BY CHIHARU ITAGAKI
また、ファッション界に新たな傑作ドキュメンタリーが誕生した。『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』は、英国を代表するファッションデザイナーにして社会活動家でもあるヴィヴィアン・ウエストウッドに迫ったものだ。過激な言動で知られる彼女の幼少期から、「パンクの女王」としてロンドンのアンダーグラウンドに君臨した70年代、2度の離婚、現在の夫である25歳年下のアンドレアス・クロンターラーとのなれそめまで、77歳となった今に至る激動の人生が描かれている。
それにしても、闘う人である。70年代から一貫して体制や権力と闘い、常識や規範を徹底して疑ってきたヴィヴィアンは、今はもっぱら環境問題の分野にその闘いの場を移している。ロンドン・ファッションウィーク中、あらゆるデザイナーが多忙を極めて疲労困憊しているような時期でも、デモ行進があるとなれば横断幕を作って参加する。シェールガス採掘法案に反対の意を表すため、さっそうと戦車にまたがり首相官邸に乗り込んだときの姿は、エレガントな戦士そのものだ。
その闘う姿勢は、デザイナーとしての仕事ぶりにもそのまま反映されている。映画の冒頭、ショー開催前夜のアトリエで、自らのデザインの細部にまで厳しい目を向けるヴィヴィアンの姿が映し出される。納得のいかない服については、「最低ね。クソ食らえよ。こんなクズ、ショーに出せないわ」と容赦なく切り捨てる。どんどん成長するブランドビジネスについても、「事業は拡大したくないの。身近な問題に対処できなくなるからよ」と、戸惑う気持ちを隠さない。それどころか、自分の手を離れて大きく膨れ上がるビジネスを疑い、なんとか抗おうと闘っているようにすら見える。不器用なまでに真摯に自分の信念を貫く姿勢には、まごうかたなき若さがあふれている。
そして彼女は、理性的な人でもある。ロンドンやパリで作品を発表し、ハイ・ファッション界に衝撃を与えてからまだ間もない頃、TV番組に出演して最新ルックとともに紹介されたときの映像がある。その斬新すぎるクリエーションを面白おかしく笑いものにされるシーンは、見ていて胸が痛くなるほどだ。憤慨せずにいられないシチュエーションなのに、ヴィヴィアンの口調はあくまで理知的で、意外なまでに穏やか。ファッションデザインを始める前は教師をしていたというのも納得の、落ち着いた態度を決して変えることがない。ヴィヴィアンの友人でモデル、作家のサラ・ストックブリッジはこう話している、「私は怒りで震えたけどヴィヴィアンは平然としていた。パンクな反応ね」
才能を理解されず、無下に笑われても決して信念を曲げなかったヴィヴィアン。今、挑発的で大胆なクリエーションで注目を集めるロンドンのファッションデザイナーたち、たとえばマティ・ボヴァンやチャールズ・ジェフリーといった若き才能が、暖かく受け入れられ正当に評価されている背景には、間違いなくヴィヴィアンの功績がある。彼女の生み出す服は、70年代のパンク・キッズに対してそうであったように、現代でも若者たちの味方であり、闘う者にとっての最強に優雅な鎧であり続けている。そしてヴィヴィアン自身もまた、ファッションで武装して闘い続ける戦士なのだということが、この映画を見ればはっきりと理解できる。唯一無二の彼女のパワーを、劇場でぜひ感じてみてほしい。
『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』
12月28日より、角川シネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国で公開
配給:KADOKAWA
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