威風堂々としたオーラをまとい、異彩を放つ女優、シガニー・ウィーバー。約半世紀にわたるそのキャリアにおいて、彼女はイメージを決めつけられることも定義されることも拒んできた。現在71歳になるが、ともすればこれまで以上に意欲的に、彼女らしく、“遊び心も携えて”、前へ突き進んでいく

BY FRANK BRUNI, PHOTOGRAPHS BY CRAIG MCDEAN, STYLED BY JASON RIDER, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 彼女は言われるがまま、コメディの道に進んだ。それも出だしから、クリストファー・デュラング(大学院の親友で劇作家)の、荒唐無稽な不条理喜劇に出演した。「デュラングの『タイタニック』がいい例だけど、当時私が演じた奇妙な役柄について知ったら、そのあとなぜ私がこんなに多くのクレイジーな役を演じることになったかがわかるはずよ」。このコメディには「私、バギナでヤマアラシを育てている統合失調症を演じているうちに自信を回復したの」というセリフがあったらしい。この舞台出演後は「ほかのことがみんなひどく簡単に思えたわ」とウィーバー。

 新人発掘のために舞台を見に来たタレント・エージェントたちは、彼女の“威風堂々としたオーラ”のせいで役の幅が限られるだろうと評した。だがそれでもオーディションの話はいくつか舞い込み、そのなかのひとつが『エイリアン』だった。当時のリドリー・スコットはデビュー作を1本撮っただけの新人監督であり、これがメガヒット作になるとは思ってもみなかったウィーバーは、どこか懐疑的な気持ちで面接に臨んだ。「ズボンに、娼婦みたいなオーバーニーブーツを合わせて出向いたのよ。8cmくらいのハイヒールだったわ」と述懐する。

「なぜあんな格好をしたか自分でもよく覚えていないけれど、何となくSFっぽいと思ったのかもしれないわね」。スコットから台本について意見を求められた彼女は「どんよりと暗い雰囲気で、セックスシーンは非現実的ですよね(最終的にそのシーンはカットされた)」と無遠慮に言い放った。だがスコットは彼女の意見に関心を示し、耳を傾けた。「彼は最終的に、独自の官能的な優美さを漂わせながら、白黒はっきりした明快なストーリーを作り上げたの。それまでの映画にはなかった“美しくも恐ろしい世界”に私は夢中になったわ」

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『エイリアン』でウィーバーはスターダムにのし上がり、わずか数年後、『危険な年』(1982年)ではメル・ギブソンの相手役を演じた。ギブソンは彼女より背が低かったが、ロサンゼルスでの公開記念セレモニーの際に「一番高いハイヒールを履いてきてよ」と言ってくれたらしい。「こんなことは滅多に言われないから、つい話したくなってしまって」とウィーバー。多くの男優、プロデューサー、監督は、彼女が部屋に入るなり慌てて椅子に腰かけたという。隣に並んで背を比べられたくないのが、ありありとわかったそうだ。

『エイリアン』の続編の話がきたとき、出演するか迷った彼女は、まずキャメロンが書き上げた脚本に目を通した。するとリプリーは前作よりずっと存在感のある、物語全体のキーパーソンとして描かれていた。一作目では、乗組員に次々と襲いかかるエイリアンと死闘し、地球に帰還できた唯一の生存者にすぎなかった。だが続編では、宇宙船内で起きた悲劇が入植した「LV-426」惑星で再発しないよう、リプリーは宇宙海兵隊と惑星調査に赴き、壮絶な戦いを繰り広げる。それはまさに女性主導の戦争映画で、女性という性から“弱さ”を切り離した世界だった。そのうえこのタフなリプリーは、一部の男性乗組員には欠けている謙虚さと人間性をも備えているのだ。この新しいヒロイン像と、ウィーバーの緊張感あふれる迫真の演技が功を奏して、『エイリアン2』はエポックメーキングなフェミニズム映画として一躍脚光を浴びた。こうして彼女は戦う強い女性の象徴として、『トゥームレイダー』シリーズのアンジェリーナ・ジョリー、『ハンガー・ゲーム』のジェニファー・ローレンスなどのロールモデルにもなった。

 ウィーバーは強さだけでなく、あふれだすような母性を演じるのも得意だ。その表現が見事なあまりキャメロン監督は『エイリアン2』の一部のシーンを不要とみなし、カットして劇場公開した。元の脚本にあった、人工冬眠状態で(年をとらずに)宇宙を漂流している間に、娘が先に老いて他界したことをリプリーが知らされる場面だ。その悲しみが、荒廃した植民地で出会った少女をリプリーが必死に守る伏線となるはずだった。だがキャメロンは編集作業をしながら、ウィーバーが少女と演じたシーンだけでその絆の深さが十分伝わることに気づき、前置きを省いたのである。

『エイリアン2』の撮影中に、母親になることについて真剣に考えるようになったというウィーバーは、その数年後、夫の舞台演出家ジム・シンプソンとの間に女の子をもうけた。名前はシャーロット、現在30歳になる。出産後ウィーバーは家族を中心にして仕事のペースを少しだけ緩めた。これは同世代の女優たちにとって自然なことだったが、シシー・スペイセクやデブラ・ウィンガーのように一度緩めたペースを二度と戻さないタイプと、演劇教育を受けたストリープやウィーバーのように、すぐに第一線に復帰するタイプに分かれていた。ウィーバーにとって休業は難しいことでも特別なことでもなかった。デビュー以来ずっと、好きなリズムで仕事をしてきたし、特定のイメージを保ちたいと思ったこともなかったからだ。ハリウッドでの定住を特に望んでもいなかったウィーバーは、ニューヨーク州北部、アディロンダック山地の奥深くに160ヘクタールの大邸宅を購入し、そこで家族と多くの時間を過ごした。

「シガニーは何時間だってハイキングに出かけるし、凶暴なカミツキガメがいる湖なのに、そこで泳ぐのが一番幸せって言うような人なの」と語るのは、イギリスの監督兼女優のセリーナ・カデルだ。ウィーバーの親友で、ふたりは知り合って40年以上にもなる。初めて会ったのはロンドンの屋外のパブ。ふたりの共通の友人と一緒にウィーバーを待っていたカデルは、その日ウィーバーがどんなふうに現れたか今でもよく覚えている。「ガゼルみたいな生き物が、危なっかしい様子で跳びはねるようにして道路を横切ってね。気づいたら今度は壁を飛び越えて、私たちのところに座り込んできたのよ。シガニーの快活でクレイジーな性格にも圧倒されて『なんて変わった子!』って思ったわ」

ウィーバーは確かに人と違う。高い背と、イェールの演劇教師の冷評(悩んだからこそ、わざわざ私に話したのだろう)が引け目になって、自分には似合わず、演じられない役を前にすると、彼女はつまはじきにされた気がしたという。そもそも当時ロマンティックなヒロインといえば、小柄なブロンドヘアの女優の専売特許だった。だが彼女は負けずに、自分が得意とする、自分にふさわしい役を、自分らしく演じるために全精力を注いだ。

「ちょっと変わった、どこか普通とずれている女性の役をとにかくたくさん演じたわ」とウィーバー。作品に少しでも興味をもったら、何だって挑戦した。商業的すぎるとか、俗っぽいからという理由で出演を断ったこともない。気取ったり偉ぶったりするつもりはみじんもなかったからだ。

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