるノイズがわずらわしいから」とセグリックは言う。「ここでディナーパーティをするとき、食卓を囲んでいる人たちがポートレートのように見えたら素敵だと思うんだ」。電気のスイッチでさえ、彼の視界に入って邪魔にならないようにするため床から約71㎝という低い位置に取りつけられている。

 想像されるとおり、この家はほぼ“食”を中心にデザインされている。食材の買い出しはフェルナンデス=カステレイロ、料理はセグリックの担当だ。セグリックは記憶を頼りにシンプルなものを作るが、たまに1996年に刊行された『DEAN & DELUCA』の料理本を参考にすることもある。狭いキッチンには、細かく指定されたステンレススチール製の設備が取りつけられ、ムダな動きをすることなく料理ができるようにきっちりと設計されている。調理台の高さは、セグリックのウエストに合わせて、標準よりも5cmほど低い約86cm。アイランドキッチンと、その後ろにあるオーブンのあいだも約86cm。ダブルの流し台など問題外だ。

これらはすべて、「DEAN & DELUCA」でセグリックのアシスタントをしていた人物が経営するロングアイランドの設備会社で調達したものだ。セグリックとフェルナンデス= カステレイロのふたりは、渡り板のように長いマホガニーのテーブルで食事をする。これは80年代初期に、セグリックの友人であるジョセフ・ダルソに依頼した特注品だ。彼もまた、ハイテクデザインの先駆者である。このテーブルには、ライトブルーのペンキを塗ったスチール製の椅子を合わせている。デ・ステイル派(上下左右の直線を駆使したモンドリアンらが率いた新造形主義)の作風で、オランダの建築家J.J.P.アウトが1927年にデザインしたものだ。 

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