アメリカと日本を行き来しながら、各地で都市的建築物を手がける建築家の重松象平。コロナ禍を受け、新たな都市づくりが議論される中で、重松が考察するこれからの都市と建築の可能性とは?

BY KEI WAKABAYASHI, PHOTOGRAPHS BY YASUYUKI TAKAGI, EDITED BY JUN ISHIDA

「都市づくり」という言葉が孕(はら)む矛盾

 都市というものを自己生成的なものとして考え、そこに生きる人たちの習慣や規範が無意識に積み上がって、あるかたちをなすものだとみなすのであれば、「都市づくり」という言葉は、すでに自己矛盾を孕んでいるように思える。都市を過度にプログラミングすることは、都市を建築化してしまうことでもある。しかし、その一方で、建物の機能、役割や合目的性が、なし崩し的に意味を失いつつあるという現象もある。オフィスはオフィス、住居は住居、商業施設は商業施設と明確に切り分けられていた都市の物理空間は、たとえばコワーキングスペースやAirbnb、あるいはポップアップストアやフードトラックといったものによって、融通無碍(ゆうずうむげ)に変化するものとなっている。建物は、もはや合目的的な機能によって定義されることはなく、そこを使う人たちの意向や欲望によって、自己生成的に姿を変えていくことにもなる。こうした状況は、建築が都市化していることの表れと見ることもできるだろう。

画像: 「Facebookウィロー・キャンパス」の都市計画(アメリカ・カリフォルニア州)。住宅、小売店、オフィスに加え、地元住民も使える公園や学校などを併設し、地域密着型のコミュニティを創出 © OMANY

「Facebookウィロー・キャンパス」の都市計画(アメリカ・カリフォルニア州)。住宅、小売店、オフィスに加え、地元住民も使える公園や学校などを併設し、地域密着型のコミュニティを創出
© OMANY

「美術館の仕事をいくつか進めていますが、美術館で起きている構造的な問題は、たとえばこういうことです。まず、美術館にとって最も大事だと考えられるギャラリースペースの面積は、全体として見ると、この何十年間でほとんど増えていません。その一方で、コンテンツとなるコレクションはものすごいスピードで増えています。また、教育プログラムやイベントなど、コミュニティエンゲージメントに関わるプログラムもかなりの勢いで増えている。つまり、美術館自体が単に『アートを鑑賞する空間』であることからはみ出して、アートを媒介とした『学びの場』でもあり『コミュニティ空間』でもあるようなものに変わってきているのです。そのパラダイムシフトに気づかず従来型の美術館を設計してもニーズに応えられません。そこにはギャラリー以外に、キュレーターがより自由に企画を実現できたり、来館者がさまざまな使い方をできる余剰空間が必要なんです」

 都市化し、より自己生成的な空間であることを求め始めた建築を、どうデザインするのか。あるいは、建築化しながら、より管理的であることに向かい始めた都市を、どうデザインするのか。建築と都市のトレードオフは、コインの裏表となって建築家に難しい綱渡りを要求する。そこで、冒頭の言葉に戻ることとなる。建築家として、合目的性や機能性を十全に満たしながら、重松は、そこに「目的」からはみ出した「頼まれていない空間」を挿入することに意を尽くす。ニューヨーク市北部の街・バッファローで手がけている「オルブライト=ノックス美術館プロジェクト」やニューヨークの「ニューミュージアム新館」、または東京・虎ノ門に建設中の「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー(仮称)」のデザインにおいて、重松は、建物の根本的な意義としてついてまわる「機能」をコンパクトに格納しながら、積み上がったそれらの機能をつなぐ「余白」に、十分なスペースを与えながらも明確な「機能をもたせない」仕かけを埋め込んでいく。あるいは自身の故郷でもある福岡で建設中のオフィスビル「天神ビジネスセンター(仮称)」では、建物の角を一部削り取ることで、建物の内でもなく外でもない「余白」を生み出している。そしてこの「余白」こそが、建築の都市化をより促す空間となる。

画像: 既存の施設の改修と新館建築に取り組む「オルブライト=ノックス美術館プロジェクト」(アメリカ・ニューヨーク州) © OMANY

既存の施設の改修と新館建築に取り組む「オルブライト=ノックス美術館プロジェクト」(アメリカ・ニューヨーク州)
© OMANY

画像: SANAA設計による本館の隣に計画されている「ニューミュージアム新館」(アメリカ・ニューヨーク州) © OMANY

SANAA設計による本館の隣に計画されている「ニューミュージアム新館」(アメリカ・ニューヨーク州)
© OMANY

「『オルブライト=ノックス美術館プロジェクト』の場合、こうした余白の空間がガラス張りで外に面しているので、周囲の公園から内部のアクティビティが見えるようになっています。建物の中にあるプログラムされていない公共空間が、外の公共空間とつながりあう格好になるわけです。それは都市と建築をつなげる緩衝帯のような曖昧な空間で、面白いことにプログラムの精度が高いほど自然発生的に必要とされ、生まれてくる余白なのです」

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