映画字幕翻訳でおなじみの戸田奈津子さんが、今はまっているもの―― それは海外の一流カンパニーのオペラやバレエ公演を映画館の大スクリーンで上映する、ライブ・ビューイングだ

BY YUKI SATO

 トム・クルーズやリチャード・ギアなど、通訳したことがきっかけで親しくなったハリウッド・スターや監督も多い字幕翻訳家の戸田奈津子さん。そんな彼女が今、“追っかけ”をするほど夢中になっている人物をご存知だろうか? それは「(テノール歌手の)ヨナス・カウフマン! でも、メトロポリタン歌劇場(MET)の『カルメン』に出演するというのでチケットを取ってニューヨークにいってみたら、なんとドタキャンで(笑)。私の知り合いで指揮者のカルロス・クライバーの熱狂的なファンだった人も、わざわざ海外まで聴きに出かけたのにドタキャンされて怒っていた。生の舞台はそれがあるから恐ろしいですね」。

画像: 戸田奈津子(NATSUKO TODA) 映画字幕翻訳者。東京都出身。津田塾大学英文科卒。OLやフリーの翻訳者を経て故・清水俊二氏に師事。1970年『野生の少年』で字幕翻訳家デビュー。1979年『地獄の黙示録』、1996年~『ミッション・インポッシブル』シリーズ、1997年『タイタニック』などのメガヒット作を含め、これまでに1,500本以上の作品を手がけてきた。映画翻訳家協会元会長。1992年第一回淀川長治賞、1995年第4回日本映画批評家大賞・特別賞、2015年第36回松尾芸能賞・特別賞など受賞歴多数 COURTESY OF NATSUKO TODA

戸田奈津子(NATSUKO TODA)
映画字幕翻訳者。東京都出身。津田塾大学英文科卒。OLやフリーの翻訳者を経て故・清水俊二氏に師事。1970年『野生の少年』で字幕翻訳家デビュー。1979年『地獄の黙示録』、1996年~『ミッション・インポッシブル』シリーズ、1997年『タイタニック』などのメガヒット作を含め、これまでに1,500本以上の作品を手がけてきた。映画翻訳家協会元会長。1992年第一回淀川長治賞、1995年第4回日本映画批評家大賞・特別賞、2015年第36回松尾芸能賞・特別賞など受賞歴多数
COURTESY OF NATSUKO TODA

 METの街、ニューヨークは大好きで、つい先日も今年トニー賞を受賞したミュージカル『Hades town』や『キス・ミー・ケイト』など、「そんなにビッシリ、スケジュールを組み込まなかったのだけれども、7作品は観てきました。METでオペラをやっていなかったのは残念でしたが」と、一人でニューヨークでの滞在を楽しんできた様子。とはいえ、大好きなカウフマンを追って世界中旅するにも限界がある。そんな戸田さんを最近夢中にさせているのが、“ライブ・ビューイング”というエンターテインメントだ。

画像: MET『西部の娘』 (左)エヴァ=マリア・ヴェストブルック、(右)ヨナス・カウフマン © KEN HOWARD/METROPOLITAN OPERA

MET『西部の娘』
(左)エヴァ=マリア・ヴェストブルック、(右)ヨナス・カウフマン
© KEN HOWARD/METROPOLITAN OPERA

「いかにドタキャン王と呼ばれるカウフマンでも、ライブ・ビューイングなら必ず出てくれる(笑)。しかもちゃんとアップで見られるし。最近ではMETの『西部の娘』とか英国ロイヤル・オペラの『運命の力』で歌っている彼を見て、やっぱり歌良し、顔良し、姿良し、そして演技も上手いなあ、と改めて感心したところでした」

画像: 英国ロイヤル・オペラ・ハウス『運命の力』 ヨナス・カウフマン © ROH 2019. PHOTOGRAPH BY BILL COOPER

英国ロイヤル・オペラ・ハウス『運命の力』
ヨナス・カウフマン
© ROH 2019. PHOTOGRAPH BY BILL COOPER

 映画はもちろん、芝居やオペラ、バレエなどが大好きな母親のおかげで、「戦後、わりとすぐから、いろいろなものを見に連れて行ってもらいました。貝谷八百子バレエ団など、今思うと衣装も舞台装置もいっぱいいっぱいだったはずなのに、やはり美しいものに飢えていた私たち日本人の目には素晴らしいものに映ったし、オペラの三浦 環の声も、なんて凄いんだろう! と子供心にも感動して。以来、そんなにしょっちゅうではないけれど、ずっとそういう舞台に接していたとは思います」

 生の舞台好きというベースに加え、戸田さんが昨今オペラや演劇のライブ・ビューイングにはまっているのは、映画というアート・フォームに深く関わる人間ならではの理由もある。

 「今のハリウッドの大作映画って、スーパーヒーロー物とかヒット作のシリーズ物とか、とても人間を描くというレベルではなくてがっかりすることが多い。例えば英国の名優イアン・マッケランも、そういう作品に出演して存在感を示していますが、NT(ナショナル・シアター)ライブの『リア王』を見ると、彼の本領はやっぱりこっちなんだとわかって安心します。理解は出来るんですよ。俳優だって生活していかなければならないからハリウッドになびくのも。

画像: NT『リア王』 イアン・マッケラン(左)ほか © JOHAN PERSSON

NT『リア王』
イアン・マッケラン(左)ほか
© JOHAN PERSSON

でも、元々シェイクスピア劇を現代化した舞台にはハズレも多いと感じていた私にとって、しかも『リア王』ってなんか辛気くさいなあと身構えていた私にとって、マッケランのリア王は、どこか軽やかでユーモラスで、『リア王』の新しい魅力を教えてくれた。NTライブでは、現代劇の『スカイライト』なども素晴らしく、ヒロイン役のキャリー・マリガンは映画でも評価されているけれど、やっぱり舞台もいいんだなと、改めて感心しました。俳優たちが舞台での経験を大切にするのも納得だな、と」

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