ソフィア・ローレン、
約10年ぶりに映画に復帰
――「私は完璧主義者」

Sophia Loren Makes Her Return to Film: ‘I’m a Perfectionist’
86歳になったスターは、脚本との心からのつながりを求めていた。そんなとき、映画監督である彼女の息子とNetflix映画『これからの人生』に期せずしてめぐり合った

BY SIMON ABRAMS, TRANSLATED BY NAOKI MATSUYAMA

 ソフィア・ローレンは、いったいどうしていたのだろうか?

 かつて世界的に「魅惑」の在り方を方向付けたと言っても過言ではない、イタリアの偉大な女優ソフィア・ローレン。そのローレンが主演し、11月6日に公開された(註:アメリカでの公開日。日本でも現在公開中)、Netflixの映画『これからの人生(The Life Ahead)』を見ると、冒頭の疑問が浮かんでくる。10年前のテレビ映画以来初となるこの作品は、彼女の映画への情熱と、彼女の人生においてもう一つの大きな情熱である家族を結びつけるものだ。現在86歳のローレンは、女優としてのキャリアよりも家族を優先してきたが、今回の新作では、その両方に対する愛が重なり合っている。この映画の共同脚本家・監督は、二人の息子のうちの次男、エドアルド・ポンティなのだ。

画像: 新作映画の監督を務めた息子のエドアルド・ポンティが自宅で撮影したソフィア・ローレン PHOTOGRAPH BY EDOARDO PONTI

新作映画の監督を務めた息子のエドアルド・ポンティが自宅で撮影したソフィア・ローレン
PHOTOGRAPH BY EDOARDO PONTI

 ローレンはポンティとの3度目のコラボレーションとなる『これからの人生』で、イタリアのホロコースト生存者、マダム・ローザを演じ、セネガルの孤児モモ(イブラヒマ・ゲイェ)を引き取り、やがて絆を深めていく。

 この映画の「寛容」というメッセージに惹かれて女優業に戻ったローレンだが、今回のように作品に対して個人的なつながりを求めていたために、プロジェクトの選択に関しても慎重になっていたと、彼女は錆びついた英語で語った。また、アカデミー賞の受賞者でもあるローレンは、現代のポップカルチャーにも影響を与え続けているが(ポップソング「Zou Bisou」のローレン版「Zoo Be Zoo Be Zoo」は、自分では見たことがないというアメリカの人気テレビドラマ『マッドメン』でカバーされた)、彼女自身はあらゆるトレンドを追いかけるプレッシャーは感じていないと言う。

画像: Netflix映画『これからの人生』独占配信中 www.youtube.com

Netflix映画『これからの人生』独占配信中

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 ジュネーブの自宅からの電話インタビューで、ローレンは、優雅に年を重ねること、息子から演技指導を受けること、気に入っている役について語った。ここでは、その会話の一部を抜粋して紹介する。

ーー 1980年から映画の出演数が少なくなりました。エドアルドが生まれて7年、長男のカルロJr.が生まれて12年後の年ですが、なぜ仕事を減らされたのですか?

 当時、私は 「ソフィア、あなたは人生に何を求めているの?」と自問自答していました。自分から返ってきた答えは、「素敵な家族が欲しい」そして「子供がふたり欲しい」というものでしたが、それは私が既に持っているもので、にもかかわらず会う時間がなかった。そういう状況だったので、「これからは少しペースを落とそう」と自分に言い聞かせたんです。でも、「少しペースを落とす」どころか、単純に仕事をしなくなりました。仕事が好きではなかったからではありません。スタジオに住んでいることが多かったので、家族のことをもっと知りたくなったんです。「ソフィア、今は演技を控えて、後から巻き返せばいいわ」と思った時は、自分でも驚きました。長い間、映画への出演を控えていましたが、子どもたちが成長し、結婚し、自分たちの子どもを持つ姿を見ることができたので、とても幸せでした(50年連れ添った夫カルロ・ポンティは2007年に他界した)。

ーー 今はどんな台本が送られてきますか?

 今でもたくさんの台本が送られてきますが、『これからの人生』のように心に響いたものはありませんでした。それが10年近く演技の仕事をしてこなかった理由です。自分にとってインスピレーションとなり、かつ演じる上で新たな挑戦になるような役を求めていたんです。マダム・ローザは、時に相反するような異なる感情を持つ、まさにそのような役柄でした。そして、映画が表現する「寛容と愛を持って受け入れる」というメッセージにも共感しました。

画像: ホロコーストの生存者役のローレンが、イブラヒマ・ゲイェ演じるセネガルの孤児を引き取る。Netflix映画『これからの人生』独占配信中 REGINE DE LAZZARIS AKA GRETA / NETFLIX

ホロコーストの生存者役のローレンが、イブラヒマ・ゲイェ演じるセネガルの孤児を引き取る。Netflix映画『これからの人生』独占配信中
REGINE DE LAZZARIS AKA GRETA / NETFLIX

ーー ご自身のことを「完璧主義者」と表現されることもありますが、『これからの人生』はエドアルドさんとの3度目のコラボレーションということで、息子さんからの演技指導を、より受けやすくなりましたか?

 私は完璧主義者ですが、エドアルドも同じです。エドアルドは私に安心感を与えてくれます。それに、私が最高の演技をするまで、彼は決して諦めません。妥協は絶対せず、私から何かを引き出すためのスイッチの入れ方を知っています。だからシーンの撮影後、エドアルドが「これだ」と言えば、彼が期待する演技ができたと安心できるわけです。それは、女優にとっては素晴らしい感覚です。やっていることに迷わなくてすみますから。

ーー ヴィットリオ・デ・シーカのような監督からは、何を教わりましたか?

