映画や演劇やテレビ、そしてビジュアル・アートやソーシャルメディアの分野で、より多くのろう者(聴覚障害者)のクリエイターたちが「アメリカン・サイン・ランゲージ」を使い、手話を表現文化に組み込んでいる。彼らはそうすることで、長い間ずっと沈黙させられてきたコミュニケーションの手法を人々に伝えているのだ

BY JAKE NEVINS, ARTWORK BY CHRISTINE SUN KIM, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

 1960年に言語学者のウィリアム・ストーキーが『Sign Language Structure(手話の構造)』と題した論文を出版して初めて、それまで口語推進運動によって発展を阻まれていたASLの評判がやっと回復し、正式な言語として学問上で扱われるようになった。それから60年がたち、ろう者たちは再び彼らの母語である手話で話すことを奨励されるようになった。それはつまり、聴こえないことはハンディキャップではなく、正真正銘のひとつの文化なのだという理解が進み、それによって、その文化をいち早く支えてきた手話が再び見直され、尊重されるようになったのだ。手話かそうでないかにかかわらず、あらゆるアメリカの言語が、その領域を超越して進化を遂げつつあるのは単なる偶然ではない。

たとえば、黒人やラテン系や性的マイノリティなどの視点を通し、そのグループ内で共有される独特の言い回しや用語が生まれてきた。だからこそ、TikTok上にあるすべてのASLのコンテンツがある意味革命的と言えるのだ。TikTokの動画には字幕がついていることが多い。さらに、ろう者がスターバックスなどのドライブスルーで、手話を使って店員に商品を注文する光景を紹介する短いチュートリアル動画を、TikTok上で視聴者が目にする機会も多い。

TikTokのアプリは、本来であればほかの言語に翻訳しにくく消滅する危険に常にさらされている視覚言語を、完全保存できるアーカイブとしても機能している。テキサス在住の22歳のナキア・スミスは自らの動画の導入部分でまず、手にローションを塗る。これは、スピーチをする前に咳払いする習慣みたいなものかもしれない。スミスは、ろう者の家系に生まれた。彼女が4世代目だ。自作動画の中で彼女はブラック・アメリカン・サイン・ランゲージ(BASL)の細かいニュアンスを彼女のフォロワーたちに紹介している。スミスは手話の方言であるBASLを「ASLに薬味を振りかけた感じ」だと形容する。彼女はまた、字幕のない動画や手話通訳者のいない教室などの情報へのアクセスの悪い環境が、ろう者が社会参入しづらい状況を生んでいると指摘する。

 昨年10月、スミスと彼女の祖父がBASLの歴史を紹介した動画がネット上で話題になると、Netflixから連絡があり、両者がソーシャルメディアを通して協業することになった。その1 回目の放送では、スミスがBASL、つまり黒人のろう者たちの間で使われていた「方言」の歴史の源には、人種隔離政策があったことを解説した。多くの黒人ろう者と同様に、スミスは対話する相手に合わせて、ASLとBASLの両方を使い分けている。彼女いわく、BASLを使う人は、胴体の位置ではなく、必ず額の前あたりの位置で手話をする。また、ASLでは片手だけを使うことが多いが、BASLは両手を使う。今日、手話の方言に関する言語学の研究がほとんど存在しないのは、ろう者への差別と人種差別の両方の結果だと彼女は語る。だが、昨年夏のブラック・ライブズ・マターのデモには黒人ろう者たちが主要な参加者として含まれており、それが黒人ろう者の研究の必要性を急速に認知させ、最近、実際に調査が開始された。それとともに、インクルージョンを加速させる動きが高まり、ギャローデット大学に黒人ろう者研究センターが今年初めに設立され、黒人ろう者の人権運動の先駆けとなったさまざまなビデオ・キャンペーンも展開された。

 スミスたちは、多くのフォロワーを獲得したSNSのプラットフォームを、拡声器としてだけでなく、手話を記録し、歴史を保存する手段としても使っている。しかし、書き言葉にしてしまうとその複雑さが損なわれてしまう視覚言語を、どうやって質を保ったまま保存することができるのだろうか? この問題は演劇の分野で特に顕著だ。ASLを用いた演劇のビデオ製作では、ビデオ映像の権利は守られるが、手話の会話の表現はその権利の中に含まれない。それを避けるため、ニューヨークを拠点として活躍するろう者で劇作家であるガレット・ザーカー(41歳)は英語とASLの両方で作品を書いている。それは一般的な劇作と比べて、想像以上の労力を使う作業だが、彼はもう慣れてしまったと言う。「私の劇作では常に二つの言語を使っているし、ろう者のコミュニティではみんな日常で当たり前にやっていることだから」

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