K-BALLET Optoの第二弾公演が2023年1月に開催。タイトルは「プラスチック」。ペットボトルやビニール傘が現代の消費社会を暗示するが、そこに込められたメッセージはSDGsだけにあらず

BY FUMIKO YAMAKI

 熊川哲也率いるK-BALLET COMPANYの新プロジェクト、 K-BALLET Opto。2022年9月の旗揚げ公演を本サイトでも紹介したが、第二弾公演「プラスチック」が早くも2023年1月に開催される。ペットボトルやビニール傘をモチーフに、現代の社会課題や人間の生きざまにユニークな角度から光を当てる、意欲的な2作品が世界初演となる。

 K-BALLET COMPANYは、熊川の古典作品への深いリスペクトと新たな解釈をもとに、国内屈指の規模で絢爛豪華な全幕作品を上演してきた。次なる仕掛けとして立ち上げたK-BALLET Optoに、熊川が託したキーワードは「現代性」だ。21世紀というこの時代にしかできない表現を掘り下げ、バレエという古典芸術の価値をいかに現代社会と結びつけるか。そして、その価値をいかにして社会に還元してくか。熊川の狙いは、K-BALLET Optoを通して、バレエという芸術を現代社会に深くコミットさせ、未来へ向けて持続可能にすることにある。

 熊川が新作のテーマを「プラスチック」としたことは、そうなると必然とも言える。現代社会の最も大きな、喫緊の課題である環境問題。プラスチックはその”諸悪の根源”と認識されているマテリアルだ。象徴として登場するのは、ペットボトルとビニール傘。果たして、どのような作品となったのか。

画像: セルリアンタワー能楽堂で行われた記者発表にて。奥から、本公演のゲスト・ダンサー、ジュリアン・マッケイ、K-BALLET COMPANYプリンシパルの飯島望未と日髙世菜 ©︎HAJIME WATANABE

セルリアンタワー能楽堂で行われた記者発表にて。奥から、本公演のゲスト・ダンサー、ジュリアン・マッケイ、K-BALLET COMPANYプリンシパルの飯島望未と日髙世菜
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 個人的に、まずタイトルに惹かれたのが『ビニール傘小町』。小町といえば小野小町。さては題材は能かと思い至ったが、それは当たらずとも遠からず。三島由紀夫が能の演目を現代に置き換えた戯曲集『近代能楽集』の中の『卒塔婆小町』、さらに太田省吾の『小町風伝』が着想源だと、本公演の作品構成を手がけた高野泰寿は語る。

「ある日、六本木の街で大量のビニール傘を乳母車に積んだホームレスの老婆を見かけました。まるで能舞台の橋掛かりをゆくように、檜町公園に向かってゆっくりと歩くその姿が、卒塔婆小町を連想させたんです」

『卒塔婆小町』における小野小町は、絶世の美女が百年の齢を重ねて老いさらばえ、襤褸を纏った姿で描かれる。プラスチック製品の中でも日本独自の産物であるビニール傘と、ありし日の面影を失っても生き続けなければならない現代の小町の姿。

 テーマを「日本特有の社会課題に乗せる」ことを狙ったと高野が語る通り、プラスチック問題と同時に”人生百年時代”の高齢化問題が、私たち観客に自分ごととして突きつけられる。

画像: ©︎HAJIME WATANABE

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画像: 『ペットボトル迷宮』に出演するジュリアン・マッケイ。24歳。米国モンタナ州生まれ。当時外国人最年少の11歳でボリショイ・バレエ・アカデミーに入学。ローザンヌ国際バレエコンクールで研修賞を受賞したのち、英国ロイヤル・バレエに入団。2016年、ロシア名門ミハイロフスキー・バレエに移籍。世界の主要劇場でゲスト出演する他、22年9月からは元パリ・オペラ座エトワールのローラン・イレールが芸術監督を務めるミュンヘン・バレエのプリンシパルとして活動している。 ©︎HAJIME WATANABE

『ペットボトル迷宮』に出演するジュリアン・マッケイ。24歳。米国モンタナ州生まれ。当時外国人最年少の11歳でボリショイ・バレエ・アカデミーに入学。ローザンヌ国際バレエコンクールで研修賞を受賞したのち、英国ロイヤル・バレエに入団。2016年、ロシア名門ミハイロフスキー・バレエに移籍。世界の主要劇場でゲスト出演する他、22年9月からは元パリ・オペラ座エトワールのローラン・イレールが芸術監督を務めるミュンヘン・バレエのプリンシパルとして活動している。
©︎HAJIME WATANABE

