プライベートとパブリック、内と外、建築と自然といった相反する要素の関係性を探りつづけてきた藤本壮介。彼は現代建築界の傑出したコンセプチュアルアーティストだ

BY NIKIL SAVAL, PHOTOGRAPHS BY BENJAMIN HOSKING, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 建築とは人が暮らす場所であり、周辺の住民と共生するものだが、シンボルや比喩的要素が目立った建造物は多い。建築家の知的な満足度と、空間の利便性とは必ずしも一致しないものだ。その典型例が、エーロ・サーリネンが設計した、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港《TWAターミナル》(1962年完成)である。空に向かって曲線を描いたシェル構造(註:薄い曲面板から成る建築構造)の屋根は鳥の翼を思わせるが、建築家兼評論家トーマス・ド・モンショーは最近ある記事で、TWAターミナルは「美しいが、変化に対応できない」と綴っている。世界のあらゆる空港と同様、JFK空港の旅客数はここ数十年で爆発的に増加したのだ(1962年には年間1,150万人だったが、現在は約6,200万人)。

昨年、このターミナルは出発ゲートとしての機能を失ってホテルのロビーに生まれ変わり、シンボリックな、郷愁を誘う過去の遺物と化した。空を飛ぶことが人類最大の夢だった過去から、地球破壊に加担する、狭苦しい不快な移動手段とみなされる時代へと変化したのである。建築の中にある自然と、自然の中にある建築の要素を絶えず表現する藤本のコンセプトは、ときに立地環境や空間に必要な調和や実用性を凌駕してしまう。藤本らしい様式やテーマがあるとするなら、まさにこれがその特徴だろう。スペインの劇場設計コンペで2位になったのは、典型的なブラックボックス(註:黒い壁に囲まれた空間)とは対極の、開放感と透過性がある、雲のように渦巻いたコンクリート建築のアートセンターだった。セルビアの首都、ベオグラードの《ベトン・ハラ・ウォーターフロントセンター》のコンペでは、さまざまな流れ(人や交通、歴史や思考など)が絡み合うというアイデアのもと、スペインの劇場案に似た雲の構造を採り入れた。

また、南仏モンペリエの風土を意識した、真っ白なコンクリートの高層集合住宅《L’ Arbre Blanc(白い木)》(2019年竣工)は、各戸から巨大なバルコニーが突き出ていて、写真で見るとまさに木のようだ。だが従来の高層建築の常識を覆すという考え以外に、この住宅を設計するうえで木の形であることにどんな価値があるかはわからない。「いろいろなフォルムの建物をつくり出してきましたが、建築物の文化的背景はフォルムそのものよりも、使う材料に反映させています」と藤本。ベオグラードのウォーターフロント・プロジェクトでは、付近にそびえる中世の城郭を象徴した古い石を用いた。

画像: 瀬戸内海のアート島、直島の宮浦港にある、ステンレスメッシュでつくられた藤本壮介の作品《直島パヴィリオン》(2015年完成)

瀬戸内海のアート島、直島の宮浦港にある、ステンレスメッシュでつくられた藤本壮介の作品《直島パヴィリオン》(2015年完成)

 ロンドンのケンジントン・ガーデンでは、毎年、有名建築家がデザインする《サーペンタイン・パビリオン》が期間限定で展示される。2013年にその依頼を受けたのが、歴代最年少の藤本だった。彼は大胆なコンセプトと建築の機能性を巧みに融合し、ひときわ異彩を放つパビリオンを生み出した。「これまでのアイデアの集大成となる作品を披露できるチャンスでしたが、過去のアイデアの繰り返しは避けたくて。だから、あらゆるコンセプトを結晶化させてひとつのクリアな形にしたんです」

コンセプトの策定に与えられた一カ月間、さまざまな案を吟味した。ステンレスのミラーフレームが周囲の緑を映し出し、緑の中に溶けて消えたように見える建物(彼はこの案を「クレイジー」と呼んでいる)も考えたが、最終的に“消失”より“透明”というテーマを選んだ。こうして最終案は《House NA》のように白いパイプを格子状に組んだ構造物になった。完成したパビリオンは、雲の形そのものであるスペインの劇場の設計案より、ずっと雲のイメージに近かった。構造的にはこれ以上ありえないほどにシンプルで、白のスチールパイプでつくった、大小さまざまな格子を並べただけである。それなのに建築現場風ではなく、シュールな雨雲のオブジェか、緑色の背景に浮かんだ吹き出しのように見えた。英『ガーディアン』紙の建築評論家オリバー・ウェインライトは、このパビリオンが、80年代の大型コンピュータや映画『トロン』の未来像を想起させると論じている。同時にこの未来像は、藤本の表現を借りれば“原初的な未来”の建築――相反する要素が生む前衛的な建築――に通じるものでもある。

 藤本と肩を並べる建築家で、これほど粘り強く実験を繰り返し、一徹に、取り憑かれたように同じテーマを掘り返す者はほかにいない。コンクリート建築が復興を支えた戦後期や、巨大構造体を生んだ60~70年代日本のメタボリスト(未来都市の形成を目指して大胆な建築物を生んだモダニスト)の次世代の担い手として、「建築とは何か」という本質的で難解な問いに向き合いながら、驚くような空間を生んでいる。藤本に「初めて出会った建築は何か」と尋ねると、アントニ・ガウディの建築写真集との答えが返ってきた。この実験的で型破りなモダニストがバルセロナに建てた、奇怪で破天荒な20世紀の記念碑的教会《サグラダ・ファミリア》を知らない人はいないだろう。

「ガウディに出会うまで、建物はみんなただのビルだと思っていました。建築を建築として見ていなかったので」と藤本。だがガウディの世界を垣間見て「建築はクリエイティブな行為」だと気づいたそうだ。彼の作品の核を成すのは、相反する要素をもとに、空間のありとあらゆる可能性を追い求める無限の創造力だ。ひっそりと、内省的に、忍耐強く、藤本は建築の根底にある“不可解さ”を発端にしながら、建築の未来を紡ぎ出していく。

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