きらびやかな衣装に身を包み、圧巻のパフォーマンスを披露するディーヴァと呼ばれる女性シンガー。その華やかさの裏には人並み外れた努力と苦悩があることは想像に難くない。常に世間の目にさらされ、時にバッシングを受けても、輝き闘い続けることができるのはなぜなのだろう。ジェニファー・ロペス、ジャネット・ジャクソン、リゾのドキュメンタリー作品から逆境や困難に負けないレジリエンスの高め方を学ぶ

BY KANA ENDO

あなたにもできると背中を押してくれる『ジェニファー・ロペス:ハーフタイム』

 2020年、NFLのハーフタイムショーに出演するジェニファー・ロペスを追ったドキュメンタリー作品。ショーの準備と時期を同じくして、2019年公開され、プロデューサーを務め自ら出演もした映画『ハスラーズ』の賞レースも盛り上がりを見せていた。華やかな世界で着実にキャリアを築いてきてきたかのように見えるジェニファー・ロペスだが、中南米のプエルトリコにルーツをもつことや、セクシーな外見から残酷なまでに過小評価されてきた。キャリアの集大成とも言えるハーフタイムショーを通して彼女が世界に伝えたかったメッセージに迫る。

画像: ハーフタイムショーには、自身の娘のエメも出演し、母娘共演を果たす ©NETFLIX

ハーフタイムショーには、自身の娘のエメも出演し、母娘共演を果たす
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 世界的に成功を収めているジェニファー・ロペスだが、そのキャリアは順風満帆ではなかった。プエルトリコからアメリカに移り住んだ両親の間に生まれ、幼少期をニューヨーク市ブロンクスで過ごす。俳優を志し、1997年公開の映画『セレナ』でブレイク、ゴールデングローブ賞にノミネートされる。‘99年発売のシングル『If You Had My Love』を含むデビューアルバム『On The 6』はアメリカで300万枚以上を売り上げた。しかし、どんなに輝かしい功績を残しても、有名人との交際ばかりがゴシップ誌に取り上げられ、キャリアと同様もしくはそれ以上に私生活ばかりが注目されてしまう。また当時美しいとされていた女性は、細く痩せていてカーブのない体型の女性で、彼女はたびたびそのふくよかなお尻をからかわれた。「私はラティーノ女性。最初から公平に扱われることなんて期待していない」という言葉からは、強さとともに諦めの気持ちも感じざるを得ない。そして、女性をエンパワーする映画『ハスラーズ』に出演し、ロサンゼルス映画批評家協会では、最優秀助演女優賞を獲得するが、オスカーではノミネートすらされなかった。落ち込む暇もなく、ハーフタイムショーの準備は進んでいく。

 これまで正当な評価をされず闘い続けてきた彼女の集大成ともいえるハーフタイムショーで、「子どもたちが自分たちのように抑圧されないように、分断された世界をひとつにしたい、この国の国民なのだと実感してほしい」と訴える。ジェニファー・ロペス同様、アメリカに暮らすヒスパニック系の人々の多くは、移民ではなくアメリカで生まれ育ったアメリカ人であるにも関わらず、様々な差別を受けてきた。2020年のスーパーボウルの開催地は、多くのヒスパニック系の人々が暮らすマイアミだ。そんな場所でジェニファー・ロペスの娘であるエメが「Born in the USA」を歌い上げるという演出で、彼女は世界を変えようと声を上げた。嘲笑されても無視されても闘い続けてきたジェニファー・ロペス。50歳(ハーフタイムショー出演時)とは思えないほど鍛え上げられた身体は努力の賜物であり、どんなに叩かれても負けない強い信念にパワーをもらうことができる。一方で、前回の婚約解消から約17年の歳月を経てベン・アフレックと復縁するというところも彼女らしく、幸せになって欲しいと応援したくなる親しみやすさも魅力の一つといえるだろう。バイデン大統領の就任式で「This Land Is Your Land」を歌い上げ、「この歳でも成長できるなんて信じられないけど、私はまだできる」と語るJ.Loの生き様は、多くの女性を勇気づけてくれるシスターフッドそのものだ。

画像: ハーフタイムショーでは、『ハスラーズ』で演じたポールダンスも披露する。ヒット曲の数々に加え政治的なメッセージを盛り込み、エンタテインメントとして成立させたショーは必見 ©NETFLIX

