ある生き物が絶滅して、ある生き物が生き残るのはなぜかーー。ダーウィンの『種の起源』を美しい絵とわかりやすい文章で語りなおした科学絵本。生物学者から芸術家に転身した作者の、生き物たちへの眼差しが深くやさしい

BY CHIWAKO MIYAUCHI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

 現代人は「進化論」が大好きだ。「イチローはまた進化した」といった言い方、あるいは「生き馬の目を抜くスマホ業界の生存戦略」とか「結局能力のない奴は自然淘汰されるのさ」などなど。みんなが好んで使うこれらの用語は、どれもダーウィンの進化論に出てくる重要なキーワードたちである。

「でも、みんな何となく知ってはいるけれど、ちゃんとダーウィンの進化論を読んだことのある人ってほとんどいませんね」と言うのは、この科学絵本『種の起源 はじめての進化論』(岩波書店)を翻訳した生物学者の福岡伸一さんだ。

「私は子どもの頃から虫が大好きで、美しいカラスアゲハや青いカミキリムシに夢中になりました。虫好きが高じて生物学の道に進みましたが、生物学は『いかにして(how)』の疑問にはある程度答えることができても、『なぜ(why)』の疑問にはなかなか答えられません。チャールズ・ダーウィンは、その『なぜ』を説明することを可能にした生物学の革命者です。この本でぜひ、生物学最大の理論が成立した背景を追体験してみてください」(福岡さん)

画像: 『ダーウィンの「種の起源」― はじめての進化論』 サビーナ・ラデヴァ作・絵、福岡伸一訳 ¥2,300/岩波書店

『ダーウィンの「種の起源」― はじめての進化論』
サビーナ・ラデヴァ作・絵、福岡伸一訳
¥2,300/岩波書店

 地球上には、なぜ、こんなに多様な姿形と生活形態を持つ生き物が満ちあふれているのか――。福岡少年がその不思議さに魅入られたように、ダーウィンも100年以上前に生命の成り立ちに深い関心を持ち、長い時間をかけて研究を重ね、生命の「なぜ」を解き明かしてみせた。『種の起源』はその集大成である。

 このダーウィンの名高い本を美しい絵と分かりやすい解説で本にしたのが、英国ロンドンを拠点に活動するサビーナ・ラデヴァ(Sabina Radeva)さん。彼女の経歴がまた面白い。もともとドイツで生物学の研究をしていたのが、科学の世界を離れ、芸術家への転向を志した。この絵本は彼女の最初の作品である。

 サビーナさんがもと生物学者であったことは、本書を読めば誰もが納得するに違いない。どのページに出てくる蝶も鳥も動物たちも、美しく愛らしくファンタジックなのに、子どもだましのウソがない。科学者の視線がそこにはある。福岡さんいわく、「彼女はナチュラリストです」。ナチュラリストとは、自然を研究し、理解しようとする人のことだが、福岡さんの表現を借りれば「生命を愛でる人」ということになる。絵本にあふれる、生き物たちが見せる奇跡のような形や色彩。彼女の生命への真摯な眼差しがあたたかく伝わってくる。

画像: 生きものの“種”について、生存競争について、適応について――。サビーナさんの明るいイラストと、福岡さんの翻訳によるやさしい言葉で、ダーウィンの功績と名著『種の起源』の内容をわかりやすく伝える

生きものの“種”について、生存競争について、適応について――。サビーナさんの明るいイラストと、福岡さんの翻訳によるやさしい言葉で、ダーウィンの功績と名著『種の起源』の内容をわかりやすく伝える

 福岡伸一さんの長年のファンだという「MUVEIL」デザイナーの中山路子さんもまた、生命の営みに深い関心を寄せる人である。福岡さんの著書を読んで、 “世界を見る目”が大きく変わったという中山さんは、この本の推薦者のひとりだ。「生命を営むために持つ生き物たちのさまざまな不思議な機能。その一つひとつに愛おしさを感じます。今回、翻訳された絵本でも、長い長い時間の中での生き物たちの進化の過程を読むと、人間の登場は地球時間にとってはごく最近のことなんだと実感し、日ごろ当たり前のように思っている風景も違った視界で見えてきます」

 中山さんの服作りも、地球上の愛おしき生き物たちにインスパイアされたものが多く、目下の関心は、絶滅危惧種たち。2019年春夏コレクションでは、絶滅に瀕する動植物をメインのモチーフに取り上げた。瀕死の彼らといかに共存できるか。自分の作る服に「物語」を吹き込む、彼女もまたナチュラリストなのだ。

 ダーウィンの『種の起源』では、「適応」に失敗し、姿を消していった絶滅種についても語られている。化石からある程度は推測されても、「絶滅した種がどんなに奇妙でおもしろい姿をしていたかは、永遠の謎」とあるが、絶滅していった生き物たちにも、それぞれ「物語」があったはず。そこに思いをはせると、今この世界にある生命は、やはり奇跡と呼ばざるを得ない。
 本書にはダーウィン以降の新しい知見も紹介され、子どもはもちろん、大人が読んでも十分楽しめる。たまには、生命がたどってきた気の遠くなるような時間の流れに身をまかせるのも悪くない。

 

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