Netflixで配信中のドラマ『ザ・クラウン』で、チャールズ皇太子の役を演じた俳優のジョシュ・オコナー。リベラル左派を自称する彼にとっては、それまでとりたてて興味のなかった役ではあったが、オコナーはそれを見事に演じきった

BY KATHRYN SHATTUCK, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

 オコナーはコッツウォルズ近郊の温泉街であるチェルトナムで、3人兄弟の次男として幸せな少年時代を過ごし、ブリストル・オールド・ヴィック演劇学校で学んだ。同校の卒業生には、オコナーにとっての2大スターであるピート・ポスルスウェイトとダニエル・デイ=ルイスがいる。「理想的な環境だったといえるかどうかはわからない」と彼は言う。「だけど、僕はすごく気に入っていたよ」

 卒業後すぐに、TVドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』と『リッパー・ストリート』の端役を得た。その後、ITVとマスターピース社の製作によるドラマ『The Durrells in Corfu(原題)』の長兄役として主役の座を射止めた。1930年代を舞台に、ギリシャ・コルフ島に引っ越してきた英国人のダレルー家を描いたドラマだ。

 しかし彼が本当にブレイクするきっかけになったのは、フランシス・リー監督の長編デビュー作、2017年に公開された『ゴッズ・オウン・カントリー』(日本では2019年公開)だ。オコナーが演じたジョニー・サックスビーは悩める大酒飲みの同性愛者で、ヨークシャーで農場を経営する一家の息子として必死に働いている。ルーマニア移民の労働者と出会ったことで、彼の心は少しずつ解きほぐされていく。非常に難しい役どころだ。

 リー監督は書類審査でオコナーの写真に目を留めた。「彼の耳がすごく気に入ったんだ」とリー。しかしオコナーの提出したビデオ映像が気がかりだった。「感情的に抑圧された難しい役どころを、見事なまでに演じきっていた。だから、演じているというより単に自分自身のままでいるだけなんじゃないかと思ってしまった。だから少しだけ心配だったんだ」

 ついにふたりが顔を合わせたとき、リーは衝撃を受けた。「とにかくひょうきんで、陽気で礼儀正しい中産階級の青年といったふうで、彼が演じるキャラクターとはあまりにもかけ離れていたから」とリー。「彼こそはまさに、変幻自在の表現力をもつ稀有な役者だね」

 撮影に備えてオコナーは、リーの育ったウェスト・ヨークシャー近郊にある農場で1カ月ほど本気で農作業を行ない、撮影の合間には羊の分娩を手伝った。「撮影をしていて『カット』と言われると、農場で実際に働いているジョンがトラックでやってきてこう言ったんだ。『ジョシュ、子羊が生まれそうだ』って」とオコナーは回想する。「子羊を出産させて、歩ませてやり、手を洗ったところで『アクション』となって撮影を再開する。そんな感じだった」。オコナーの計算によると、彼は全部で150頭ほどの羊を出産させたと言う。「最初のころの僕は使いものにならない農家だった」と彼は続ける。「最後までにちゃんとできるようになれたかはわからないけれど、でも農家のジョンとは今も良い友達だし、いつか僕を雇ってやろうと言ってくれた」

 2017年、この『ゴッズ・オウン・カントリー』でオコナーは英国インディペンデント映画賞主演男優賞を受賞。その2年後、不妊治療に悩むカップルを描いた映画『Only You(原題)』でも同賞を受賞した。

 オコナーが『ザ・クラウン』に初登場したのは、2019年末のこと。製作兼脚本のモーガンは、誰か他の役者をチャールズ役に検討していたこと、またオコナーが、チャールズ役に欠かせない例の耳の形の持ち主であると後から気づいたときのことを、もう思い出せないと言う。むしろ「彼の繊細さ、複雑だが好感の持てる人柄に魅力を感じて、たちまち興味が湧いたんだ」とモーガン。「そしていくつかセリフを読んでもらった瞬間、一発でわかった。『彼が第一候補だ』って」

 オコナーは『ザ・クラウン』シーズン1・2をすでに観ていた。彼の親友である俳優のヴァネッサ・カービーがマーガレット王女役を演じていたからだ。「それで英国王室のファンになったんだ」と彼。階級のない社会を求める信念とロイヤル・ファミリーの存在は両立しがたいが、華麗にして堂々たる『ザ・クラウン』は彼らロイヤル・ファミリーを美化しているわけではないと彼は考えている。「ピーターの作るものは、すべてを丸裸にする」と彼は言う。「これは家族や権力、政治と非常に奇妙な関係性をもった人々、そして懸命に闘う人々の物語だ。これはスキャンダルだよ」

