グッチのクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレは、わずか3年間のうちに、ファッションの流れを大きく切り換えた。世の中の価値やジェンダーの概念、さらにアイデンティティにまで、新しい視点をもたらしながら

BY FRANK BRUNI, PHOTOGRAPHS BY MICHAL CHELBI, FASHION STYLED BY JAY MASSACRET, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 ミケーレの長年の恋人であるジョヴァンニ・アッティーリは、都市計画を専門とする教授だ。カナダのブリティッシュコロンビア州にある先住民族ハイダ・ネーションに関する研究をしている。ミケーレとジョヴァンニは休暇の際、トスカーナ地方や南部のアマルフィ海岸ではなく、イタリア中央部のチヴィタ・ディ・バニョレージョ村に向かう。今にも崩れそうな(実際にそのリスクがある)、信じられないような断崖絶壁の上に鎮座するこの村に、ふたりの別荘があるのだ。

美しい村だが土地の浸食が進んでいて、常に建物を修復する必要があるせいか、定住者はわずか十数人にすぎない。だが「毎年少しずつ風化していくこの場所が、僕は大好きなんだ」とミケーレは語る。「あとどのくらいで崩落するかわからないけれど、全然気にならないよ。だって、それは人生の摂理と同じだから」

画像: ドレス¥705,000、ネックレス¥1,170,000、ブーツ(参考商品) グッチ ジャパン カスタマーサービス(グッチ) フリーダイヤル:0120-88-1921

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 ミケーレは左腕の内側に、アッティーリの愛称である「ヴァンニ」というタトゥーを刻んでいる。右腕には自分の愛称「ラッロ」を、同じ書体で刻んでいる。左右一対なのだ。ふたりは13年前、ひょんなことからネット上で知り合った。ミケーレは新しいノートパソコンを入手したとき、友人にマイスペース(註:フェイスブック以前に主流だったSNS)の使い方を教わり、強く勧められてアカウントを作成した。「ソーシャルネットワークの世界を知って愕然としたよ」と彼は言う。そのまま何となく使っていたが、あるときミケーレは友人の700人もの知り合いのうちのひとりに連絡を取ってみた。それがアッティーリだったというわけだ。

アッティーリを選んだのは、プロフィール写真が気に入ったから。「カナダの美しい風景写真だったんだ」とミケーレは思い起こす。メッセージをやりとりする中で、ミケーレはまだアッティーリの顔も知らないことに気づいた。アッティーリに尋ねると、「僕の顔は風景の中にあるよ」とからかうような返事がきたと言う。「全然知らなかったんだよ。写真をクリックすれば、それが拡大されて彼の姿が見えるってこと。写真をズームできることも知らないくらい、こういうことには疎かったから」

 過去のミケーレがこんな様子だったとは驚きだ。いま彼が牽引するグッチの強みは、ソーシャルメディアなのだ。デジタル戦略においてグッチは他ブランドを圧倒的にリードしている。ミケーレのインスタグラムには40万人以上のフォロワーがいて、彼は刺しゅうで作られたモチーフやポップカルチャーのイメージソースなどを次々と投稿している。こうした印象的なビジュアルを通して、彼のデザインは瞬く間に、無数の人々に拡散される。若者の心をつかむには、こういったグッチのような手段が必要なのだ。

『ティーン・ヴォーグ』誌で最近までチーフを務めていたフィリップ・ピカルディは、「自分のことを頻繁に記録していると、少し派手な、メッセージ性のある服が着たくなるものなんだよ」と説明する。それにはまさにミケーレの服がぴったりだ。「ミケーレは、マキシマリズム(註:ミニマリズムの対義語。多要素を含み、装飾性が高いデザイン)なのにとびきりシックな服を提案しているよね。彼のスタイルは、インスタグラムのグリッド投稿(写真を分割してつなぎ並べる)とかストーリー(短い動画)にすごく映えると思う」

 今年7月、アメリカでは『Eighth Grade(原題)』というインディペンデント系青春映画が公開され、大絶賛された。主人公の思春期の少女は、YouTubeに動画をいくつも投稿するのだが、どの動画も「グッチ」という言葉で締めくくられていた。「グッチ」は彼女にとって「クール」を意味するのだ。ナンセンスで、大胆なユーモアを味わってもらおうと、ミケーレはさまざまなアイデアも練っている。彼は昨年、26歳のスペイン人アーティスト、ココ・キャピタンと一連のコラボアイテムを創った。それぞれの服には、「こんな未来しかないならどうしたらいいの?」「すべてもう見たなら目を閉じて」「常識はそれほど常識じゃない」といった、疲れた人に送るポストカードのようなエピグラム(註:ウィットに富んだ短文)が、ハンドライティングのようにプリントされている。

 贅をつくした幻想的なグッチのショーで、ミケーレはモデルの全身をありとあらゆるアクセサリーで飾り立てる。まるで彼らの体に1センチの隙間も残さないように、クレイジーなメガネに、クレイジーなヘアピース、クレイジーな小道具(テディベアやフェイクの太いヘビにベビードラゴン)を添える。多ければ多いほどいいのだ。

といっても私たちは、ルックどおりに何でもかんでも買い揃える必要はない。ミケーレのコレクションは、アイデアがいっぱいに詰まったグラブバッグ(註:小さなプレゼントが詰まった袋)であり、体を陳列台に見立てたフリーマーケットなのだ。でもそれは無秩序や野放図とは違う。頭に浮かぶアイデアのすべてと、多様な美のあり方を人々とシェアしたいという、抑えようも隠しようもないミケーレの心からの欲求の表れなのである。彼は、それぞれの人に、気に入って愛着を感じてもらえる、さまざまな種類の服を届けたいのだ。彼のマキシマリズムは、つまり寛大さを意味するのである。

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