「アルテック」とECAL/ローザンヌ芸術デザイン大学、武蔵野美術大学が共同で行った、おもちゃ製作に関する興味深い展示が注目を浴びている

TEXT & PHOTOGRAPHS BY HIROYA ISHIKAWA

画像: 会場にはスイスと日本の大学に在籍する学生たちが製作したおもちゃが並ぶ

会場にはスイスと日本の大学に在籍する学生たちが製作したおもちゃが並ぶ

 フィンランドのインテリアブランド、アルテックとECAL/ローザンヌ芸術デザイン大学(以下ECAL)、そして、武蔵野美術大学が共同で行ったプロジェクトの成果を発表する展示「ECAL + MAU toys with Artek」が、表参道のアルテック直営店 Artek Tokyo Storeで開催中。

 このプロジェクトは、さまざまな理由で販売することができなかったアルテックの家具や部品を使って、学生たちが自由な発想で子ども向けの "Toy" = おもちゃを製作するというもの。アルテックの創設者のひとりである建築家のアルヴァ・アアルトが残した言葉「Don’t forget to play(遊び心を忘れないで)」を体現する内容になっている。

 2022年の2月から5月にかけて、ECALのインダストリアルデザイン科の学生たちが実際におもちゃを製作。同年5月22日から9月4日までフィンランドで開催された「Fiskars Village Art & Design Biennale」で、学生たちが作った作品が初めて展示・発表された。そして、2023年1月のArtek Helsinkiでの巡回展示を経て、今回Artek Tokyo Storeでの展示となった。

画像: 左から/ECALインダストリアルデザイン科学科長のステファン・アルマ-ボワサール氏、ECALディレクターのアレクシス・ジョルジュコッポラ氏、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科准教授の熊野亘氏

左から/ECALインダストリアルデザイン科学科長のステファン・アルマ-ボワサール氏、ECALディレクターのアレクシス・ジョルジュコッポラ氏、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科准教授の熊野亘氏

 日本での展示にあたり、ECALのインダストリアルデザイン科の学科長であるステファン・アルマ-ボワサール氏が声をかけたのが、親交のあるプロダクトデザイナー、熊野亘氏。彼が准教授を務める武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科から、クラフトデザインコース木工専攻とインテリアデザインコースの学生が、各7名ずつこのプロジェクトに参加することに。1週間という限られた時間の中で、独創的な作品を製作した。

 熊野氏は今回のプロジェクトについて、アルテックの家具や部品を学生がカスタマイズするおもしろさを口にする。「アアルトがデザインした家具はパーツがすごくシンプルで、だからこそ多様性や懐の深さがある。自由でなにをしてもいい学生の強みにうまくハマりましたね」

画像: バラエティ豊かな作品の数々が、学生たちの自由なイマジネーションを象徴する

バラエティ豊かな作品の数々が、学生たちの自由なイマジネーションを象徴する

 会場に並ぶのは、アルテックの家具の特徴でもある、あたたかみのある木の素材感と大量生産を念頭に置いた効率的な構造を活かした独創的な作品たち。熊野氏は全体の印象について、日頃の学びの成果が現れたものだと話す。

「武蔵野美術大学で日々学んでいることは、インテリアデザインコースは自由な発想で新しいものを作ること、クラフトデザインコース木工専攻はデザインに加えてクラフトの部分も大事にしたモノ作りです。今回はそれぞれの特徴が作品に色濃く出た展示になりました。ECALの学生による作品はその中間くらいで、自由度や新しさがあり、なおかつ実用的なものが多い印象です」

 ECALのステファン氏は、プロジェクトが始まった際にフィンランドを訪れ、アルテックの工場やアアルトの手がけた建築物を実際に見学。「学生たちの取り組みを見ながら、自分自身もフィンランドやアアルトのデザイン、木の特性など、いろいろなことに改めて感銘を受けました」と話す。

画像: 「木のモジュール式おもちゃ」

「木のモジュール式おもちゃ」

 アルテックの家具や部品が、学生たちの自由な発想によって、どんなおもちゃに変わったのだろうか?

 例えば、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科インテリアデザインコース3年の三宮駿之介さんが製作したのが「木のモジュール式おもちゃ」。曲木の技術によって直角に曲げられた「L-レッグ」と呼ばれる脚のパーツをカットし、積み木のように重ねて遊べるようにした。

「成形合板とは違う、無垢材を曲げて作った独特の模様をおもちゃのデザインに活かしました。今回のプロジェクトに参加したことで、アルテックの家具の曲線の美しさや、素材のあたたかみをこれまで以上に感じられましたね」(三宮さん)

画像: 「ユニークな弦楽器」

「ユニークな弦楽器」

 武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科クラフトデザインコース木工専攻2年の髙橋美香さんが作ったのは「ユニークな弦楽器」。これは「L-レッグ」と椅子の座面をつなげて、その間にベース、ギター、ウクレレの弦を張ったもので、弦を弾いて音の違いを楽しめる作品となっている。下部には調弦用のつまみまでついている。

「今回弦を通した穴はもともと開いていたものですが、くっつけた時に強度がアップするように穴の位置が計算されていたり、木材が湿気などで反らないようにする工夫が施されていたり。家具をカットすることで、美しいデザインを実現し、保つための技術を発見できておもしろかったです」(髙橋さん)

画像: ECALのNoah Watzlawickさんによる「抱きしめたくなる不思議な羊のスツール」。座ってよし、抱いてよしの独特のフォルムが特徴的

ECALのNoah Watzlawickさんによる「抱きしめたくなる不思議な羊のスツール」。座ってよし、抱いてよしの独特のフォルムが特徴的

画像: ECALのJade Eymannさんによる「モダニズムなドールハウス」。インテリアアイテムとしても楽しめそうな作品

ECALのJade Eymannさんによる「モダニズムなドールハウス」。インテリアアイテムとしても楽しめそうな作品

画像: (右上)「初めてのバイク」、(下左)「頂上に届くためのステップ椅子」、(下右)「からかさ小僧型おきあがりこぼし」

(右上)「初めてのバイク」、(下左)「頂上に届くためのステップ椅子」、(下右)「からかさ小僧型おきあがりこぼし」

 過去には学生参加のプロジェクトで生まれた作品が、製品化に至ったこともあるアルテック。もしかしたら今回展示されたおもちゃも、近い将来自宅で楽しめるようになるかもしれない。

「ECAL + MAU toys with Artek」
@Artek Tokyo Store
2月20日(月)まで
公式サイトはこちら

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