画像: シーズン4でのチャールズは、注目をさらったダイアナ皇太子妃(エマ・コリン)との結婚に縛りつけられ、不機嫌な顔をした男として描かれる Netflixオリジナルシリーズ『ザ・クラウン』シーズン1~4独占配信中 COURTESY OF NETFLIX

シーズン4でのチャールズは、注目をさらったダイアナ皇太子妃(エマ・コリン)との結婚に縛りつけられ、不機嫌な顔をした男として描かれる
Netflixオリジナルシリーズ『ザ・クラウン』シーズン1~4独占配信中
COURTESY OF NETFLIX

「だけど僕は、(階級のない社会への)信念を持ちながら王室の人々に尊敬と好意を持つことは可能だし、愛することだってできると思っている。女王は素晴らしい女性だと思うね。男たちは何度も失敗しているのに、権力の持ち主である彼女は常に信念を貫き、義務に忠実で、政治に関与しすぎない態度を保ち続けている」

「そういう意味で、女王のことはとても尊敬する―― そして正直に言えばチャールズのこともね。つまり、チャールズは一般の民衆とはだいぶレベルが違うとはいえ、いまだ到来しない自分の人生が始まる瞬間を、文字どおり待ち続けている人間のひとりなんだ」

画像: 「最後には、彼は哀れで打ちのめされた人間のようになるんだ」とチャールズについて語ったオコナー PHOTOGRAPH BY CHARLOTTE HADDEN FOR THE NEW YORK TIMES

「最後には、彼は哀れで打ちのめされた人間のようになるんだ」とチャールズについて語ったオコナー
PHOTOGRAPH BY CHARLOTTE HADDEN FOR THE NEW YORK TIMES

 しかしオコナーにとっての「人生が始まる瞬間」はすぐそばまで来ている。
 近頃の彼は、エヴァ・ウッソン監督による映画『Mothering Sunday(原題)』の撮影にかかりきりになっていた。原作はグレアム・スウィフトの小説で、他の出演者にはオリヴィア・コールマン、コリン・ファース、オデッサ・ヤングらが名を連ねる。そして現在はナショナル・シアターのテレビ映画作品『ロミオとジュリエット』のリハーサル中である。相手役はジェシー・バックリー(出演作は映画『もう終わりにしよう。』など)で、来春にアメリカPBSと英スカイアーツで放映予定だ。「彼はいたずらっ子なんです」と話してくれたバックリー。「目を輝かせて近づいてきたかと思うと、ギリギリのいたずらを仕掛けてくる。安心していると、ふたりとも崖から思い切って飛び降りるはめになるんです」

『ザ・クラウン』シーズン4の最終話に、こんなシーンがある。モーガンによる思い切った演出で、オコナーはチャールズのうわべだけ取り繕ったような態度をかなぐり捨て、カミラの件でダイアナを激しく責め立てる。「ウィンザー家には、かっとなりやすい気性で知られたメンバーがたくさんいるわけだから」とモーガンは言う。「だから私はこう言ったんだ。『よし、まずはやるだけやってみよう。怒りを示し、本当の気持ちを見せるんだ』って」

 彼はさらに言う。「非常に痛々しいシーンだ。そしてこのシーンでは、視聴者がチャールズに抱く、相反する感情が露わになる。彼は結婚相手たるダイアナには信じられないくらい残酷なのに、同時に愛するカミラにはものすごく忠実で一途なんだ。ジョシュはその二面性を非常にうまく表現していると思うよ」

 それは、このシーズンにおけるオコナーのお気に入りのシーンでもある。「はじまりが称号の叙任式ならば」と彼は言う。「終わりは、結婚生活の崩壊だったというわけだ。そのシーンで彼はこう言うんだ」―― ここでオコナーは実際に首を前に突き出し、猫背の姿勢になって怒鳴った――「『この不幸な結婚で責められるのはうんざりだ』」

「僕にとっては、このセリフがすべてだね」とオコナー。「これが僕の演じるチャールズの退場のセリフだ。『よし、僕の仕事は終わったぞ。さよならだ』という、僕なりの挨拶になっているんだ」

2020年11月21日の『ニューヨーク・タイムズ』紙(ニューヨーク版)では、この記事の別バージョンを掲載しています(1ページ、セクションC「Immersed In a Role That He Didn’t Want. 」)

 

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