上演時間が5時間にも及ぶ一大エンターテインメント、木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』が東京芸術劇場プレスハウスに初登場する。この大作に挑むのが、幅広い役でその魅力を発揮してきた名バイプレイヤーの眞島秀和。舞台で時代劇を演じることで、彼の新たな才能が花開く。

BY SHION YAMASHITA, PHOTOGRAPHS BY TAMEKI OSHIRO

画像1: 眞島秀和が真っさらな状態で
歌舞伎の戯曲と向き合う

時代劇だからこそできる表現がある

 眞島秀和といえばドラマや映画の話題作に次々と出演し、『おっさんずラブ』のような大人気のコメディから映画『破壊』といった硬派な名作まで、演技の幅が広い俳優として活躍している。そんな彼が、木ノ下歌舞伎に初出演する。監修と補綴を手がける木ノ下裕一が主宰する木ノ下歌舞伎は、数々の古典作品を現代劇化し、国内外から注目されている。2014年に初演された『三人吉三』もその一つ。今回は作品のタイトルを本外題である『三人吉三廓初買』に改め、初演以来160年ぶりの上演となった「地獄の場」を完全復活するなど、河竹黙阿弥が描いた作品の全貌を現代に甦らせる。眞島は、何が決め手となって、黙阿弥作品に出演することを選んだのだろうか。

眞島秀和(以下眞島) とてもシンプルな理由なのですが、古典作品、いわゆる時代劇を舞台でチャレンジしてみたかったんです。僕は『三人吉三』を観たことがないので、河竹黙阿弥の作品がどのようなものなのかは、予備知識が全くないのですが、長い年月を経ても愛され続けてきた作品には、それなりの理由があるはず。自分が参加してそれを紐解いていく中で、こういう作品だからこそ人に求められてきたということから何かを実感できたらいいなと思います。

 それでは、現時点では『三人吉三』をどのように捉えているのだろうか。

眞島 僕自身はいただいた商人の“文里”という役について、なよなよとした面がある男だと聞いただけで、今はぼんやりとしたイメージしかありません。しかし、文里の女房”おしづ”役で共演させていただく緒川たまきさんは作品のことをよくご存知で、「人間の生死や欲望が描かれていて、その先に希望が見えてくるような作品なので、コロナ禍が終わったといっても、世界的に不安な情勢である今だからこそ上演する意味があるのではないか」とおっしゃっていました。そう聞いて、そういうことなのかなとは思いましたが、古典の作品に対してプレッシャーみたいなものを感じてしまいそうなので、あまり先入観を持たずに取り組もうと思っています。

画像2: 眞島秀和が真っさらな状態で
歌舞伎の戯曲と向き合う

 舞台で時代劇を演じることには、自身にとってどんな意味があるのかについて聞いた。

眞島 僕はたくさんある仕事の中で、時代劇は好きなジャンルなんです。鬘や衣裳、持ち道具や小道具など一流のスタッフの方々が創り上げていくということが大前提としてあって、そうやってできた世界観にすぐに行けることに魅力を感じています。印象に残っている現場はNHKの大河ドラマが真っ先に思い浮かびましたが、NHKだけでなく、京都にある撮影所にしても、日本ならではの技術を受け継いできた職人の方達が何人も関わって文化を守っているということに、役者としても感じるものがあります。
 また、物語としても、時代劇は現代に通じるものがありますし、もしかすると、現代劇よりも人間臭い部分が描かれていて、それがはっきりと伝わってくるような感じがあります。現代劇の感覚だと許されないことも昔の時代劇の中では繰り広げられていて、今を生きている我々からすると憧れるようなこともあるかもしれません。人間の情念みたいなところは、時代劇のほうがわかりやすい気もします。今回の木ノ下歌舞伎は上演時間が5時間にも及ぶ演目だと聞いているので、その体験したこともないことに不安と楽しみの両方を感じています。

