ロンドンの労働者階級に生まれ、弱冠27歳でジバンシィのデザイナーに昇りつめ、2010年、40歳で自ら命を絶ったアレキサンダー・マックイーン。生前の貴重な映像や親族、関係者の証言によって完成したドキュメンタリー映画は、そのあまりにも劇的な生涯を描き出す

BY KURIKO SATO

 第3部では、若くしていきなりフランスの伝統的なメゾン、ジバンシィのデザイナーに抜てきされた彼が、少数のスタッフとともにイギリスからパリに乗り込み、カルチャーショックのなかで、自らのやり方を通した様が語られる。たとえば老舗メゾンのルールだった「職人のアトリエ入室禁止」をなくしたエピソードひとつをとっても、無意味な権威主義に反抗し、クリエーションの便宜を最優先させる彼の民主的な一面が理解できる。

画像: 2006-2007秋冬コレクションでホログラムとなって登場し、センセーションを巻き起こしたケイト•モスとは、プライベートでも仲が良かった

2006-2007秋冬コレクションでホログラムとなって登場し、センセーションを巻き起こしたケイト•モスとは、プライベートでも仲が良かった

 続く第4、第5部では、年14回ものコレクションをこなし、まるでアートのインスタレーションのような独創的なショーを次々に展開していく一方で、年々エスカレートする非人間的なスケジュールとプレッシャーに圧迫されていく様子が描かれる。

 とくに本ドキュメンタリーで感慨深いのは、これまで取材を拒んでいた彼の家族や、長年苦楽を共にした近しいスタッフや友人たちの、語られることのなかった証言が集められている点だ。そのなかには、自らもDVを受けたという姉や甥によって明かされた、義兄による幼い頃の虐待も含まれている。

画像: 最愛の人だった母親と。2010年2月に他界した彼女の葬儀の前日に、マックイーンが自宅で首を吊っているのを家政婦が発見した PHOTOGRAPHS: © SALON GALAHAD LTD 2018

最愛の人だった母親と。2010年2月に他界した彼女の葬儀の前日に、マックイーンが自宅で首を吊っているのを家政婦が発見した
PHOTOGRAPHS: © SALON GALAHAD LTD 2018

 母親と強い愛情で結ばれていたことで知られるマックイーンが、ショッキングなほどヴァイオレントでありながらもつねに強い女性像を追求し、ときには人間を超越した異星人のようなコレクションを生み出してきたのには、ひょっとしたらこうした家族を取り巻く背景も影響していたのかもしれない。彼はこう語る。「ファッションデザイナーなら誰でも幻想を作りたい、人を惹きつけるものを作りたいと思うものだ。でも服は美しいものだが、外には現実がある。現実に耳を塞ぎ、世界は楽しいと思う人に、現実を伝えたい」

 パンクなアンファン・テリブルのイメージの下に純粋さと複雑さを秘めた、孤高のアーティスト。残念ながらその人生は、このうえない才能と名声を手にしても人は幸福にはなれるものではない、という証になってしまった。いやむしろ、多くの人が持てないものを手にしてしまったからこそ、彼は不幸にならざるを得なかったのかもしれない。ほとばしる情熱に突き動かされ破滅へと至ったその姿は、ファッションという枠を超えて、観る者の心に深く重く刻印される。

『マックイーン:モードの反逆児』
4月5日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
公式サイト

 

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