映画や演劇やテレビ、そしてビジュアル・アートやソーシャルメディアの分野で、より多くのろう者(聴覚障害者)のクリエイターたちが「アメリカン・サイン・ランゲージ」を使い、手話を表現文化に組み込んでいる。彼らはそうすることで、長い間ずっと沈黙させられてきたコミュニケーションの手法を人々に伝えているのだ

BY JAKE NEVINS, ARTWORK BY CHRISTINE SUN KIM, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 昨年秋、Netflixが『ろう者たちのキャンパスライフ』というドキュメンタリー番組のシーズン1 を公開した。ギャローデット大学の数人の学部生の生活を切り取ったソープオペラ的な番組で、統括プロデューサーはろう者で俳優のナイル・ディマルコ(31歳)だ。彼もこの大学を2013年に卒業している。このシリーズは、一見よくあるリアリティショーのように見えるかもしれない。恋愛の三角関係、予期せぬ妊娠や、学生と父親との葛藤など、視聴者にとってなじみ深い話題が満載だからこそ、逆にその中にある斬新さが際立つのだ。若者たちのメロドラマの面白さと同時に、シリアスな側面も描かれており、過去から現在までを振り返るようなシーンもある。ニューヨークにあるバーのストーンウォールがゲイの人権を象徴する場所となったように、ギャローデット大学は現代のろう者運動の中心なのだ。1988年にこの大学の学生たちは、健聴者の学長の罷免を求めて、ろう者を新学長に据えるという、同大学史上初の快挙を成し遂げた。

 手話を通して見慣れた大学生活の情景を表現することで、この番組『ろう者たちのキャンパスライフ』は、ASLが実際にどう使われているかを徹底的に伝えると同時に、キャンパスライフに深く根づく社会階層をもあぶり出している。親の代からのろう者や生まれつきのろう者は、手話を完璧にマスターしているため、学生カーストの最上位に君臨する。一方、ろう者らしくない、と見られている学生たちもいる。

特に補聴器や人工内耳を装着している者は半人前のろう者と見られる。たとえば、ギャローデット大を卒業したろう者の両親を持つ白人の女性、アレクサは、上流階級出身とされ、学校のろう者の「エリート」だ。彼女はロドニーとディーコンという二人の黒人学生と同時につきあっている。この二人は完全なろう者ではなく、聴力が若干ある。この三人が、外界から閉ざされた独自の生態系である自分たちの世界で、これまではっきり語れなかったタブーについて率直に話すのだ。この番組の製作プロダクションのメンバーの多くがろう者だ。彼らは何の変哲もない会話の場合、撮影を切り上げ、ほかの場所で行われているもっと刺激的な会話を求めて動き回り、しばしば撮影を中断する。「多くの言語は顔の表情にこそある」とディマルコは言う。「それは、ごくわずかな表情の動きや眉毛の動きだったりする。だからカメラを操作する側にろう者がいて、こういう微妙なニュアンスに気づく能力があることが、撮影には不可欠なんだ」

アレクサがキャンパスの中庭のベンチに座り、首を鶴のように伸ばして周囲に誰もいないことを確かめてから、ディーコンに、自分を妊娠させたのはわざとかと聞くシーンがある。そのときアレクサは、まるでささやくかのように、太腿の下あたりの位置で手話をするのだ。『ろう者たちのキャンパスライフ』の副産物は、こうした特徴的なしぐさや表現への理解が深まることだ。すべての言語にはその言語特有の動きや特徴があるが、ASL独特の習慣をほかの言語で表すことは極めて難しいという思い込みが前提にあり、これまでは注目されずに見すごされてきた。言語というものがどんな範囲でどう使われるべきかを決めてきたのが常に健聴者だったため、長い間、言語とは音の領域なのだと考えられてきた。だが、クリスティン・スン・キムは2015年のTEDトークで、音を「身体で感じることができるし、または、映像やアイデアとして経験することもできる」と説明している。

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