BY YOSHIO SUZUKI
2000~2001年、ニューヨークのジャパン・ソサエティで『YES YOKO ONO』展が開催された。キュレーターのアレクサンダー・モンローは旧知の仲の、当時、水戸芸術館現代美術センターで芸術監督を務めていた逢坂恵理子(現・国立新美術館長)に巡回の打診をした。「即刻、返事をしました。水戸ですぐにでもやりたいです、って。いろいろ難航もしたのですが、そのうち、韓国のリウム美術館にも巡回することによって作品の輸送費が抑えられるなど幸運が重なり、結果、水戸芸術館、広島市現代美術館、東京都現代美術館、鹿児島県霧島アートの森、滋賀県立近代美術館で開催が実現しました」
水戸芸術館では来場者にアンケートをとっていた。
「『“ビートルズを解散させた女”としかオノ・ヨーコのことを見ていなかったけれども、ビートルズと出会う前から、これだけ創造的な活動をしていた人だということがよくわかりました。彼女に対する考え方も変わりました』という回答がありました。オノさんは世界で最も知られている日本人女性とは言われているけど、本当のことを知っている人はそれまで少なかったのですね」

《平和のどんぐり》。ジョンとヨーコは東西対立の緩和、解決を祈って、1968年、ロンドンのコベントリー大聖堂の庭に2個のどんぐりを東と西に向けて植えた。その後、世界各国の首脳に2つずつどんぐりを送っている
PHOTOGRAPH BY KEITH MCMILLAN © YOKO ONO
自身の実像についても、活動についても、オノ・ヨーコは声高には語ってこなかったところがある。
「オノさんによって、ジョンは自らを解放して本来の姿になったと私は思います。ふたりの関係はどういうものですかって聞いたときに、“陰と陽。互いに必要としていてすごくいい関係だった”と」
オノ・ヨーコは2009年のベネチア・ビエンナーレで長年の功績を称える生涯業績部門金獅子賞を受賞している。
「ジョン・レノンのパートナーとしてではなく、コンセプチュアルアーティストとして美術界を切り拓き、日本と西洋を結びつけてきた表現が評価されたんですね。オノさんは新しく早すぎたところがありました。今でこそ彼女の代表作《グレープフルーツ》に共感する人は多いですが、当初は想像力を引き出す言葉を書いた紙が壁に貼ってあるだけですから、セザンヌの絵やロダンの彫刻が美術だと
思っていた1960年代の人には、簡単には向き合えなかったでしょう。美術大学で学んできた人とは違う、本当の意味での自由と発想の豊かさを見る側に問いかける作品でした」

オノ・ヨーコ『グレープフルーツ』より
© YOKO ONO “8TH DAY(AFTERNOON) COUNT - FROM YOKO ONO’S 13 DAYS DANCE FESTIVAL 1967”
社会活動家とも少し違う。ひとりひとりの思いを想像力で結び、平和を希求する志を共有していこうとする。特別な人にだけわかるものではなく、誰にでもわかる言葉や方法で表現されている。

《ウィッシュ・ツリー》。日本人はおみくじを木に結ぶが、そうした日本の文化をヨーコは作品に取り入れた。人々は願いを書いた紙を木に結ぶ。その紙は展覧会後に全部まとめてヨーコに届けられ、アイスランドのヴィーズエイ島に建設されたイマジン・ピース・タワーに収められる。願いはデジタルコピーされ、永久保存される
KLAUS OHLENSCHLAGER / PICTURE ALLIANCE / ZETA IMAGE
2011年のヨコハマトリエンナーレ。開催告知の記者発表会は3月11日、開始15分前に東日本大震災が起きた。「4月初旬、ニューヨークでオノさんは8月のオープンまで3カ月しかないのに、予定していた作品ではなく『日本にエールを送りたいから、新作を作る』と言ってくれたんです。その作品が《TELEPHONE IN MAZE》。アクリルの迷路を進むと真ん中に電話があって、オノさんから直接かかってくる作品。いつかかってくるかわからないのに長蛇の列ができて、彼女の声に皆、勇気づけられました。オノさんには、ニューヨークとロンドンと日本の時差表をお渡ししたんですが、たまに間違えて時間外にリーン、リーン。そのときは迷路をわかっているから私が最短距離を走っていく。『オノさん、今、こちらは夜7時ですよ』『あら、逢坂さん? そうなの』。そう言い合ってなごみました」

『YES オノ・ヨーコ』展で水戸芸術館現代美術センターのスタッフとの集合写真から
COURTESY OF ERIKO OSAKA
『DOUBLE FANTASY―John&Yoko』
ジョン・レノン&オノ・ヨーコ、彼らの言葉、音楽、アート作品、世界に発したメッセージや身の回りのものなど、貴重な展示品でたどるふたりの創作活動と人生の物語。2018〜2019年、『ジョンの故郷であるリバプールのために』とヨーコ自身も深く関わり、観客70万人を動員した展覧会が、ジョンの生誕80年、没後40年でもある今年、ヨーコの故郷、東京で開催される。前衛芸術を切り拓いたヨーコと世界的ロックスターのジョンの誕生から出会い、今日までの軌跡をたどる
会期:10月9日(金)〜2021年1月11日(月・祝)
会場:ソニーミュージック六本木ミュージアム
住所:東京都港区六本木5-6-20
開館時間:10:00〜18:00(金・土曜~20:00)
11月3日(火)、23日(月)~18:00、2021年1月11日(月)~20:00
(入場は閉館の30分前まで)
休館日:12月31日(木)、2021年1月1日(金)
入館料(税込):一般 ¥2,600、大学生・専門学生 ¥2,100、高校・中学生 ¥1,200、小学生以下 無料
※ 別途、前売料金あり
公式サイト
※ 新型コロナウイルスの感染・拡散防止のための入場制限等は、公式サイトをご確認ください。

© 2018 YOKO ONO LENNON
映画『イマジン』
10月9日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国順次公開
1971年発表の名盤『イマジン』の収録曲それぞれに映像を作った初のビデオ・アルバムとも言われている。ジョンとヨーコが監督、制作