ハーフタイムショーでは、『ハスラーズ』で演じたポールダンスも披露する。ヒット曲の数々に加え政治的なメッセージを盛り込み、エンタテインメントとして成立させたショーは必見
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画像: Netflixシリーズ『ジェニファー・ロペス:ハーフタイム』独占配信中 ©NETFLIX 公式サイトはこちら

Netflixシリーズ『ジェニファー・ロペス:ハーフタイム』独占配信中
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父や兄との関係、秘められた結婚生活などの半生を語る衝撃作『ジャネット・ジャクソン 私の全て』

 言わずと知れた音楽一家ジャクソン・ファミリーの末っ子として、幼い頃から歌手や俳優活動をしていたジャネット。成長するにつれ自立を望み、ある驚きの手段を用いて父親の元を去る。ジャクソンという名前から離れたかったジャネットは、自分の意志で人生を歩むという決意の表れでもあるアルバム『コントロール』を発表する。4枚目のアルバム『リズム・ネイション1814』でスターの地位を確立し、映画に初主演も果たし、着実にキャリアを築いていくが、兄のマイケルにおきたスキャンダルで、彼女にも火の粉が降りかかる。その後ジャスティン・ティンバーレイクと出演したスーパーボウルでの事件や、兄マイケルの死、父の他界など様々な悲劇がジャネットを襲う。一方で50歳にして子供を授かり、新たなチャプターを歩み始める。

画像: 本作はジャネット・ジャクソンが所蔵する7000本の秘蔵ビデオテープなどを元に製作された。兄マイケルと「スリラー」の曲作りをするシーンはファンならずとも一見の価値ある貴重な映像だ ©JANET JACKSON

本作はジャネット・ジャクソンが所蔵する7000本の秘蔵ビデオテープなどを元に製作された。兄マイケルと「スリラー」の曲作りをするシーンはファンならずとも一見の価値ある貴重な映像だ
©JANET JACKSON

 前述したジェニファー・ロペスの情熱的でパワフルなトーンとは対照的に、ジャネットは非常に物静かで落ち着いた佇まいで自らの半生を振り返る。彼女はとてもシャイでこれまで自身について多くを語ってこなかったが、知らない誰かに勝手に語られるのではなく、本当の自分を知って欲しいという決意を元に本作は作られたという。決して声を荒げたり大きな声で叫ぶことはないが、心の奥に確固たる信念を秘めたシンガーであるジャネット・ジャクソン。その意志の強さは、初めて彼女が自らの手で作ったアルバム『コントロール』からも如実に見て取れる。それまでの2作のアルバムは父に指示されたままただ歌うだけで、アルバムジャケットの写真選びもさせてもらえなかった。そんな彼女が自我に目覚め、自立していく過程そのものが「コントロール」だ。誰の言いなりにもならず自分の意志で人生をコントロールしていく、いわば家父長制的なものにNOを突きつけた作品で、アルバムタイトルと同名のシングル曲冒頭の語り「This is story about control」に彼女の揺るぎない決意が象徴されている。これまで何気なく聴いていた曲が、10代の少女がこれほどまでに強い意志を持って作ったものだと知り、ただただ驚いた。ちなみにこの「コントロール」は映画『ハスラーズ』のオープニング曲として使われており、「This is story about control」という言葉は主人公の人生を象徴する台詞となっている。

 ジャネットの曲は社会的・政治的なメッセージソングが多い。ダンサブルでポップな見せ方により説教臭さは皆無だが、歌詞を紐解くと人種や国籍を超えるということ、女性として生きていくこと、ドメスティック・バイオレンスやメンタルへスルスなどのテーマに果敢に挑んでいることがわかる。本作ではスターファミリーに生まれたことによる苦しみや黒人女性ゆえの苦労、結婚秘話などを、言葉を選びながら時に涙を流し丁寧に語っていくが、50歳で授かった子供のことを語る際の満面の笑顔は印象的だ。デビュー40周年を迎えたジャネット・ジャクソンが‘80年代から訴え続けてきた人種や性差別に対して、世の中は良い方向に進んでいるだろうか。今一度ジャネットの曲を深堀りして、彼女の想いや訴えに考えを巡らせたい。

画像: 2019年に晴れてロックの殿堂入りを果たしたジャネット。その際に祝福スピーチをしたジャネール・モネイやマライア・キャリー、サミュエル・L・ジャクソン、クエストラブなどによるジャネットの功績を称えるコメントも作品の深みを増している ©JANET JACKSON

