英国生まれの偉大なミュージシャンと日本人の前衛芸術家。西洋と東洋、戦勝国と敗戦国、人種など異なるものを超えて結ばれ、それぞれの領域で世界中から常に注目を集めたジョンとヨーコ。ふたりをよく知る4人に話を聞いた

BY YOSHIO SUZUKI

「1974年にヨーコさんがプラスティック・オノ・バンドを連れて日本に来ました。長い髪を振り乱し『キョーコキョーコキョーコ』と叫ぶ。お嬢さん(前夫との娘)の名を泣き叫ぶ歌を歌ったとき、鬼気迫るものがあったんです。裸の母性、生む性としての哀しみというか、いろんなものが伝わってきて非常に感動し、そのことを当時の『ニューミュージック・マガジン』に書いたんです。それを読んだヨーコさんから『ぜひお目にかかりたい』と連絡があって。それが最初です」

 音楽評論家、作詞家の湯川れい子は世間では強い女性の象徴のように語られていたオノ・ヨーコに会い、なんて傷つきやすい人なのだろうと感じたという。
「ヨーコさんは発する声もクールですし、無言で拒絶する雰囲気を醸し出します。そのことが、たぶん必要以上に相手に警戒心をもたせてしまい、強さとして受け止められるのだと思うんです。鎧を幾重にも着こんだ中身は、本当はやさしくて柔らか。英語も完璧で東洋の思想にも精通。そんな彼女だから、深い母性と愛情でジョンを満たせたのでしょう」

画像: 1987年頃の写真 COURTESY OF REIKO YUKAWA

1987年頃の写真
COURTESY OF REIKO YUKAWA

 繊細さと、舞台で「キョーコ」と叫ぶ母性の共存。
「歌で彼女の裸をいきなり見てしまった感動なんです。観客を前に素っ裸になってしまったヨーコさんと、初対面で直接向き合ったヨーコさんとの間には距離があるわけです。そこに私自身がどう近づけるのか。それがいつもヨーコさんと会うときのテーマでした」

 アート、パフォーマンス、ステージ。そういう場であれば強くなれるのだとヨーコは語っている。彼女の有名な作品に《カット・ピース》(1964年)がある。舞台上に座っているヨーコの着ている服を全裸になるまで観客が切り取るというものだ。
「ああいうことがやれるのは、そこで捨て身になって、一切、自分を空(くう)にできるということでしょう。そういう強さ。それは柔らかくて受け身になれるからできたし、女性だからできたと思うんです」

画像: ヨーコから湯川に贈られた、ジョンのリトグラフ。小さなショーンとジョンとヨーコ。晴天 COURTESY OF REIKO YUKAWA

ヨーコから湯川に贈られた、ジョンのリトグラフ。小さなショーンとジョンとヨーコ。晴天
COURTESY OF REIKO YUKAWA

 湯川はニューヨークのダコタ・ハウスに招かれたこともあった。ジョンの席の正面の壁に禅僧、白隠(はくいん)の禅画「円相図」が掛かっていた。
「これ何? と聞くと、ヨーコさんは、“ジョンに『これが全宇宙であり、生命なのよ』と説明した”と。『私たちはみんなこの中でひとつにつながっていて、だからこれはすべての存在、命なのだ』と」

 別居したジョンから何回も「もう帰っていいか」と電話がくる。そのたびにヨーコは「まだだと思う」と繰り返したが、エルトン・ジョンのコンサートで再会したとき、帰宅を許した。「ジョンが帰ってくる日のためにヨーコさんが用意した花柄のパジャマがあって、それをジョンに着せたら喜んで家の中を跳びはねていたそうです」

画像: 1969年、ベトナム戦争の終結が見えない中、ジョンとヨーコは、世界12カ所の都市に「WAR IS OVER ! IF YOU WANT IT」と広告でメッセージを送った。湾岸戦争反対のメッセージを湯川がヨーコに求めたときも「WAR IS OVER ! それ以外ない」と言った THE U.S. VS. JOHN LENNON (2006) DIRECTED BY DAVID LEAF, JOHN SCHEINFELD. SHOWN / YOKO ONO,JOHN LENNON.LONG GATE FILMS / PHOTOFEST/ZETA IMAGE

1969年、ベトナム戦争の終結が見えない中、ジョンとヨーコは、世界12カ所の都市に「WAR IS OVER ! IF YOU WANT IT」と広告でメッセージを送った。湾岸戦争反対のメッセージを湯川がヨーコに求めたときも「WAR IS OVER ! それ以外ない」と言った
THE U.S. VS. JOHN LENNON (2006) DIRECTED BY DAVID LEAF, JOHN SCHEINFELD. SHOWN / YOKO ONO,JOHN LENNON.LONG GATE FILMS / PHOTOFEST/ZETA IMAGE

 西洋と東洋、ジェンダーほか、さまざまな異なるものを持つふたり。ともにアーティストであり、どちらかが補完するような関係ではなかった。だからこそ「WAR IS OVER ! IF YOU WANT IT(争いは終わる。そう望めば)」と大きな声で言うことができたのだ。

『DOUBLE FANTASY―John&Yoko』
ジョン・レノン&オノ・ヨーコ、彼らの言葉、音楽、アート作品、世界に発したメッセージや身の回りのものなど、貴重な展示品でたどるふたりの創作活動と人生の物語。2018〜2019年、『ジョンの故郷であるリバプールのために』とヨーコ自身も深く関わり、観客70万人を動員した展覧会が、ジョンの生誕80年、没後40年でもある今年、ヨーコの故郷、東京で開催される。前衛芸術を切り拓いたヨーコと世界的ロックスターのジョンの誕生から出会い、今日までの軌跡をたどる

会期:10月9日(金)〜2021年1月11日(月・祝)
会場:ソニーミュージック六本木ミュージアム
住所:東京都港区六本木5-6-20
開館時間:10:00〜18:00(金・土曜~20:00)
11月3日(火)、23日(月)~18:00、2021年1月11日(月)~20:00
(入場は閉館の30分前まで)
休館日:12月31日(木)、2021年1月1日(金)
入館料(税込):一般 ¥2,600、大学生・専門学生 ¥2,100、高校・中学生 ¥1,200、小学生以下 無料
※ 別途、前売料金あり
公式サイト

※ 新型コロナウイルスの感染・拡散防止のための入場制限等は、公式サイトをご確認ください。

画像: © 2018 YOKO ONO LENNON

© 2018 YOKO ONO LENNON

映画『イマジン』
10月9日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国順次公開
1971年発表の名盤『イマジン』の収録曲それぞれに映像を作った初のビデオ・アルバムとも言われている。ジョンとヨーコが監督、制作

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