TEXT BY CHIKAYO TASHIRO
家族のこじれた感情がほどけていく
『家いっぱいの愛』
これは一回破綻した家族の再生を描くロマンスドラマです。プロ野球の選手だったものの、引退後、何をやってもうまくいかず家族に迷惑をかけてばかりの男。家族にも見捨てられ行方不明になっていました。一方、そんな夫と離婚して女手一つで娘と息子を育ててきたヒロインですが、一家が住むアパートが火災にあって困っていたところに、新たな大家だと言って11年ぶりに現れたのが元夫だったものだから、「えっ、なんで?」ということで、ドラマは動き出していきます。商才がなく失敗続きだった男がなぜお金持ちになったのか、火災の原因は?と謎が謎を呼ぶミステリー味も加わりながら、家族のこじれた感情がゆっくりほどけていくさまが描かれていきます。
50代のヒロインは突然現れた元夫とどうなっていくのかという熟年男女の複雑な心模様と、懸命に仕事をしてキャリアアップを目指す20代の娘に訪れたかわいいラブラインが同時並行で描かれていきますので、世代を問わず共感できるのがいいところ。
面白いのは、よりを戻したい元夫と、そんな父親から母親を守りたい娘が、母親を間に挟んでバトルを繰り広げていく構図です。この突然の父親の登場をきっかけに、父親がいなかった分、お互いのためにと懸命に生きてきた母娘がそれぞれの自立を考えたり、別の家族ではありますが、なさぬ仲の親子が絆を深めることになったり、誰も悪人が出てこない、後味の良いハートフルな家族ドラマになっています。
■Netflixシリーズ「家いっぱいの愛」独占配信中
“秘めごと”を通して家族を見つめ直す
『私たち、家族です ~My Unfamiliar Family~』
誰よりも近い関係のはずの家族なのに、実は気がつけていなかったそれぞれの秘めごとを通して、家族というものを見つめ直すウェルメイドヒューマン・ラブドラマです。成人した3人の子を持つジンスクは、いたわりの言葉も思いやりも感じられない夫にほとほと嫌気がさして「あなたがいるだけで嫌なの、姿を見たくない!」と卒婚宣言をするのですが、そんな矢先に夫が山で遭難。もしや自殺を試みたのでは?と疑われる状況で発見されたときには夫の記憶は飛んでいて、中味はすっかり22歳の青年に戻っていたというところから始まるドラマです。
腹の立つ存在だったのに、自分に恋する眼差しと態度でロマンティックに接してくるものだから戸惑ってしまうジンスク。この出来事をきっかけに、家族の秘密が次々と明らかになっていきます。ホームドラマだと思って油断して見ていると、毎回ラストに「ええっ?」という秘密が明らかになるという目が離せない展開です。完璧だと思えていた長女の結婚生活のほころび、次女の絡まっていく恋愛問題、末っ子の本音。そして夫の秘密。特にハン・イェリ演じる次女の恋バナに大注目です。次女の男友達を演じるキム・ジソクがとっても素敵!気遣いがあって、適度に遊び人の雰囲気を醸し出している、人あたりの柔らかい男。そんな軽妙さの中にふっと見せる真剣な思いにグッときてしまいます。
当たり前に存在する家族にも努力が必要なのだということ。言葉にしなければ絶対に伝わらないのに、なぜ言わない、なぜ相談できなかったのか。それが夫婦であり、家族なのだなと思わせられ、とっても深くて良い作品を観たなあという気持ちになるドラマです。
■Huluで配信中
縁ある者たちの“つながり”の尊さ
『家門の栄光』
伝統と家門を守り続ける宗家の孫たち3兄弟を中心に、波乱の愛と家族のあるべき姿を、時にコミカルに、時にシリアスに見せていく感動の名作です。宗家が舞台になっているだけに、伝統的な宗家の人たちの丁寧な暮らしぶりや考え方、冠婚葬祭の行事をきちんとみせてくれるのがこのドラマの魅力。加えて、全54話という長丁場ですが、宗家の孫娘と成金息子の波乱含みの愛の物語に萌えるシーンが満載で一気に見てしまいます。
古風でたおやかな宗家の孫娘と成金で冷血な企業ハンター、イ・ガンソクが家系図を巡って対立し、ある事情から偽装恋愛をすることになり、本当の恋に落ちていく過程は、緊張感と切なさと萌え感が入り混じり、もう目が離せません。イ・ガンソクは、仕事においては不遜なくらいにそつがなくて情け容赦がない男なのに、孝行息子であり、妹には優しい兄であり、適度に女遊びもしていそうでありながら、実は女には目もくれない…というような、男性の魅力をすべて詰め込んだような男。それを実に魅力いっぱいに演じたパク・シフは、“パク・シフの再発見”といわれて、大ブレイクしました。
このほか、2人の兄たちのそれぞれの恋物語にもじんわりとさせられ、宗家のおじいさんの話す含蓄のある一言一言に胸打たれ、終盤に行くにつれ、感動するセリフやエピソードが増えていきます。家門や家系図ということが大きなテーマなのですが、最終的に、家系図に記されている名前は、決して血のつながりだけにあらず、縁ある者たちのつながりなのだということや、脈々と受け継がれてきた先祖たちの営みの繰り返しがつながって自分に至るのだということの尊さが伝わってきて、最終回は震えが来るほど感動しました。噛みしめながらじっくりと見てもらいたい傑作です。
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