画像3: 眞島秀和が真っさらな状態で
歌舞伎の戯曲と向き合う

新しい挑戦が新たな境地へと導く

 穏やかで、もの静かに話す彼が、文里という役を纏ったときにどのように変貌するのか。それが今から楽しみだ。予測不可能な舞台を控えた今だからこそ、これまでの俳優としての仕事で学びを得た経験が生かせる。過去の作品で得た学びについて尋ねると、こう即答した。

眞島 毎回、学びや気づきがあると思います。最近は、現場に行くと先輩俳優の方々はもちろんのこと、自分より年下の若手の俳優さんとご一緒する機会も増えてきました。50代を控えた今の自分には漠然とした不安もありますし、彼らのような感性を持って演じていけるのかなと考えるようになりました。若々しくて、才能の塊のような彼らにはいろんな可能性を秘めた未来があるのだろうと思ったり、今の時点で努力している彼らの姿を見て感動するようになったり。そういう思いから、今までにやったことのないことに、取り組む選択をしました。聞くところによると、脳が老化しない一番の秘訣はやったことのないことに挑戦すること。それが若さを保つらしいです。

 眞島にとって、『三人吉三廓初買』に出演するということが、まだ見たことのない境地への大きな一歩であることが伝わってくる。俳優は、演じることで、自分ではない誰かになれるが、役を演じている時に舞台からどんな光景を見ているのだろうか。

眞島 本番中は客席から反応があるのは感じますが、あまり見ないようにしています。客席をちゃんと見るのは、作品が終わったカーテンコールの時ですが、目に飛び込んでくるお客様の表情などを見ていると、今日も一日無事に終わったなと言うささやかな達成感のようなものを感じています。今回は東京芸術劇場のプレイハウスでの公演なので、客席数だけを比べても、これほど大きな劇場で演ったことはないので、この舞台に立てることへの楽しみはあります。演出の杉原さんとは初めてご一緒しますが、去年上演された木ノ下歌舞伎の『勧進帳』は拝見して、とても面白かったです。その杉原さんが『三人吉三』をどういった演出をされるのかはまだわかりませんが、作品には真っさらな気持ちで臨みたいと思います。

 役作りにはいろいろなアプローチがあるが、真っさらな状態というのも、何かを演じるための得策なのかもしれない。

画像: 眞島秀和(MASHIMA HIDEKAZU) 山形県生まれ。1999年、映画『青〜chong〜』で主演デビュー。映画『スウィングガールズ』(矢口史晴監督)、『在る男』(石川慶監督)、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』、ドラマ『隣の家族は青く見える』『おっさんずラブ』など、多数の作品に出演。

眞島秀和(MASHIMA HIDEKAZU)
山形県生まれ。1999年、映画『青〜chong〜』で主演デビュー。映画『スウィングガールズ』(矢口史晴監督)、『在る男』(石川慶監督)、NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』、ドラマ『隣の家族は青く見える』『おっさんずラブ』など、多数の作品に出演。

東京芸術劇場Presents木ノ下歌舞伎
『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつがい)
作:河竹黙阿弥
監修・補綴:木ノ下裕一
演出:杉原邦生[KUNIO]

出演:
田中俊介、須賀健太、坂口涼太郎 / 藤野涼子、小日向星一、深沢萌華
武谷公雄、高山のえみ、山口航太、武居 卓、田中祐弥、緑川史絵
川平慈英 / 緒川たまき、眞島秀和

(東京公演)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
上演日程:2024年9月15日〜29日
問合せ:東京芸術劇場ボックスオフィス TEL. 0570-010-296
公式サイトはこちら

(長野公演)
会場:まつもと市民芸術館 主ホール
上演日程:2024年10月5日・6日
問合せ:まつもと市民芸術館チケットセンター TEL. 0263-33-2200

(三重公演)
会場:三重県文化会館 中ホール
上演日程:2024年10月13日
問合せ:チケットカウンター TEL. 059-233-1122

(兵庫公演)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
上演日程:2024年10月19日・20日
問合せ:芸術文化センターチケットオフィス TEL. 0798-68-0255

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