作家レベッカ・ソルニットは、個性的な執筆活動を続けてきた。彼女は今、反体制派の代弁者として、にわかに注目を集めている

BY ALICE GREGORY, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA

画像: 進歩主義の象徴的存在になったレベッカ・ソルニット。サンフランシスコにて DAVID LEVENE / EYEVINE / ZETA IMAGE

進歩主義の象徴的存在になったレベッカ・ソルニット。サンフランシスコにて
DAVID LEVENE / EYEVINE / ZETA IMAGE

 作家でエッセイストのレベッカ・ソルニットが書くものは、時に長編で、題材も多岐にわたる。アイルランドの歴史、地図帳、アルツハイマー病、秘境へ出向く医療チーム、自然災害、都市計画、カメ、ウォーキング、荒廃した地区の再開発、ヨセミテ国立公園――。アップル社についての著作もある。

「私の思考は、よく言えば多分野にまたがっているのですが、悪く言えばあっちへ行ったりこっちへ行ったり」。本人は、そう説明する。サンフランシスコに住み、ここを活動の拠点とするソルニットに電話で話を聞いたとき、彼女はさらに次のように言った。「なんにでも興味がわくのですが、時としてそれが重荷になる」。そんな彼女にとって、もっとも大切な作家はヴァージニア・ウルフとヘンリー・デイヴィッド・ソローだという。「ふたりとも、現実世界と実験的に、かつ直接的に向き合った素晴らしい作品を残しましたが、同時に論客としても、政治的な影響力をもっていました。彼らの活動の幅を見れば、このふたつは両立しうることがわかります」

 ソルニットの著作が初めて世に出たのは、1980年代の半ばだ。その独特な著述活動は放浪の旅のようだと言うと、デビュー以来の読者ならうなずくだろう。一方で、この作家の仕事は緻密であり、強い意志をもってテーマを広く深く掘り下げていく姿勢は称賛に値する、とも思っているはずだ。米国の西部についてだけでも、『Savage Dreams: A Journey Into the Hidden Wars of the American West』(1994年)や『River of Shadows: Eadweard Muybridge and the Technological Wild West』(2003年)など、複数の著書がある。ところでここ数年、彼女には新しい読者がついている。若い世代で、大半は女性。活字よりもオンライン版の記事を好む層だ。彼女が作家としていかにユニークか、どんなテーマを扱ってきたか、新しい読者はほとんど知らない。

 この流れの発端は、ソルニットがある雑誌で2008年に書いた「Men Explain Things to Me」(男は私に講釈する)だ。彼女の個人的なエピソードをもとに書かれたエッセイである。今やすっかり有名になった出来事が起きたのは2003年のこと。彼女はコロラド州アスペンに滞在し、山小屋で催されたパーティに参加していた。彼女が作家であることを知った主催者の男性は、ある本について熱心に解説し始めた(※訳注─この人は数カ月前に新聞の書評を読んだだけで、本自体は読んでいなかった)。よりによって、ソルニット自身が著者として出版したばかりの本だったので、彼女の友人は何度もそう言ったのだが男性は意に介さず、講釈を続けた。このエッセイから「mansplaining」(マンスプレイニング/男は女に講釈する)という言葉が生まれ、ハッシュタグもつき、世界中で使われている。ツイッター上で飛び交い、Tシャツにプリントされ、たわいない世間話にも登場する。

ソルニットは2014年、「Men Explain Things to Me」をはじめとする7つのエッセイを1冊にまとめ、同名の書籍を出版した。これまでに9万部ほど売れている。彼女は個人的なことを淡々と綴り、女性がしょっちゅう経験すること―でも、誰もきっぱりと指摘せず、認識すらされずにいたこと――を簡潔にまとめて世に示したのだ。作家トム・ウルフの「ラジカル・シック」や映画評論家ネイサン・ラビンの「manic pixie dream girl」(『エリザベスタウン』でキルスティン・ダンストが演じた浮世離れしたヒロインを評した造語)と同様に、「マンスプレイニング」も的確に状況を言いあて、かつ人々を啓発する力をもつ言葉として、あっという間に市民権を得た造語となった。

 それから2年もたたないうちに、ソルニットは再び脚光を浴びることになった。今度は人々の心を癒やす文化人として――。2016年3月、彼女の著書を扱う非営利の小さな出版社ヘイマーケットブックスは、『Hope in the Dark: Un told Histories, Wild Possibilities』(日本語版は『暗闇のなかの希望――非暴力からはじまる新しい時代』(七つ森書館)を再び出版した。同書は2004年にブッシュ政権に対する問いかけとして発表されたが、当時はあまり話題にならなかった。ところがこの薄い本が今、昨年の大統領選の結末によって打ちひしがれている人々のバイブルになっている。世の中を変えるために立ち上がった人たちの成功物語を歴史の中から拾い上げ、希望をもつことが世の中を変えることにつながると繰り返しうたっているからだ。

2016年11月10日、ソルニットはフェイスブックでこう呼びかけた。「希望、持ってます? 私のでよかったら、無料で差しあげます」。この投稿に、『Hope in the Dark』をダウンロードできるリンク先も貼りつけた。わずか1週間で、ダウンロード数は3万を超えた。メキシコのサパティスタ民族解放軍から天気予報、ベルリンの壁崩壊にいたるまで縦横無尽に論じた同書の筆致は、歯切れがよく含蓄に富むので、インテリ向けの自己啓発本といった様相を呈している。「いつの時代も、人々は世界の終焉を想像することには長けている。だがそれは、遠回りでも終わりのない世界へと導く新たな道を思い描くよりも、ずっと安易なのだ」

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