世界が注目する建築家・石上純也。彼の才能に魅せられ、パリに続き上海で開催中の展覧会「石上純也 ― FREEING ARCHITECTURE」を企画した、カルティエ現代美術財団ゼネラル・ディレクター、エルベ・シャンデスに話を聞いた

BY JUN ISHIDA

 パリ、カルティエ現代美術財団で大成功を収め、中国・上海への巡回を果たした建築家、石上純也の展覧会。「石上純也 ― FREEING ARCHITECTURE」は、石上の過去そして現在進行中のプロジェクトの模型やスケッチを展示したものだ。中国初の公営現代美術館「上海当代芸術博物館(The Power Station of Art)」で始まった展覧会は、パリで行われたものとほぼ同じ内容でありながらも、会場の大きさも構成も異なり、また別の新しい展示を見ているような印象を抱く。カルティエ現代美術財団の顔とも言える名物ディレクター、エルベ・シャンデスに、今回の展覧会の見所について聞いた。

―― 昨年、パリのカルティエ現代美術財団で行われた石上さんの展覧会は、展示期間を延長するほどの成功を収めましたね。

 石上は、2010年のヴェネチア・ビエンナーレ建築展で金獅子賞をとりましたから、建築やデザインの世界では知られていましたが、パリの一般の人には全く知られていない存在でした。しかし展覧会が始まると驚くほど多くの人がやってきました。子供連れの家族も多く、建築やデザインの展覧会では珍しいことです。

画像: 山口県宇部市に建設中の住宅兼レストラン「house & restaurant」の模型。地面を掘り、コンクリートを流し込むことで、洞窟のような空間を作っている ©️ CARTIER

山口県宇部市に建設中の住宅兼レストラン「house & restaurant」の模型。地面を掘り、コンクリートを流し込むことで、洞窟のような空間を作っている
©️ CARTIER

―― 一人の建築家の個展を行うのは、カルティエ財団では石上さんが初めてですよね?

 そうです。彼の作品を初めて見たのは、2007年の東京都現代美術館での展示でした。『四角いふうせん』という巨大なアルミ造の立体物で、中にヘリウムガスが入っているため空中にふわりと浮いていました。その姿に圧倒され、いったい彼は何をしている人物なのかと知りたくなりました。かつてなく美しく、驚きにあふれ喜びに満ちている。しかも繊細で力強い。彼はヴィジョネアだと思いました。それ以来ずっと、いつか彼と展覧会を作りたいと思っていました。

画像: 石上純也(JYUNYA ISHIGAMI) 1974年神奈川県生まれ。SANAAを経て、2004年に独立し、石上純也建築設計事務所設立。2010年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞受賞。代表作に「神奈川工科大学KAIT工房」(2008年)、ボタニカルガーデンアートビオトープ「水庭」(2018年)など ©️ CARTIER

石上純也(JYUNYA ISHIGAMI)
1974年神奈川県生まれ。SANAAを経て、2004年に独立し、石上純也建築設計事務所設立。2010年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞受賞。代表作に「神奈川工科大学KAIT工房」(2008年)、ボタニカルガーデンアートビオトープ「水庭」(2018年)など
©️ CARTIER

―― 実際に、石上さんと展覧会を作ってみていかがでしたか?

 彼は他の建築家とは全く異なります。すべてのプロジェクトが特別で、一つのスタイルやアイデアを発展させてゆくものではなく、場所やコンテクスト、クライアントに捧げられたものになっています。ですから、展示されている模型も全て異なります。確かに石上の世界なのですが、バラエティが豊かなのです。そして、彼の作品に関しもう一つ独自な点は、作品の中に自然を包括しているところです。自然との関係がユニークで、彼は植物、海、風などの自然のエレメンツについて考えています。他の建築家は自然を一般的な考え方で捉え、自然を装飾として用いていますが、石上はもっと深く考え、作品そのものから自然のエレメンツを感じることができます。これはとても特別なことです。

画像: ©️ CARTIER

©️ CARTIER

画像: (写真2点) 那須にあるボタニカルガーデン アート ビオトープ「水庭」のプラン。開発のため撤去しなければならなかった400本弱の木を隣接する土地に移植した。壁に貼られているのは400本弱の木の形状 ©️ CARTIER

