BY ALICE GREGORY, PHOTOGRAPHS BY LAURENCE ELLIS, ARTWORK BY GENGOROH TAGAME, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO
コム デ ギャルソンのプレス担当者は、このレーベルの世界観をまさに体現したような男性だ。愛嬌のある小柄な彼は、スパンコールをちりばめた“水槽の砂利色”のバスケットボールパンツをはいていた。彼に、社員の人たちはショーのために特別にドレスアップしているのかと尋ねると、ちょっと困惑した表情で私を見た。「そんなことはないですよ」と彼は言った。「僕たちはいつもこんな格好なので」
どんなに奇抜なスタイルの女性でさえ、その外見が“社会的規範に逆らう”ようなことはめったにない。美しく見せることが目的でない場合も、女性たちは自分が他者にどう映るかを気にしているからだ。突拍子もないデザインの帽子やオーバーサイズのスーツを身につけ、頭をそり上げ、口紅をわざと乱暴に塗りたくっていても、すべては“しかるべき装い方”を奇妙に味つけしたバリエーションにすぎない。一方、風変わりな格好をした男性というのはまれにしかいない。決めすぎたダンディのようなタイプはさておき、体と服の両方の特徴を生かして、どこか不均衡な、見たこともないシルエットを生み出そうとする男性がいたとしたら感動的ですらあろう。もし実際にメンズファッションが掲げてきた従来の目的(実用性があり、権力や富を象徴すること)を拒む男性がいたとしたら、資本主義自体を拒否しているように見られてしまうかもしれない。といっても、個性的な装いによって主義を表明するには、何度もカードローンの世話にならざるを得ないのだろうが。

パリ・コレクションで発表された「コム デ ギャルソン・オムプリュス」の2019年春夏コレクションより(撮影もパリにて)。強烈な異彩を放っていたのが、プラスチック製の動物の目や牙をあしらったゴールドチェーンのネックレス
(左)ジャケット¥99,000、パンツ¥35,000、シャツ¥34,000、スニーカー¥32,000、アクセサリー¥146,000
(右)ジャケット¥93,000、パンツ¥35,000、シャツ¥32,000、スニーカー¥32,000、アクセサリー¥207,000
すべてコム デ ギャルソン (コム デ ギャルソン・オム プリュス)
TEL. 03(3486)7611

(左)ジャケット¥182,000、パンツ¥97,000、シャツ¥19,000、タイ¥7,000、スニーカー¥32,000
(右)コート¥198,000、パンツ¥68,000、シャツ¥37,000、タイ¥10,000、スニーカー¥32,000
すべてコム デ ギャルソン (コム デ ギャルソン・ オム プリュス)
TEL. 03(3486)7611
川久保は、コム デ ギャルソンを設立してから約10年後、1978年にメンズウェアを発表した。するとたちまちその人気に火がついた。東京在住の執筆家、W・デーヴィッド・マークスが2015年に上梓した『AMETORA:日本がアメリカンスタイルを救った物語』にも書かれているが、このブームは日本の高度経済成長によるところが大きい。この急成長のおかげで中流階級のティーンエイジャーがクレジットカードを持てるようになり、コム デ ギャルソンをはじめとする、エキセントリックで高価なブランドの服を買えるようになったからだ。
このブランドが初めて発表したメンズスーツは、ダークカラーの、サイズ感のずれた古着のようなデザインだった。当時、この美学はモード界のエリートたちには敬遠された。コム デ ギャルソンの象徴的なスタイルは、クラシックと呼べるようなスーツやシャツを土台にしながらも、常に強い反骨精神を内在させている。ピンストライプのボタンダウンシャツの袖にスラッシュ(スリット)を入れ、ネイビーウールのスクールボーイ風ショートパンツにはヒョウ柄の切り替えを施す。ブラックのタック入りパンツは膨らませ、クロップドで、裾は先細りにするといった具合に。