4月6日に初日を迎える舞台『カラカラ天気と五人の紳士』に出演する堤真一。確固たるキャリアを築いてきた堤にとっても、不条理劇の第一人者である別役実の作品で演じることは新たな挑戦だ。本作への意気込みと、今年還暦を迎えるという現在の心境を聞いた

BY JUNKO HORIE, PHOTOGRAPHS BY KAZUYA TOMITA

画像1: 堤真一が挑む不条理劇での新境地と
年を重ね泰然自若に生きる
素顔がのぞく心持ちとは──

──日本の不条理劇を確立した別役実作の『カラカラ天気と五人の紳士』。あらすじの冒頭が“ある日、ある所に、「棺桶」を担いでやって来た五人の紳士たち(堤真一・溝端淳平・野間口徹・小手伸也・藤井隆)。どうやら、五人のうちのひとりが懸賞のハズレくじでもらった景品らしい”というところからすでに、なるほど、不条理だな、と(笑)。

堤真一(以下、堤) そうですね。ただね、本を読む限りではこの人たち、行き詰まっている危機感がないんですよ。後半になるにつれ、それがわかってきたり、死生観が見えてきたりするんですが、そこに辿り着くまでが……(笑)。笑わせようと思って書いているのかな?それとも……というか、何やってるんだ、奇妙だなぁ……と(笑)。非常に難しいですね。最初に読んだとき、途中で台本を閉じました(笑)。

──個人的には、ご本人たちは面白いことをやろうとしているわけではないのに、見ている側にとってはただただ面白い、という笑いが最高峰だと思っているのですが。

 そうですよね。と思いつつ、自分が演じると想定しながら読んでいると、”はっ、何が起きているんだ? 棺桶どうすんねん!”となってしまって(笑)。

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──この時点で、かの堤真一さんが行き詰まってらっしゃるところに、不条理劇の曲者感と魅力を感じずにはいられません。

 本当に、やってみないとわからない! “カラカラ天気”という設定もね、最初から砂漠みたいなわかりやすいセットにするのか、“いや待て。そんなふうにわかりやすくしてもいい本なのかな、これは”と思ってしまう部分もあって。こういう脚本は、台詞自体はそんなに分量はないんです。だけど、覚えにくい(笑)。

──その、覚えにくさを、ぜひ教えていただきたいです。

 脚本って、ポンポンポンポンと会話の繋がりがあって進むものですよね。それが、あらぬ方向に突然飛ぶんです。しゃべっているときや、棺桶を担ぐという役割があるときはまだいいんですが、そうじゃないときはどんな気持ちでいたらいいんだろう? とか……。そんな感じで、今はまだ、自分の居場所が見つけにくいんじゃないか……という気がしています。

──今、稽古場に入る前の段階でお話を伺っているので、脚本から情報を入れれば入れるほど、堤さんが困ってらっしゃる様子が逆に、本番の舞台への楽しみが増していきます。

 男たち5人。僕以外の皆さんを信頼しています。女性陣の高田聖子さんと中谷さとみさんもまた濃いんです(笑)。ただ、物語後半は、追い詰められた状態で、生きるとは。死ぬとは。分別を持つこととは……見終わったあとにすごく考えさせられる、作品の力がありますね。難しいですが、まずは自分で考えるのは当然のことですから。一番大事だと思うのは、役者同士が同じ方向を向いていること。どんなに難しい作品であっても、共通認識を持った上で取り組まないと、それぞれの解釈で自分だけで成立していても、物語自体が成立しないこともありますから。僕は海外の演出家と舞台の仕事をすることが多いのですが、例えば“白と黒、どっちだろうね?”という箇所があったとき、それを決めるのは演出家ではなく、役者みんなで話し合って、“ということは、こういうことだね”と共通認識を持つようにしていきます。それさえ保たれていれば、キャラクター作りはあとからついてくることが多いです。例えばイギリス人演出家が手がけた舞台『12人の怒れる男たち』で、山崎一さんが演じられた役は、映画ではマッチョな典型的なアメリカ人という俳優さんが演じていました。でも、山崎さん、ひょろっとした体形ですが、その役柄そのものでした。感情さえしっかり乗っていれば、演出家も“マッチョな男っぽくしゃべってくれ”とか一切言わない。原作のイメージはあるけれど、とらわれなくてもいいという導き方をしてくれるんです。僕もそういう演出を長く受けてきているせいか、キャラ作りを意識した記憶はありません。

