2018年7月、ドイツのシュトゥットガルト歌劇場で細川俊夫の新作オペラ『地震。夢』が世界初演された。舞台芸術の一流スタッフが結集した話題作を現地でレビュー

BY NATSUME DATE

 現代オペラは、難解で近づきがたい印象を与えがちだ。確かに、耳になじみやすいメロディーはそう多くないし、予測不能な音の連なりに、よりどころのなさや不安を感じることもめずらしくない。でも、というより、だからこそ、この制御不能な自然と人間の集団心理について描いた物語に、これほどふさわしい音楽はないのではないか。そう思えたのが、今年(2018年)、ドイツのシュトゥットガルト歌劇場で世界初演され評判となった、細川俊夫作曲の新作オペラ『地震。夢』(原題:Erdbeben. Träume)だ。

画像: シュトゥットガルト歌劇場。ドイツ南西部のシュトゥットガルトは、かつてはヴルテンベルク王国。現在はメルセデスベンツやポルシェの本社がある豊かな町で、芸術も盛ん。オペラとともにこの歌劇場を本拠にするシュトゥットガルト・バレエ団も名高い www.oper-stuttgart.de PHOTOGRAPH BY NATSUME DATE

シュトゥットガルト歌劇場。ドイツ南西部のシュトゥットガルトは、かつてはヴルテンベルク王国。現在はメルセデスベンツやポルシェの本社がある豊かな町で、芸術も盛ん。オペラとともにこの歌劇場を本拠にするシュトゥットガルト・バレエ団も名高い
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画像: オペラ『地震。夢』の場面より。窓枠だけでガラスのない建物、壁のない床など、美術のアンナ・フィーブロックが福島の被災地で見た光景を舞台装置に取り入れている PHOTOGRAPH BY A.T.SCHAEFER

オペラ『地震。夢』の場面より。窓枠だけでガラスのない建物、壁のない床など、美術のアンナ・フィーブロックが福島の被災地で見た光景を舞台装置に取り入れている
PHOTOGRAPH BY A.T.SCHAEFER

 原作は、ハインリヒ・フォン・クライストの短編小説『チリの地震』。禁断の恋を暴かれた男女が引き裂かれ、男が処刑されようとするところに大地震が起きる。その混乱のおかげで二人は再会できるが、彼らを災害の元凶として糾弾する扇動者が現れ、焚きつけられた民衆たちの憎悪が過熱。二人は暴徒と化した民衆に虐殺されてしまい、生まれたばかりの彼らの息子だけが奇跡的に生き残る――。

 抗いようのない自然の脅威からなんとか生き延びた先には、人間による強大な負のエネルギーの攻撃が待ち受けていた。いたたまれない、そしてリアルな二次被害の構図だ。今回、細川に作曲を委嘱したドイツのシュトゥットガルト歌劇場は、芸術監督(※1)に演出家のヨッシ・ヴィーラーを迎えて以来、優れた舞台を数多く創出。オペラ専門誌『オペルンヴェルト』の年間最優秀作品賞など各賞を何度も獲得している、注目度の高いオペラハウスだ。ヴィーラー率いるクリエイティブ・チームは、この17世紀に書かれた示唆に富む古典から、いま世界中で起きている天災とポピュリズムの猛威という視点を抽出し、圧倒的なリアリティで観客に訴えかけたのだ。

画像: 『地震。夢』世界初演を終えた直後のクリエイティブ・チームとキャスト。前列左の女性が美術・衣裳のアンナ・フィーブロック、その右が細川俊夫、台本のマルセル・バイアー。2列目左から3人目が演出のヨッシ・ヴィーラー、その右が指揮のシルヴァン・カンブルラン、ドラマトゥルグのセルジオ・モラビト PHOTOGRAPH BY NATSUME DATE

『地震。夢』世界初演を終えた直後のクリエイティブ・チームとキャスト。前列左の女性が美術・衣裳のアンナ・フィーブロック、その右が細川俊夫、台本のマルセル・バイアー。2列目左から3人目が演出のヨッシ・ヴィーラー、その右が指揮のシルヴァン・カンブルラン、ドラマトゥルグのセルジオ・モラビト
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