2019年に晴れてロックの殿堂入りを果たしたジャネット。その際に祝福スピーチをしたジャネール・モネイやマライア・キャリー、サミュエル・L・ジャクソン、クエストラブなどによるジャネットの功績を称えるコメントも作品の深みを増している
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画像: Prime Video、U-NEXTなど各種動画配信サイトで配信中 シリーズ全4話 ©JANET JACKSON 公式サイトはこちら

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シリーズ全4話
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底抜けに明るく自己肯定感を高めてくれる『リゾのビッグスター発掘 シーズン1』

 本作はR&Bシンガーでラッパーであるリゾが、自身のライブでパフォーマンスをするビッグガールと呼ばれるプラスサイズのダンサーを発掘するオーディション番組。出場者はラグジュアリーな宿舎で共同生活をし、毎週出される課題をこなしていく。通常のオーディション番組は、予め合格者の人数が決まっていて、生き残ることを目指すというルールのものが多いが、『リゾのビッグスター発掘』では、合格者の人数は設定されない。もしかしたら全員合格するかもしれないし、全員不合格かもしれない。自分がビッグガールに値する人物かどうかを証明していく過程を描く。ダンスの技術はもちろん、新しいことに挑戦する勇気や、仲間との協調性、クリエイティビティなどをリゾに見せていく。身体が大きいことで人の体型や外見などを批判したり馬鹿にしたりするボディシェイミングを受けてきたリゾや出場者たちの言葉から、自分自身を受け入れ愛することの大切さを学べるリアリティ番組だ。

画像: リゾ(写真左)はJ.Loが出演し、ジャネット・ジャクソンの曲がオープニングに使われた映画『ハスラーズ』に出演し、ストリッパー役で俳優デビューした ©AMAZON STUDIOS

リゾ(写真左)はJ.Loが出演し、ジャネット・ジャクソンの曲がオープニングに使われた映画『ハスラーズ』に出演し、ストリッパー役で俳優デビューした
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 番組内では毎回2つの賞が発表される。最も上手くパフォーマンスした人に贈られる賞ともう一つ、ジュース賞という賞がある。ジュース賞は、たとえ失敗したとしても果敢に挑戦した勇気ある人に贈られる賞で、必ずしも振付けを完璧にこなした人だけが称賛されるのではないところが本作のポジティビティを象徴している。ダンスの先生も、「あなたのことを注意するのは、ダメだからじゃない。あなたがもっとできることを知っているから」と指導する。そこにネガティブな感情はなく、ひたすらに自己肯定感を高めていくのが心地よい。出場者の年齢やバックグラウンドはさまざまで、通常のオーディション番組は高校生や大学生、時には中学生などの若い出場者で構成されるものが多いが、本作の出場者は30代の出場者もいれば、2児の母もいるし、黒人もアジア人とのミックスやトランス女性もいて、誰にでもチャンスがあることを教えてくれる。セルライトがあろうがお腹が出ていようが、自分が着たい服、自分が輝ける服を自信を持って着ている姿がとてもキュート。そんなポジティブな彼女たちだが、身体が大きいことで謂れのない理不尽な言葉を投げかけられた経験は一度や二度ではない。リゾはそんな彼女たちが目標に向かって安心して、存分に努力できる環境を与え、これまでの道のりを称えるためにこの番組を企画したという。

 ボディポジティブのアイコンでセルフラブの権化、いつも底抜けに明るいリゾ自身も、激しいボディシェイミングを受け、一時期は活動休止に追い込まれたこともあった。自分自身を受け入れることができるようになったのはここ数年のことで、今でもたびたび自己嫌悪に陥ることもあると番組内で涙を流しながら語る。それでも自身のコンプレックスを乗り越え、身体が大きいことが理由でダンサーという夢を諦めた女性たちに活躍するチャンスを与えたリゾの功績は絶大だ。『リゾのビッグスター発掘』はエピソードごとに名言が飛び出し、ユーモアたっぷりに自己肯定感を高めてくれるセラピーのような番組なのだ。

画像: 本作は、2022年のエミー賞で6部門にノミネートされ、<Outstanding Competition Program>部門を受賞した ©AMAZON STUDIOS

本作は、2022年のエミー賞で6部門にノミネートされ、<Outstanding Competition Program>部門を受賞した
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画像: 『リゾのビッグスター発掘 シーズン1』 Prime Videoで独占配信中 ©AMAZON STUDIOS 公式サイトはこちら

『リゾのビッグスター発掘 シーズン1』
Prime Videoで独占配信中
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*今回紹介している作品の配信状況は2022年10月25日時点のものです

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