シャネルのアーティスティック・ディレクターのヴィルジニー・ヴィアール。セーヌ川の河岸を歩きながら、そしてパリの街そのものから彼女は日々の活力とひらめきを得る。全力を注いで真摯に仕事に向き合う姿勢と心構えが、その日常生活の一片からも伺える

INTERVIEW BY ZOEY POLL, PHOTOGRAPH BY CHRISTOPHER ANDERSON, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

ヴィルジニー・ヴィアール(アーティスティック・ディレクター)の4:00 P.M.

 毎日のように渡るパリのセーヌ川は、私にすがすがしさと、物事に挑むパワーを与えてくれる。カール・ラガーフェルドとはこの河岸でよく撮影をしたものだ。ほかにいい場所が思いつかないと、私たちはここにやってきた。

画像: ヴィアール、59歳。パリのセーヌ川のほとりにて、2022年2月1日に撮影

ヴィアール、59歳。パリのセーヌ川のほとりにて、2022年2月1日に撮影

 個人的には、人影もまばらな冬の寒々とした河岸を歩くのが気に入っている。自由を愛する私は、ゲートや柵で仕切られ、人でごった返した公園のような場所が苦手なのだ。ブルゴーニュ地方のディジョンで育ったが、大人になってからはパリで暮らしている。シャネルのアーティスティック・ディレクターであるからには、この街以外には住めない。パリという独特のコンセプトはここにしかないからだ。私はこの街と自分の頭の中を常に歩き回っている。3年前にカールからバトンを受け継いでからは物事を見る目が変わり、今はほかの街に行っても「ここなら、どんなショーができるか」とつい考えてしまう。

 アイデアは、仕事をしていないときによく浮かんでくる。アトリエで何も思いつかなくても、帰宅した途端に何かがひらめくのだ。その考えを携帯電話にメモしたり、スタッフに電話で伝えたりする。つまり無為に感じられる時間でさえ、実は何かをしているということになる。熟考する時間を要し、そうすることで安堵を得る私は週末に旅行などできない。

 直感型の私は、なんとなく人に見せたくない、モデルに着させたくないと思うものはスパッと見切ることにしている。創造力の行き詰まりを感じたことはないが、一旦気を緩めたら、慢性的なスランプに陥ってしまうかもしれない。そうならないように「大好きな仕事なのだから頑張ろう」と自分を諭している。もし精いっぱいやってうまくいかなければ、別のことをやればいい。

 私は、自分をアーティストだなどと思ったことはない。ガブリエル・シャネルは、女性をコルセットから解放して、真の意味で新しいモードを生み出した。でもすでに何もかも揃ったこの社会で、クリエーションの役目は変わったと思う。だから私はいつも柔軟な姿勢でいる。何にでも興味があり、ファッションと同じくらいデコレーションが好き。ブーケを束ねたり、野菜や果物を飾ったりして楽しんでいる。あらゆるものを所持していようと、何ひとつ持っていなかろうと、なんら違いはない。肝心なのは自身の〈あり方〉なのだから。

INTERVIEWS HAVE BEEN EDITED AND CONDENSED. PRODUCER: KITTEN. HAIR: SГBASTIEN LE COROLLER. MAKEUP: CAROLE HANNAH. PHOTO ASSISTANT: MATHIEU BOUTANG

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