(写真2点)
那須にあるボタニカルガーデン アート ビオトープ「水庭」のプラン。開発のため撤去しなければならなかった400本弱の木を隣接する土地に移植した。壁に貼られているのは400本弱の木の形状
©️ CARTIER

―― ジャン・ヌーヴェル設計のカルティエ現代美術財団の建物は、ガラス張りで周囲が植物に囲まれていて、そうした環境と石上さんの展示が一体化しているようにも思えました。

 パリでのオープニングで、ジャン・ヌーヴェルは会場内に入った途端に「うわっ」と声をあげました。そして良く出来た展示だと喜んでいました。ジャンは、建築とは理性や思考よりも感情に訴えかけるものと述べていますが、それは石上の作品にも通じます。

―― それに対して今回の「上海当代芸術博物館(The Power Station of Art)」は発電所を改装した建物で、窓のない閉じた空間です。石上さんは、広いワンフロアをいくつもの部屋に分け、プロジェクトごとに展示しています。

 展覧会のメタモルフォーズですね。彼は建築家ですから、展示を見直すのに最適な人物です。上海の展示には、人を沈黙の状態に導くような何かがあると思います。もっと静かで、瞑想的というか。教会にいるようですね。何よりも好きなのは、散歩道を歩くように展示室を練り歩くことです。パリは、大きな一つの空間内に全てが展示されているので、一目で見渡すことができました。

画像: ロンドンの夏の名物である「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」。毎年、建築家がデザインを担当し、今年は石上が手がけた。石が一枚一枚積み重なった屋根の細部まで模型で再現されている ©️ CARTIER

ロンドンの夏の名物である「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン」。毎年、建築家がデザインを担当し、今年は石上が手がけた。石が一枚一枚積み重なった屋根の細部まで模型で再現されている
©️ CARTIER

上海は、まるで彼の世界へとつながる散歩道とでもいいましょうか。各展示室の大きさは全て異なり、各部屋を覗き見るように、発見するように巡ってゆきます。ゆっくりと時間を過ごす旅ですね。石上は、初めての個展で、新しい美学に基づいた建築の展覧会を行ないました。展示でも建築でも、彼は人々を自分の世界に引き込むようにデザインすることができます。彼は40代で、建築家としてはまだ若い。これからが楽しみですね。

画像: 上海当代芸術博物館の外観 ©️ CARTIER

上海当代芸術博物館の外観
©️ CARTIER

―― 近年では、多くのラグジュアリーブランドがアートスペースを設けるようになりましたが、カルティエ現代美術財団はその先駆けです。他の組織とは異なる、カルティエ現代美術財団の特徴とはなんでしょう?

 私たちは、スタートしたその日から変わらぬアイデアに基づいて展覧会を行っています。それは、新しい才能の発見、国際性というものです。新しい才能の発見は、若い人々に限定されたものではありません。私たちは全ての世代に注目しています。カルティエ現代美術財団で行なった横尾忠則や村上隆、北野武の展覧会は、日本以外で行われた最初の大きな展示となりました。

また私たちは実験的なプログラムにも挑戦します。現在はアーティスト、植物学者、哲学者とともに作った「Trees」という展覧会を行っていますが、これまでにも科学や数学、あるいは難民や気候をテーマとしたものに取り組みました。数学にまつわる展覧会をやりたいと財団のトップに話した時、「うん、いいよ」と1分で決まりました。私たちには信頼関係があり、だからこそ直感でいいと思った企画を素早く実行に移すことができます。

アーティストとの関係も一つのプロジェクトで終わるのではなく、その後も続いてゆきます。私たちの間には、コミュニティができているんです。プロジェクトのあるなしに関わらず、常にアーティストと話をし、アイデアを共有する。これはカルティエ現代美術財団ならではのことだと思います。

HERVÉ CHANDÈS(エルベ・シャンデス)
カルティエ現代美術財団ゼネラル・ディレクター。1985年にカルティエ現代美術財団に入社し、90年より財団の海外進出や活動を推進する役割を担う。92年よりディレクター兼キュレーターに就任
© RAYMOND DEPARDON

「石上純也 ― FREEING ARCHITECTURE」
会期:〜10月7日(月)
会場:上海当代芸術博物館(The Power Station of Art)
住所: 200 Hua Yuan Gang Lu, Huangpu Qu, Shanghai Shi
開場時間:11:00~19:00(入場は18:00まで)
休館日:月曜日
公式サイト

 

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