 デ・シーカ監督が教えてくれたのは、流行などではなく、自分の直感に従うということです。口で言うほど簡単ではありませんが、大切なことです。デ・シーカ監督に出会ったのは17歳の時でした(その後、1954年に複数のコラボレーションの最初の作品となる『ナポリの黄金』に出演)。彼は、私にとって聖人のような人、世界最高の監督でした。その彼が私に会いたがって、「ナポリから来たのか。じゃあ、君にぴったりの役がある」と言ってくれたんです。それが私の映画人生の始まりです。ヴィットリオ・デ・シーカとの出会いから始まったんです。

ーー 作品を通して、あるいは直接のやり取りを通して、感情的なつながりを感じることができる監督と仕事をすることは、どれぐらい重要でしたか?

 まあ、アメリカで映画に出演し始めた時には、それは不可能なことでした。アメリカの偉大な俳優たちと一緒に仕事をする上で、たくさんのことを学ぶことができましたが、それは私にとっては完全なる異国での体験でもありました。まだ子供のようだった22歳の時に、ケーリー・グラントやフランク・シナトラと(1957年の『誇りと情熱』で)一緒に仕事をしました。当時の私は、英語は母国語ではなかったので、ひどい話し方でも、英語を使って仕事をすることの可能性を感じていました。私は、話し声や音楽の音をとても大切にしているので、音を通してすぐに英語を覚えました。初めてのアメリカ映画の撮影は、とても素敵な時間でした。出演した作品は、『楡の木蔭の欲望』、『月夜の出来事』などですねーー全部は覚えていませんが。

画像: 自分の子供に会えていないことに気づいたローレンは、1980年代初めから仕事と距離を置くようになった PHOTOGRAPH BY EDOARDO PONTI

自分の子供に会えていないことに気づいたローレンは、1980年代初めから仕事と距離を置くようになった
PHOTOGRAPH BY EDOARDO PONTI

ーー 今はいかがですか?

 思い入れを感じることができる役柄でないとだめですね。役柄を自分の肌で感じられないと、最高の演技ができないからです。

ーー 最近の映画やテレビは見ていますか?

 テレビでニュースを見ることがほとんどですが、『ザ・クラウン』はとても気に入りました。

ーー 回顧録『Yesterday, Today, and Tomorrow : My Life』のなかで、女優としてのキャリアを「私は機会に恵まれ、イタリア映画にとって素晴らしい時期を、光栄にも直接体験することができた」と表現されています。最近のイタリア映画や監督にはあまり興味がありませんか?

 今はあまり映画やドラマを見ないのですが、マッテオ・ガローネとパオロ・ソレンティーノの映画は楽しんで見ています。それに偶然ですが二人ともナポリ人ですし!

ーー 2011年には『カーズ2』のイタリア語吹き替え版でママ・トポリーノの声を演じられました。どんな感じでしたか?

 アニメーション映画をあまり見たことがなかったので、どのような役になるのか良くわかっていなかったのですが、『カーズ2』は孫のお気に入りの映画のひとつです。

ーー 自分のことを信心深い人、または信仰心の篤い人だと思っていますか?

 もちろんそうです。教会には行きませんが、神を信じています。家で祈っています。

画像: 今では昔の映画で「自分のことを見ていると、全くの別人を発見するような感覚になる」と、ローレンは言う PHOTOGRAPH BY EDOARDO PONTI

今では昔の映画で「自分のことを見ていると、全くの別人を発見するような感覚になる」と、ローレンは言う
PHOTOGRAPH BY EDOARDO PONTI

ーー 優雅に年を重ねることは、意識していることですか?

 老いを受け入れて今を生きていれば、優雅に年を重ねることができます。

ーー『Nine』で共演したダニエル・デイ=ルイスを尊敬していると言われましたが、彼が引退した今、好きな俳優や女優は誰ですか?

 引退していようがいまいが関係なく、私は今でも彼のことがとても好きですよ! 本当に素晴らしい俳優で、いつも感心させられます。あと、メリル・ストリープも大好きです。彼女は素晴らしい女優です。

ーー 若い女優にアドバイスはありますか?

 何も言えることはありません。演技が好きだから女優になるべきだと思ったら、自分の心が教えてくれた通りに、女優としての人生しか考えられないような状況に身を置くことです。結婚するかしないかは、その後わかることでしょう。人生はひとつのことだけではありません。時にはたくさんのことが同時に起きたりもします。

ーー ご自分が出演している映画を改めて見ますか?

 私は自分に厳しい傾向があるので、自分の作品はすぐには見ない方がいいんです。たまにテレビで私が出演した映画をやっていたら、興味本位で見ることはありますし、何年も前の作品だったら、子供たちが見たことがないかもしれないから一緒に見ることもあります。何年も時が経ったあとに昔の自分のことを見ていると、まるで自分の中に全くの別人を発見するような感覚になることがあります。それは面白い経験で、好きです。

ーー 特に誇りに思っている演技はありますか?

『ふたりの女』での役は、私にとって大きな意味を持っています(第二次世界大戦中の苦労するシングルマザーを演じたこのデ・シーカ作品で、1962年にアカデミー賞を受賞した)。でも、『特別な一日』で演じた役(隣人がゲイであることを知った後、より思いやりを持つようになる主婦の役)もそうです。すべてはストーリーと、デ・シーカさんのような偉大な監督による作品の完成度にかかっています。彼と仕事をするのは最高でした。マルチェロ・マストロヤンニとつくった映画も同様です。

ーー これからも演技を続けていきたいと思っていますか?

 演技は好きなので、やめる理由はありません。

2020年11月14日の『ニューヨーク・タイムズ』紙(ニューヨーク版)では、この記事の別バージョンを掲載しています(1ページ、セクションC「Feel the Role In Your Bones」)

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