BY JUNKO HORIE, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA
10月29日に初日を迎えるミュージカル『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』は約4年前に韓国で初演され話題を呼んだ作品だ。今回、中村倫也を主演に迎え、いよいよ日本版の上演が実現する。世界中の誰もが知る天才音楽家であり、聴力を失ってなお音楽への情熱を注ぎ込んだ悲運の人・ベートーベン。その喪失と運命を、舞台俳優としても確固たる実力で魅せる中村倫也が演じることで期待が高まっている。
──現在、初日向けて、稽古真っ最中とのことですが。
中村 まだ全幕通してはいませんが、目指す方向は間違っていないという実感と、長い公演期間であることを加味した上で、作品としてどこまで遠くまで行けるかを、日々積み重ねている感じですね。
──目指す方向、というのは?
中村 今まで僕の経験……板の上に立つにしろ、客席から観る側にしろ、劇場という空間があるじゃないですか。その空間にあるひとつひとつの粒子まで、主演の色に染められているような、バーンと一瞬にして支配する力が、今回は必要かなと思っています。何て言うんですかね……まざまざと芯の通った熱量を放出している物体がいると食らうし、惹きつけられると思うんですよ。
──楽しさ、苦しさも含め、稽古場での発見は?
中村 どちらも表裏一体ですね。この作品の中での自分、ルードヴィヒの役割は、しんどいことばかりで。けれども、そのしんどいことの中で何らかの手がかりが見つかったり、共演者とリンクしたり共有できたりすればそれは楽しいことでもあって。うまくいくこともいかないことも表裏一体で面白い。それが僕の仕事における豊かさであり、だからこの仕事を続けているんだと思います。
──ドラマ、映画、ストレートプレイ、そして今回はミュージカル。特に違う技術を求められますよね。
中村 今回、クラシカルな題材なので、ピアノ曲であったり、音楽もクラシカルな曲調がほとんどで。それに合う歌い方や、喉の使い方っていう部分に挑むのは、自分の経験の中では初めてのことかな、と。
──ルードヴィヒの人生には、耳が聴こえなくなるなど、音楽家としての苦悩が多く見られますが、そこに表現者としての自身の共感はありますか?
中村 幼い頃から音楽漬けで、ある時を境に聴覚を失う……それに置き換わるような経験を僕はしたことがないし、彼ほどの天才的な才能を持つ人物でもないのでね。イコールで噛み合うものは僕の中にはないですが、本読みで台詞を声にして出したら、僕もちゃんとしんどかった。自分の中の何かと結びついたんだな、という実感があったからだと思います。ささやかではあっても、挫折や絶望は誰しも経験して生きていると思うので、そういうものを拡大していけば、ルードヴィヒと近い熱量になれるんじゃないかな。そんな矢印を稽古初日に何となく感じました。
──どのようなしんどさが?
中村 全部です! フィジカルもメンタルも。そんなイメージはないかもしれませんが、僕はわりと舞台となるとエネルギー放出型の役者になるので(笑)。自分が客席に座る側になったら、役者が疲れないような舞台は観ていて楽しくないですし。今回のミュージカルが決まって、韓国版の荒い映像を観たときから惹きつけられるものがあった作品だし、それに自分が関わって世に出すとなったら、それ以上の何かを提出しないと気が済まない。本来、僕ってラクしたいタイブのはずなんですけどね(笑)。……舞台、映像に関わらず何かを演じるときは、毎回そういう何かを探す旅をしますね。そういう性なんでしょうね(笑)。
──ベートーベンの時代は、ドラマのある人生を背負った天才音楽家たちが多く生まれていますよね
中村 でもね、僕はそんなにベートーベンのこと知らないんです(笑)。この役が決まって、彼と登場人物をさらっとウエブで調べたぐらい。彼が書いためちゃくちゃ文句言ってる遺書と、生家をGoogleマップで見たりはしました(笑)。それくらいかな。僕はいつも、台本をもとに掘り下げていくことしかしないんですよ。台本から紐解いた彼は、自分が思う自分を体現できない、超えることができないのが、いちばんのストレスなんだろうなと。そんなジレンマや、業のようなものはすごく感じました。
──史実に引っ張られはしない?
