手に触れ、その香りをかぐ。そのとき、薔薇は薔薇として、より美しく鮮烈に人の心に花開く。日本でしか作り得ない新しい花の姿を追求する実験的なファームを、初秋の琵琶湖畔に訪ねた

BY MICHIKO OTANI, PHOTOGRAPHS BY YUKO CHIBA

画像: 啓司さん(右)と健一さん(左)。新しい薔薇を育て、それを広める親子のリレーは続く

啓司さん(右)と健一さん(左)。新しい薔薇を育て、それを広める親子のリレーは続く

 和ばらの魅力のひとつとなっているのが、物語性豊かな名前。この名を國枝さんとともに考えているのが2006年からファームに参加している長男の健一さんだ。たとえば、コスモス秋桜のように風に揺れる薔薇を作りたいと父が生み出した品種に、健一さんがつけた名前は「かぜたちぬ」。花を揺らした風に香りが乗り、遠くまで運ばれていく様子をイメージしたという。

「父の名付けは、わりと第一印象から。僕は言葉の由来を調べたり、その花のうつろい方だったりを意識しながらつけています。でも、けっこう苦心していて、1年前に誕生したのにまだ『新品種』という仮の名前しかついていないものもあるんです」

画像: すでに栽培が始まった「新品種2」

すでに栽培が始まった「新品種2」

 大学までサッカーに打ち込み、卒業後は会社員をして「薔薇なんて絶対やらへん、と思っていた」と笑う健一さん。その思いが変化したのは、やはり父と同じく、自分の行く道を探す過程でのことだった。

「若いときに留学を経験したこともあって、いずれは自分も海外で何かしたいと思っていた。でもそのためには何かしら自分特有のものがなければならない、それが何なのかと......。もうひとつは、自分にとっては幼い頃から当たり前に身近なものだった薔薇が、人に贈るとすごく喜ばれるものだと知ったこと。生産者には、花を受け取る人の表情が全然見えていないんですね」

 市場にない新しい薔薇を、父は作る。ならば、その価値と花のある生活の豊かさを伝えるのが、自分にできること。健一さんはそうして、薔薇に触れることを目的としたカフェの経営や食品などの商品開発、イべントの開催やファッションブランドとのコラボレーションなど、新たな活動を模索し実行に移している。根底にあるのは、「すべての答えは農場にある」という信念。自ら考え、身の内の力で生きる薔薇の、自然なあり方を伝えることに注力している。

画像: 守山駅前の「WABARA Café」 店内には至るところに薔薇に触れる仕掛けがあり、「薔薇を気軽に生活に取り入れてほしい」と健一さん。今年秋にはファーム内へ移転する予定 滋賀県守山市勝部1-13-1-101 TEL. 07(7596)3070 営業時間:11:00〜20:00 定休日:月・火曜(祝日の場合は営業)

守山駅前の「WABARA Café」
店内には至るところに薔薇に触れる仕掛けがあり、「薔薇を気軽に生活に取り入れてほしい」と健一さん。今年秋にはファーム内へ移転する予定
滋賀県守山市勝部1-13-1-101
TEL. 07(7596)3070
営業時間:11:00〜20:00
定休日:月・火曜(祝日の場合は営業)

画像: (写真左)食用の薔薇を茶葉やシロップなどに加工し、スイーツほかさまざまなメニューを展開。ダマスクローズが香る「WABARA ジェラート」¥650 (写真右)ファームの薔薇をプールに浮かべてすくう「和ばらすくい」は、夏のカフェで人気

(写真左)食用の薔薇を茶葉やシロップなどに加工し、スイーツほかさまざまなメニューを展開。ダマスクローズが香る「WABARA ジェラート」¥650
(写真右)ファームの薔薇をプールに浮かべてすくう「和ばらすくい」は、夏のカフェで人気

「父と同じように、あるときから規格というものを捨てたんです。『まったく同じ薔薇なんて、ない』と。それに、規格がないほうが絶対に面白い。ディスプレイをするときも『こう見せたい』という作為は加えず、自然に咲いたままの姿を見てもらうし、ブーケにするときも手に取った感覚で束ねてもらえればと思っています。ひと口に薔薇といっても、色も香りも咲き方も日々、瞬間瞬間うつろっていく。変化することが自然な、命あるものの表現なんだということを大事にして、流行ではない、自分たちがいいと思う価値観をしっかり示していきたいんです」

 最近、自然科学分野の研究者だった健一さんの弟が加わり、「和ばら」から作る新しいプロダクトの開発も進んでいる。いずれは、産地訪問を県の観光拠点にしたいという目標も生まれた。薔薇と同様に、それを生み出す人の心やあり方も日々変化し、いつか思いがけない形で花開く。ふと、薔薇に触れた指の匂いをかぐと、姿はもうない薔薇の香りが、確かにそこに宿っていた。

 

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