2018年6月に英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演された、ロイヤル・バレエ団の新作「コリュバンテスの遊戯」。緊張感漂うバックステージで、コスチュームの最終調整を行うデザイナー、アーデム・モラリオグルを追った

BY GRACE COOK, PHOTOGRAPHS BY JAMIE STOKER, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI

画像1: ロイヤル・バレエ団と
アーデムがコラボレーション。
幻想的な衣装が生まれる舞台裏に
密着48時間

 ある日の正午、ロンドンにある英国ロイヤル・オペラ・ハウスでは、12人ほどのバレエダンサーがリハーサルを行っていた。客席は暗く、ライトアップされたステージには人の輪ができている。その中には高名な振付家のクリストファー・ウィールドンがいて、一座のパフォーマンスに厳しいまなざしを向けている。演じているのは、新たな演目である「Corybantic Games(コリュバンテスの遊戯)」の一場面。アメリカの作曲家、故レナード・バーンスタインに捧げられた作品だ。ウィールドンが拡声器で指示を与える。「ここのエクステンションを長くすることはできる? オーケストラ、もうちょっとテンポを上げて」

 1階席に座っているのは、英国にルーツを持つカナダ人デザイナー、アーデム・モラリオグルだ。トレードマークである全身グレーの服に、丸メガネをかけている。今回の作品のコスチュームデザインを手がけたのが彼だ。友人であるバレエダンサーのローレン・カスバートソンが、アーデムをクリストファー・ウィールドンに紹介した。そしてこの日、彼は自分の作った衣装が舞台上でどう動くのかをチェックしに来たというわけだ。「まだチュチュが数枚しか完成していなくて」とアーデム。「残りはまだ作っているところなんです」

 この数週間は嵐のように過ぎ去っていった。2005年に立ち上げた、彼の名を冠したブランド「アーデム」は、その美しいイブニングドレスやデカダンなムードを醸し出すクラフツマンシップで知られている。彼は2018ー’19年秋冬コレクションのバイヤー向け展示会を終えてパリからロンドンへ帰ってきたところで、ほんの2週間前、ロンドン・ファッションウィーク会期中にはナショナル・ポートレート・ギャラリーでショーを開催していた。そして今週、彼はこのバレエ作品のフィッティングに忙殺されている。これは5カ月におよぶプロジェクトで、アーデムは24人のバレエダンサーのコスチュームを手がけている。その中には男性用の衣装も含まれるが、アーデムが男性服を制作するのはこれが初めてだ。

 バックステージで、アーデムはダンサーたちに衣装の着心地を聞いた。その結果、長く垂れ下がったリボンの房は縫いつけることにした。「私は、このリボンを甲冑のように見せたいと思ったのです。私の追求する“裸のように見せる”というアイデアとの対比ですね。このアイデアは、肉体や若さ、生命を表現しているんです」

 このコスチューム(透けるチュチュと白いブラトップ、白いブリーフパンツ)は、親密かつ幽玄な雰囲気だ。1950年代風のクラシカルなムードに、古代ギリシャがブレンドされている。そう、バーンスタインの最も有名な管弦楽曲「セレナード」が、プラトンの『饗宴』をインスピレーション源としているように。「このボディストッキングもフィッティングしないと」と、男性用のコスチュームについて話すアーデム。「筋肉の動きを見てみたいな。タイトに、とにかくタイトに作らなければ」

 このコラボレーション以前から、バレエはアーデムの世界観の中で確固とした地位を占めていた。彼の双子の姉妹がダンスのレッスンを受けていたこともあり、アーデムは幼い頃からダンスの表現形式に魅了されてきた。また、彼はオペラハウスの常連であり、かつてはロンドンにあるサドラーズ・ウェルズ劇場のひいき客でもあった。バレエダンサーの名前も、そのパフォーマンスも知っているし、ダンサーの幾人かは彼の友人でもある。

 アーデムのつくったロイヤル・バレエ団のコスチュームには、明らかに彼の作品だとわかるロマンティックな作風が織り込まれている。プリーツスカートの縁を飾るリボンがその一例で、これはアーデムが自身の2018年春夏コレクションで最初に追求したアイデアだ。とはいえ、さまざまな色や質感にあふれたそのデカダンなレディ・トゥ・ウェア・コレクションと比べると、今回のチュチュは著しく地味な色彩だと言える。

「こういったアンサンブルピースの場合、遠くの席から見る人のことや、コスチュームが持つべきわかりやすさを考えることが大切です」とアーデムは言う。「視覚的に伝えなければならないのです。言語の代わりとなるように。そして彩度を下げて、色を排除する。無声映画のようなものです。コスチュームは集団において機能するべきで、個人のために作るのではない。レディ・トゥ・ウェアのデザインをするのとはまったく異なる作業でした」

 

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