着る人のジェンダーや着方という規範を超越したブランド「No Sesso」。アーティストでもあるピエール・デイヴィスがデザインし、ほぼ手作りで制作する服は、LAでカルト的な人気を誇っている

BY MERRELL HAMBLETON, PHOTOGRAPHS BY DICKO CHAN

 LAを拠点とするファッションブランド、「No Sesso(ノー セッソ)」のデザイナーでありアーティストでもあるピエール・デイヴィス。彼女の手がけるノーセッソの服は複雑なつくりで、多くはハンドメイドでできている。どう着たらいいのかよく尋ねられるという彼女は、「これはジョークだけど、そのうち、どうやって着るかの説明書を服につけることになるかもしれない」と言う。だが実際のところ、そこに正解など存在しない。「いろんな着方ができる服がいっぱいあるんです。どうやって着たっていい。服の着方はひとつしかないって、誰が決めたの?」

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No Sessoの2018-’19年秋冬と「NS 2018-1」コレクションより
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 衣服に関する慣習的な考え方――この服は誰が着るのか、そしてどう着るのか――への挑戦は、ノー セッソ(イタリア語でノーセックス、ノージェンダーの意味)のデザインと戦略において中心的なテーマとなっている。ノー セッソは2014年のブランド立ち上げ以来、ケレラ、エリカ・バドゥ、ケルシー・ルーといった社会規範に立ち向かうミュージシャンたちの注目を集め、LAにおいてカルト的な人気を誇ってきた。

 紐で結んであったり、縫い目や結び目があったり、刺繍が施されていたり。ノーセッソのユニセックスなアイテムは、変化し進化していく途中の服のように見える。縫い目は音楽を奏でるかのようにうねり、弾けたように穴が開き、色と色がぶつかっては散らばる。編み目のふぞろいなニット地は、シャープに仕立てられたなめらかなラメ生地や、うねって膨らんだナイロン生地へと繋がっている。古着の布をつなぎ合わせたジオメトリックな柄ですら、生命を宿して鼓動するかのようだ。細身のシースドレスの上にはデニム地のウエストバンドが巻かれ、白いつなぎの作業服は繊細なシルクのジャンプスーツと合体している。

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No Sessoの2018-’19年秋冬と「NS 2018-1」コレクションより
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「ほとんど『トランスフォーマー』やコンバーチブル・カーみたいになってるアイテムもある」とデイヴィスは言う。「体型は人によって違うでしょ。だから私の服は、ほかの服よりちょっと着こなしやすくつくっているんです」

 着こなしやすさ――とりわけ、長らくファッション業界で存在を軽視されがちだった黒い肌や褐色の肌の人々、トランスジェンダーな人々にとっての“着やすさ”こそが、デイヴィスのブランドのグローバルなビジョンの中心をなしている。彼女はそれを「自分の存在を認め、取り上げてほしいと願う、同じ志をもったアーティストたちにとってのプラットフォーム」だと表現する。だが、彼女が服づくりを始めたのは、ごく個人的な欲求に迫られたためだった。「最初は自分自身のために服をつくっていた」と彼女は言う。「自分と通じ合う服がほしかったから。お金を払ってでも欲しいと心から思えるものを見つけるのは、ときにすごく大変なのよ」

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