中村 ……まぁ、僕がやるベートべンは、僕がやるベートーべンでしかないと思っています。だから、ビジュアルも多くの人の中にあるイメージに寄せようとは少しも思ってないですね。歴史って歪曲されるものですからね。どんな文献に残っているベートーベンも、それが彼そのものではないはず。会って話さない限り、本当のことなんてわからないな、って思いますよ。今回はシンプルに、台本と音楽に向き合っていこうと思っています。
──中村さんが今注目しているカルチャーはありますか? 音楽、ファッション、インテリア……何でも結構です。
中村 最近、家に帰って食事する時間は仕事のことは考えないようにしよう……って決めているんですよ。で、たいていYouTubeを流しながら、なんですけどね。最近はね、牛の蹄を整える、爪をきれいに切る動画ばっかり見ているんですよ。あれね、見ていて気持ちいいんですよ! 伸びた爪を金槌やノミを使って切って、きれいにしていくんです。
──たまたま発見した動画ですか?
中村 そうそう、おすすめかなんかに出てきたのかな? 大人しく切られている牛もえらいなぁって(笑)。馬の蹄バージョンもあるんですけど、同じ蹄でも牛のやり方とはまた違って、馬の場合はバーナーで炙ったりするんですよ。熱くないのかな?なんて、いろいろ思いながら楽しんで見ています。職人技と動物の様子を見ていると、心が洗われるような清々しい気持ちになれます(笑)。
──自分とは全く違う世界に対する興味が?
中村 知らないことを知る楽しさはありますね。あと、どんな分野でも、職人技が好きなんですよね。大工さんが家具を作っていく過程……釘を使わないで組み立てていく作業とか、「へぇ~!」って感心したり何かを知ることが好きですね。
──例えば家具ですとか、職人が作った究極の一品を持ちたい?
中村 あ~、持ちたい持ちたい! そういうものにすごく興味がありますし、いつか自分で椅子を作ってみたいと思いますね。椅子って人体の仕組みを理解した座面とか、背もたれの角度を研究して、職人の方は作ってらっしゃるから。そういうことを学びつつ、究極の椅子を作ってみたい。そういうのをやらせてくれる企画とかないかな……ってずっと思ってます(笑)。
──蹄の成形とか家具の仕組みなど、工程や構造に惹かれるんですね。
中村 そうかもしれないですね。稽古場にある折り畳みテーブルや椅子を見ても、どんなパーツで、こういう仕組みで……こうしたら同じようなものを作れそうだなって考えちゃいます(笑)。商品を買うのが当たり前になっていますけど、僕は仕組みをまず考えてみて、“こうすれば自分で作れるんじゃない?”っていう発想がスタートにあるんですよ。服でも何でも。作れるものなら、自分で作ったほうが楽しいじゃん、っていう考えですね(笑)。それが買ったものよりちょっといびつでも、むしろ愛着が湧くでしょうしね。
──役者としても、職人気質へのリスペクトが?
中村 職人気質でありたい……というよりも、僕はそういう性分なんだと思いますね。こうありたいなりたい、こう見られたいっていうのは、全然ないんです。
──中村倫也の仕組みも、自身で理解していたい?
中村 身体は特にそう思いますね。今、ミュージカルに向けて歌っていますけど、どこをどうしてこうすればこうなる、みたいなことは考えながらやっています。とは言え、一朝一夕でできるものでもないので、日々トライ&エラーしてますね。だけど、それが楽しい。
──いつか自分で作った、自分にとっての最高の一脚ができたら、どう扱いますか?
中村 たぶん、そんな丁寧な扱いはしないでしょうね(笑)。
中村倫也(なかむら・ともや) 1986年東京都出身。2005年に俳優デビュー以来、数々のドラマ・映画・舞台に出演。最近の出演作として、ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(2022年)、映画『ハケンアニメ!』(2022年)など。『仮面ライダーBLACKSUN』が10月28日より配信。
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