 もう一作は『ペットボトル迷宮』。振付は鬼才アレッシオ・シルヴェストリン。バレエ界のみならずファッション界も注目する若きスター、ジュリアン・マッケイの出演にも注目が集まる。ジュリアン演じる若き僧は、ペットボトルの迷宮に囚われた人々を救い導くことができるのか。古典作品では王子様役で知られる美しいジュリアンが、真面目な顔でペットボトルの犬を抱いて踊るキービジュアルは、ポップな中にどこか不条理な闇を感じさせる。

 ペットボトルは消費社会の最も象徴的な産物だが、反面こうした”わかりやすすぎる”モチーフを、単純な告発や説教にならず芸術作品として昇華させるにはハードルがあったのではないだろうか。
その問いに高野は、「描きたかったのは善悪二元論ではありません」と語る。

 高野は、2作に共通するテーマは「プラスチック供養」だと言う。
「プラスチック製品はいっさい使うな、といったイデオロギー的な主張ではなく、日本的な価値観を提示できればと考えました。かつて日本では”付喪神(つくもがみ)”といって、長い年月を経たモノには神が宿ると信じられてきた。だから物は捨てるのではなく、供養する。そして、もったいないから、今あるものを作り直して循環させようという考え方です」

 また、「ダンスは言葉がない分、単純なスローガンに陥らずに余白を残した表現ができます」とも。声高に叫ばれると耳を塞いでしまう人にも、考える余地のあるメッセージを届けられるのは、身体芸術の強みかもしれない。

画像: ペットボトルのリサイクルに協力した白井エコセンターの工場にて、回収されたペットボトルの洗浄をK-BALLETのメンバーが手作業でおこなった

ペットボトルのリサイクルに協力した白井エコセンターの工場にて、回収されたペットボトルの洗浄をK-BALLETのメンバーが手作業でおこなった

画像1: ペットボトルにビニール傘!?
ジュリアン・マッケイを迎えて挑む
K-BALLET Optoの新作が話題
画像: 『ビニール傘小町』の振付・演出を手掛ける、K-BALLET COMPANY/Opto の舞踊監督、渡辺レイ (中央) COURTESY OF K-BALLET COMPANY

『ビニール傘小町』の振付・演出を手掛ける、K-BALLET COMPANY/Opto の舞踊監督、渡辺レイ (中央)
COURTESY OF K-BALLET COMPANY

 舞台装置にも、テーマと深く関わるエピソードが秘められている。『ペットボトル迷宮』の巨大なセットを構成する1万本のペットボトルは、街で回収され水平リサイクル(ペットボトルを粉砕・洗浄し再度ペットボトルにリサイクル)されたものだが、K-BALLETのチームがリサイクル工場に足を運び、1本ずつ手作業で洗浄したものも一部使用している。 骨の折れる作業をしながら、日本のプラスチック廃棄量が世界2位であること、リサイクル技術は高いものの、物流効率がボトルネックとなりリサイクル率はOECD加盟35か国の中でも下から5番目であることなど、一筋縄ではいかない現実を学んだという。舞台で使われたペットボトルも、もちろん後日さらにリサイクルされる。

 また『ビニール傘小町』のセットにはカーテンが使用されるが、これは現代美術家の森村泰昌が2022年、京都市京セラ美術館で開催した展覧会「ワタシの迷宮劇場」で使用した、2,500平方メートルにおよぶカーテンの再利用。森村の発案、糸井重里主催のウェブサイト「ほぼ日」とのコラボレーションによる「アート始末」プロジェクトの一環で、本来は処分されるはずのカーテンをアート作品として始末するというもの。この展覧会は現地で見たが、あの延々と連なるカーテンのその後の運命には想像が及ばなかった。カーテンもまた、プラスチックとともに舞台上で供養される。

 公演は1月8日、9日、KAAT神奈川芸術劇場にて。新たな年に、普段身近にあるペットボトルやビニール傘の来し方行く末に思いをはせてみるのもいいかもしれない。もちろん、作品そのものと、ダンサーたちの素晴らしいパフォーマンスを純粋に楽しんだ後で。

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K-BALLET Opto 「プラスチック」
上演作品:『ペットボトル迷宮』アレッシオ・シルヴェストリン振付
     『ビニール傘小町』渡辺レイ振付
上演期間:2023年1月8日(日)12:30開演・16:30開演 1月9日(月・祝)開演12:30開演
会場:KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
住所: 神奈川県横浜市中区山下町281
料金:S席¥9,000 A席¥7,500 B席¥3,000※イス付立見席 (全席指定・税込)
チケット予約:
インターネット/MY Bunkamura
予約ページはこちら
TEL/Bunkamuraチケットセンター(10:00~17:00)
03-3477-9999
ほか各種プレイガイドにて取扱い(詳細は公式サイトにて)
公式サイトはこちら

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