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──共通認識さえしっかりとしたものがあれば、おのずと……ですか。

 稽古場で、みんなで見つけていくものでありながら、本番中に“これか!”と気づくこともあったり。何なら、二日酔いぐらいの感覚でやったほうが見つかるときもあって(笑)

──演劇ファンとしては、好きな作品は複数回見たりする中で、“今日観たのが好き!”という瞬間がありますから。それが実は、俳優さんが二日酔いだった日である可能性も(笑)。

 そういうことも含めて、舞台は何が起こるかわからない、そんな楽しさがありますよね。前もってスケジュールを決めてチケットを買って、わざわざ劇場まで足を運んでくださるお客様に満足していただくためにも、いい作品にしたいと思っています。

──映画、ドラマでもご活躍ですが、舞台のときは、違うスイッチが入るものですか?

 いや特に……むしろ、ドラマはリハーサル、ドライ、本番と瞬発力が求められるので、ドラマのときのほうがスイッチを入れているのかもしれません。舞台は稽古があり、共演者のことを知る時間もあり、その中で作り上げていくので、舞台のほうが構えてはいないですね。やっていてどんどん楽しくなっていくときもあり、どんどん深みにハマっていくときもありますが(笑)。『カラカラ天気と五人の紳士』も楽しみたいと思っていますけど、深みにハマりそうな気もしています(笑)

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──2024年、何かご自身のテーマはありますか?

 今年、7月に誕生日がくるとちょうど60……還暦なんですよ。だから、そこから今後のことを考えないとな、とは思っていますが。もう還暦ですから、早め早めにやりたいことを考えていかないと。

──年齢を、節目とお考えになるタイプ?

 これまではなかったんですが、還暦ともなるとさすがに考えますね。よくよく考えたら、結構な爺さんじゃないかと(笑)。まぁまぁ、ウチの事務所の先輩の多くが60を超えても元気に素晴らしい仕事をされているので、年齢への不安はないんですが。個人的には、ウチのオヤジが亡くなったのが、ちょうど60歳のときだったので、人生の終わりに近づいているなっていう感覚がどうしてもあるんですよね。役者だけじゃなく、自分がやりたいこと、好きなことをやったほうがいいのか。でも、役者しかやってこなかったからどうすべきなのか。そろそろ自分でも、考えていかないと、と思っています(笑)。

──還暦の捉え方、勉強になります。覚えておきます。

 あ! 還暦の前にひとつありました。50の手前で、“そういえば結婚してない!”と気づいて(笑)。それからなんとか50直前の49で結婚しましたが、今は子どもの将来を少しでも長く見ていたいので、体には気をつけなきゃなという想いと共に、還暦を迎えようとしています。

画像: 堤真一(つつみ・しんいち) 1964年、兵庫県生まれ。舞台、映画、ドラマと幅広く活躍中。近年の出演作に、舞台『十二人の怒れる男』『ウェンディ&ピーターパン』『みんな我が子』『帰ってきたマイ・ブラザー』、ドラマ『ファーストペンギン』『ミワさんなりすます』『舟を編む~私、辞書つくります~』など。映画『室町無頼』が2025年1月に公開予定

堤真一(つつみ・しんいち)
1964年、兵庫県生まれ。舞台、映画、ドラマと幅広く活躍中。近年の出演作に、舞台『十二人の怒れる男』『ウェンディ&ピーターパン』『みんな我が子』『帰ってきたマイ・ブラザー』、ドラマ『ファーストペンギン』『ミワさんなりすます』『舟を編む~私、辞書つくります~』など。映画『室町無頼』が2025年1月に公開予定

STYLED BY KAN NAKAGAWARA AT CaNN , HAIR & MAKEUP BY SHINJI OKUYAMA AT B.SUN

画像5: 堤真一が挑む不条理劇での新境地と
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素顔がのぞく心持ちとは──

『カラカラ天気と五人の紳士』
作:別役実 演出:加藤拓也
出演:堤真一、溝端淳平、野間口徹、小手伸也/高田聖子、中谷さとみ/藤井隆

・東京公演:4月6日(土)~26日(金)
 会場:シアタートラム
・岡山公演:5月2日(木)~4日(土)
 会場:岡山芸術創造劇場 ハレノワ中劇場
・大阪公演:5月7日(火)~11日(土)
 会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
・福岡公演:5月15日(水)~16日(木)
 会場:キャナルシティ劇場

問い合わせ先:シス・カンパニー
TEL.03-5423-5906
公式サイトはこちら

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