アヴァンギャルドのアーティストから建築家に転身した荒川修作とマドリン・ギンズ夫妻にとって、“永遠の命”はただの夢ではなかった。不自由な生活に身をおきさえすれば、人間は永遠に生きられると信じていた

BY MARIE DOEZEMA, PHOTOGRAPHS BY MATT HARRINGTON, TRANSLATED BY FUJIKO OKAMOTO

 荒川とギンズはこうした個人住宅の他に、公共施設の建築も手がけた。名古屋から48キロほど北西に位置する岐阜県養老町にある≪養老天命反転地≫(1995年)は、ビックリハウスやアスレチックコースからなるテーマパーク。若いカップルも家族連れも楽しめる場所として人気がある。約18,000m²の広大な敷地には鮮やかな色彩の建物に加え、迷路、起伏の激しい丘、坂道が点在している。急な傾斜や思いがけない窪み、死角など危険な場所もあるため、ヘルメットや運動靴を無料で貸し出している。野ざらしにされたシンクや机、ベッドの枠、ソファ、マットレス、便器などの生活用品が至るところに配置され、迷路のような建物の天井や壁に埋め込まれていたり、埋蔵品のように地中に埋まっているのが通路のガラス越しに見えたりする。こうしたガラクタは人々に何かを問いかけているように思える。「これってそんなに必要なものなの?」「モノのほうが人間より長もちするなんて。人間の存在って何なの?」

画像: 岐阜県養老町にある約18,000m²のテーマパークにある≪養老天命反転地オフィス≫の内装

岐阜県養老町にある約18,000m²のテーマパークにある≪養老天命反転地オフィス≫の内装

 40年以上にわたって共同制作を続けた荒川とギンズは2008年、彼らの米国での唯一の住宅プロジェクト≪バイオスクリーブ・ハウス:寿命を延ばす家≫をニューヨークのイースト・ハンプトンに完成させた。イタリアのアートコレクターであるアンジェラ・ガルマンの依頼を受け、プレハブ工法の第一人者カール・コッチによる約84m²のAフレーム構造に251m²の増築を行った。

≪三鷹天命反転住宅≫のコンセプトを極限まで追求した≪バイオスクリーブ・ハウス≫は、内外装に約48色(アクアマリン、バブルガム・ピンク、ケリー・グリーンなど)の鮮やかな色が施されている。開放的なリビングの周りに4つの長方形の部屋が配置され、真ん中の一段下がった位置にキッチンがある。メインルームのリビングの土を固めた床は三鷹の住宅よりずっと傾斜角度がきつく、鮮やかな12色の柱は単なる飾りではなく、つかまってバランスを取るために必要不可欠なものだ。窓は目の高さより上か床に近い位置に、照明スイッチは斜めに設置され、三鷹と同様に屋内の各部屋にはドアがない。

画像: 荒川修作&マドリン・ギンズの米国における唯一の住宅作品≪バイオス クリーブ・ハウス≫の裏手。窓は意図的に方向感覚を失わせる場所につくられている。常に居住者がいたわけではない

荒川修作&マドリン・ギンズの米国における唯一の住宅作品≪バイオス クリーブ・ハウス≫の裏手。窓は意図的に方向感覚を失わせる場所につくられている。常に居住者がいたわけではない

 建築の教育を受けたことがなく、アメリカで建築作品を発表したこともないアーティストならあり得る話だが、この建築プロジェクトは予算を大幅に超過してしまった。進行の遅れとコストの上昇に業を煮やした建築主のガルマンは、完成を待たずに建設中止を決めた。2007年にこの建物を購入した匿名の投資家グループが1年後に完成させたが、ほんのたまにしか人が住むことはなかった。今年に入って129万ドルで売りに出されたものの買い手はつかなかった。20世紀半ばに建てられた質素な別荘に加えて、新しい豪華な別荘が立ち並ぶイースト・ハンプトンでひときわ目立つラディカルな建物≪バイオスクリーブ・ハウス≫。お金でほとんど何でも買える高級別荘地で買えないものは“永遠の命”だけといっているかのようだ。

 誰に聞いても、共生関係にあったという荒川とギンズだったが、永遠の命の探求は荒川の死をもって終わることはなかった。2013年にはコム デ ギャルソンの創業者でデザイナーの川久保玲の依頼を受けて、ギンズの最後のプロジェクトが、マンハッタンにオープンした「ドーバーストリートマーケット」の新店舗に完成した。

画像: 岡山県の奈義町現代美術館の常設インスタレーション太陽≪遍在の湯・奈義の龍安寺・建築する身体≫(1994年)は感覚に挑戦する円筒形の部屋

岡山県の奈義町現代美術館の常設インスタレーション太陽≪遍在の湯・奈義の龍安寺・建築する身体≫(1994年)は感覚に挑戦する円筒形の部屋

≪Biotopological Scale-Juggling Escalator≫と題するそのインスタレーションは、淡い黄緑色の洞窟のような漆喰のトンネルの中に階段がつくられている。ショッキングピンクとへこみのある紫色の両側の壁はオフホワイトの天井に向かって徐々に明るい色調に変わっていく。階段から見えるインスタレーション4点は、荒川とギンズが作品で表現した環境の縮小模型。その中には未知の環境を探索しているミニチュアのフィギュアが置かれている。この作品は小さいながら力強さを感じさせ、いつでも立ち寄って荒川とギンズが生涯をかけて追求したテーマに思いを馳せることができる。彼らは「永遠に生きる」という難題を解けなかったかもしれないが、当面はこの階段がピラミッドのように魂を永遠の世界へと導いてくれるだろう。

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