かつてないリアルな“没入感”で人々の心を奪うバーチャル・リアリティー。その世界を強大な力でリードするのがアダルト・コンテンツだ。日々進化する技術を背景に、その存在は人間関係の根幹までも変えようとしている

BY ALYSON KRUEGER, PHOTOGRAPHS BY GRAHAM WALZER, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA

 歯医者が最新の歯垢検出機器に興味を示すように、多くのセックス・セラピストや性教育者もこの新しいテクノロジーに興味を示している。身体心理学者のホリー・リッチモンドは、ニューヨーク州ロチェスターに本拠地を置くVR会社「BaDoinkVR」社と連携し、多くの男女が抱えるセックスにまつわる悩みを克服するために『Virtual Sexology(バーチャル性科学)』というタイトルの無料動画シリーズを制作した。

 とある動画では、ベッドルームでひとりの巨乳の金髪女性が行為の前にどんなふうに自分自身を興奮させるかを女性視聴者向けに披露している。彼女はパートナーの前に座り、自分の腕や脚や胸をマッサージする。呼吸が高まってくると「性的な欲求を感じるために、まず身体的接触が必要な女性もいるのです」とナレーターが伝える。当初男性向けに制作されたこの動画は、2016年に「BaDoinkVR.com」でもっとも多くダウンロードされた動画となった。この動画のライバルが教育目的ではないふつうのポルノ動画であることを考えると、これは驚くべき結果だ。

 前述の、ポッドキャストの司会者コールが最も興味を抱いているのは、今後VRがどのように性教育に使われるうるか、だという。「例えば若い人たちに動画を見てもらって、セックスの前に相手から合意を正しく得る練習や、危険性のある行為を読み取る練習ができるようになるといいと思う。あるいは、仮想空間で『私はヘルペスに感染して、その結果こういう経験をした』といった話をしてくれる誰かと対面するとか。淋病についてのスライドショーより、はるかにためになるはずよ」

画像: 「ハーモニー」の“脳”

「ハーモニー」の“脳”

 じつにそのとおり。バーバラ・ロスバウムは、米国エモリー大学医学部の精神医学・行動科学科の教授であり、退役軍人のための教育援助プログラムのディレクターでもある。彼女は、軍事的な性的外傷によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っている人のために、VRをどう役立たせるかを研究している。

 この研究では、兵舎や軍用テント、住居、トイレ、事務所や人目のない建物や乗り物など、彼らのトラウマが起きた場所へと、仮想空間の中で被害者を送り込む。その場所に再び戻ることで、被害者がそのトラウマとなった記憶と向き合い、少しでも多くの心の安らぎを得て再び前向きに生きるきっかけを作るというのがねらいだ。

 しかし、VR空間がその役目を果たすためには、その仮想シーンが、ユーザーが没入し、現実と見紛うほどリアルである必要がある。自分は立会人ではなく、参加者だと感じられなくてはならないのだ。「VRの中で3Dの身体を作り、それを自由に好きなように動かすことが必要なんです」とコールは言う。ひとつの問題が技術的にクリアとなっても、新しい問題は次々と生じてくるのだ。

 マクマレンによると、リアルボティクス社が直面している問題のひとつは、ユーザーが実際の知り合いとそっくりなドールを依頼してくることだという。例えば、いまだに未練がある元カノであったり、妄想恋愛の相手だったり。しかしマクマレンの会社は他人の肖像を使う場合、その対象となる人物の書面での同意を必要としている。

 コールは、VR会社がアバター(仮想空間でユーザーの代わりとなる化身)の外見をユーザーの要求にどんどん近づけていこうとする中で、今後この問題に対処する必要が出てくると言う。「現実とファンタジーの境界線はどこにあるのでしょう。仮想空間では何をしてもいいのでしょうか?」。仮想空間において合意は何を意味するのか。つき合っている女性に対して、現実ではやろうと思わないことを仮想空間でやることは許されるのか。誰かの肖像を仮想空間で利用する場合、その人の許可は必要なのか。VRのリベンジ・ポルノが拡散されたら――?。「バーチャル・リアリティーでは、そういう行いに対する法的対処は、より厳しくあるべきでしょう」

 彼女はまた、オンライン・デート・アプリのようにVRというテクノロジーがすんなり生活文化に同化する中で、人々が生身のリアルな出会いから離れることも懸念している。仮想空間での性行為は浮気に該当するのか? いまつきあっている恋人同士も、そんな話し合いが必要となるだろう。なにしろ、従来のポルノに比べてVRは紛れもなく現実に近いのだから。

 マクマレンは、彼の会社のセックス・ロボットがそうした問題を引き起こす元凶だと多くの人が指弾してくるという。だが、自分の仕事は悪い状態を引き起こそうとしているのではなく、緩和しているのだと彼は信じている。「孤独だと感じている人はすでにたくさん存在するし、独りのまま生涯を送る人もいます。彼らは朝から晩まで働いて、誰もいない家に帰宅する。われわれは、そういった人たちに生身の人間に代わるものを提示しているだけです。彼らにはほかに誰もいないんですから」

 

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