ネイティブ・アメリカンの作家として全米図書賞など数々の賞を受賞しているアードリック。先住民族の書籍を主に扱う書店をみずから経営し、そこで過ごすスタッフたちとの時間から多くを得ていると語る

INTERVIEW BY THESSALY LA FORCE, PHOTOGRAPH BY NICK WAPLINGTON, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

ルイーズ・アードリック(作家)の3:00 P.M.

 私の一日は2 匹の犬とともに始まる。小さな黒い犬、ときには大きな白い犬も一緒だ。私が少しでも体を動かすと、彼らはすぐ反応する。彼らにとっては、この瞬間が一日の中で最も興奮するときなのだ。犬たちを家の外に出してやり、私は自分用に濃いコーヒーを淹れる。彼らが戻ってくると私は2 階に上がり、何を書こうかと考える。大抵は書きかけの小説に1~2段落つけ加えたり、ときには数ページ分筆が進むこともある。だが、私はひとつの作品の執筆だけに集中することはない。書類ファイルやノートや、新聞記事の切り抜きに走り書きしたメモの山などを見返しながら何日か過ごすこともあれば、ノートに紙をテープで貼ってメモの続きを書いたりもする。私は執筆にPCは使わない。使うのは手書きした文章を活字に変換するときだけだ。PCで編集したり文章を書いたりするのは冷たく感じるし、臨場感がなく機械的な感じがしてしまう。でも、作品全部をタイプして清書し直さなくていいところは気に入っている。

画像: アードリック、67歳。ミネアポリスのボックリー・ギャラリーにて、ジム・デノミーの絵画作品《Man and Woman With Child Emerging Under Walleye Moon(スケトウダラが獲れる満月の下で童心に還る男と女)》(2021年)の隣で、2022年3 月10日に撮影

アードリック、67歳。ミネアポリスのボックリー・ギャラリーにて、ジム・デノミーの絵画作品《Man and Woman With Child Emerging Under Walleye Moon(スケトウダラが獲れる満月の下で童心に還る男と女)》(2021年)の隣で、2022年3 月10日に撮影

 ランチは何を食べるかって? あるものなら何でも。昼はコーヒーではなく、紅茶にハチミツを入れて飲むことにしている。するとそろそろ書店に行きたくなる頃だ。2001年に私はミネアポリスにバーチバーク・ブックスという名の書店を開いた。北米史上、最初に書かれた書物のいくつかは、アニシナベ(註:最初からいた人々という意味の、五大湖周辺の先住民族)の人々によって白樺の樹皮で作った巻物に書きつけられていた。店の名前はそこからもらった。私が所属するトライブ(部族)はタートル・マウンテン・チッペワだ。私の店はダコタ・トライブ所有の土地に建っている。ネイティブ・アメリカンと先住民族の書籍を主に扱う小さなよろず屋的な店だ。フィクション、詩、歴史、政治、食に関する書籍や伝記のほか、先住民族の言語を今の世代に伝える教材、特にオジブウェ語とダコタ語の教材を中心に揃えている。私は書店を開いて、先住民族の人々が手作りした素晴らしい品々を販売したいと思っていた。ジュエリーやビーズ作品やカゴ、儀式に使うハーブなどの植物も販売している。店の建物は、ヒマラヤ杉の木と、冬の嵐でなぎ倒されて樹皮がついたままの白樺の木材で作った。店内には手作りのカヌーが天井から吊り下がっている。また、カトリック教会で昔使われていた懺悔(ざんげ)用のブースを「許しのブース」として置いている。懺悔をしなくても、手でブースにさわるだけで罪が消えるという具合だ。

 店から数軒先にあるボックリー・ギャラリーに立ち寄ることもある。ここもネイティブ・アメリカン・アーティストに特化している。このギャラリーの展示者を代表するアーティスト、ダイアニ・ホワイト・ホークとモン系アメリカ人のパホア・ハーは、今年のホイットニー・ビエンナーレ(註:ホイットニー美術館で隔年開催される現代アートの特別展示会)にも出展している。

 私の書店では、私は本にサインしたり、本を整理したり、カウンターを確認したり、みんなとジョークを言い合ったりして過ごす。スタッフの若い人たちを私は愛おしく思っている。彼らはまるで自分の親戚のようだ。この店はみんなの協力があってこそ成り立っている。コロナ禍の間、スタッフやお客さんひとりひとりと、より親しくなった。店を支援してくれた人々に感謝しているし、彼らのおかげで難局を乗りきれた。今度はそんな人々にお返しをすべく精いっぱい頑張っている。私たちの書店は洗練されてはいないし、おしゃれでもない。実際のところ、かなりゴチャゴチャした店だ。でも、それでいい。書店は完璧である必要はないし、同じことが作家にも言えるのだ。

INTERVIEWS HAVE BEEN EDITED AND CONDENSED. ARTWORK ON WALL: JIM DENOMIE, “MAN AND WOMAN WITH CHILD EMERGING UNDER WALLEYE MOON,” 2021, OIL ON CANVAS, COURTESY OF JIM DENOMIE ESTATE AND BOCKLEY GALLERY, MINNEAPOLIS

▼あわせて読みたい関連記事

【アーティストたちの24時間】記事一覧へ

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.