映画や演劇やテレビ、そしてビジュアル・アートやソーシャルメディアの分野で、より多くのろう者(聴覚障害者)のクリエイターたちが「アメリカン・サイン・ランゲージ」を使い、手話を表現文化に組み込んでいる。彼らはそうすることで、長い間ずっと沈黙させられてきたコミュニケーションの手法を人々に伝えているのだ

BY JAKE NEVINS, ARTWORK BY CHRISTINE SUN KIM, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 また、過去10年ほどの間に、インターネット以外の領域でも、多様性に富んだ人々を描いた膨大な数の作品が登場し、その中には、ろう者たちが手話で表現するコンテンツもかなり増えてきていた。さらに、これまで何年も無視されてきたろう者コミュニティにとって、史上初の出来事が最近続いている。まず、最新シーズンのテレビ番組『バチェラー』にろう者の参加者が登場し、今年の後半には、トニー賞ノミネート経験のある女優、ローレン・リドロフが初のろう者のスーパーヒーロー、マッカリを演じるマーベル映画の『エターナルズ』が公開される予定だ。

 そして、「ろう者の両親を持つ子ども」を意味する言葉の頭文字を題名にした映画『CODA』が、今年のサンダンス映画祭で大好評を博し、アップルスタジオが2,500万ドル(約27億円)という同映画祭史上最高額で配給権を獲得した。各州が新型コロナウイルス感染症の状況を発表する記者会見の場ですらも、視聴者に生死に関わる情報を伝える手話通訳者たちが、ちょっとした有名人になるほどだった。そのおかげで、ASLにも注目が集まり、ろう者たちがこれまで、いかにさまざまな場面で端に追いやられていたかも白日の下に晒された。昨年秋、全米ろう者協会がトランプ政権を正式に裁判で訴えたのは史上初のことだ。ホワイトハウス側がコロナウイルス関連の説明記者会見に手話通訳を提供しなかったためだ。一方、バイデン大統領が就任して1 週間もたたないうちに、新政権の報道官は、日々の記者会見のすべてにおいて手話通訳者が出席すると発表した。

これは歴代大統領の中でも初めてのことだ。過去数年の間、こういったいくつかの快挙は起こるべくして起こったように見える。しかし、こうした扱いを受けることが、ろう者の当然の権利なのだという認識が広まったから実現したというわけではなく、チャンスとそれを可能にする状況がたまたま揃ったために実現したわけだ。だが、今、パンデミックの最中にそうした変化がさまざまな所で起きているのは、単なる偶然ではない。デモや動乱をきっかけとして、機会と平等についての率直な会話が活発に行われるようになった。さらにパンデミックにより対面から画面にコミュニケーションの場が移り、ビジュアルの量が音声の量を凌駕する中、改めて、切羽詰まった状況下での共感が深まり、お互いを理解しようという試みが触発されてきた。今、私たち全員が、人とのリアルなつながりに飢えている状況で毎日を送る中、今までになかった新しいつながり方を受け入れ始めている。そこから、言語が、必ずしも音やテキストから発したものである必要はなく、手話がその源になってもいいのだ、という認識もまた生まれてきた。

 最も著名なろう者クリエイターたちや、今実際に活動しているアクティビストたちの多くと話すと、彼らの中にワクワクする気持ちと懐疑の念が混じり合っているのを感じる。ろう者の世界と健聴者の世界の間の溝を埋めたい、という気持ちがあるのと同時に、それを達成するのに何年も根気強く頑張らねばならないことに、彼らは疲れ果ててしまうのだ。「時々ね」とベルリン在住の40歳のビジュアル&サウンドアーティスト、クリスティン・スン・キムは言う。「健聴者はろう者に出会うと、どうしていいかわからない。だから結局私たちは、彼らのやり方でコミュニケーションするはめになってしまう」

活力あふれるキムの作品の中でも、最近ロサンゼルスのフランソワ・ゲバリー・ギャラリーに展示された《Trauma, LOL(トラウマLOL)》と題されたシリーズは出色だ。「ろう者ではない人々に何度も何度も何度も説明しなくてはならず、彼らのおかげで私たちの仕事が倍に増えている」という、思わず脱力してしまう心境を描いているからだ。2013年にキムがTED(註:「TEDトーク」と呼ばれる講演を通じ、先進的なアイデアを発信するカンファレンスメディア団体)のフェローに選ばれ、さらにその6 年後にホイットニー美術館のビエンナーレの展示メンバーに選ばれると、美術館やギャラリーは彼女を少しは厚遇するようになったが、それでも彼女は手話通訳者が必要だと彼らを説得しなければならず、さらにキュレーターに子ども扱いされたり、展示させてもらえるだけでありがたいと思えと言わんばかりの態度をとられたりしたという。「私たちは、必要最低限のニーズを満たすためにすら、もっと抗議しなければならない」と彼女は言う。「もし自分だけのことを考えるなら、私はアクティビストでいたくはないけれど」

 何世代もの間、理解の進歩の速度はゆっくりで、しばしば遅々として進まない状態を経てきたため、ろう者が健聴者との交流に懐疑的になっても仕方がなく、ろう者のコミュニティは、それ自体で完結していた。その結果、彼らの間に、ASLは自分たちのものであるという意識が芽生え、ASLがバカにされたり商業化されたりすると、外界からの攻撃に必死に抵抗する姿勢が、ろう者たちの間に生まれるようになった。ネルソン・マンデラの葬儀で起用された手話通訳者のジェスチャーが、ほとんど理解できないほど意味をなさず、手話の質は最低だった。それをろう者たちが目撃したのは今からたった8 年前のことだ。しかし今や、米国現代語学文学協会の2018年の報告によれば、ASLはアメリカの大学でスペイン語とフランス語に続いて3番目に多く履修されている非英語の言語だという。

さらにインターネット上には健聴者によるASLの教習ビデオが大量にアップされている。これはやや困惑させられる指標ではあるが、手話がどれだけメインストリームの人々の間で認知されるようになったかを物語っている。「多くの場合、教習ビデオの手話は正確ではない。顔の表情、身体の動き、位置、手の形。教えるときにはそれらすべてが大切だから」とサットンは言う。彼女はワシントンD.C.にある、全米初で唯一の、ろう者のためのリベラル・アーツ専門のギャローデット大学出身だ。「結局のところ、彼らは自分がインフルエンサーになるために、私たちの文化や言語を使っているわけ」

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