グッチのクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレは、わずか3年間のうちに、ファッションの流れを大きく切り換えた。世の中の価値やジェンダーの概念、さらにアイデンティティにまで、新しい視点をもたらしながら

BY FRANK BRUNI, PHOTOGRAPHS BY MICHAL CHELBI, FASHION STYLED BY JAY MASSACRET, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 私がローマを訪れたとき、ミケーレは十数人のメンバーとともに今年9月にパリで披露された2019年春夏のメンズウェアを準備しているところだった。彼らが座っていたテーブルには、アクセサリーの入った箱が山積みにされ、壁には万華鏡のような彩りの生地スワッチがぶら下がっていた。イーゼルに載っていたのはTシャツ用の仮のデザイン画。そのアイデアソースは、ドリー・パートン(カントリーミュージックの第一人者)と、彼女の歌「ジョリーン」や映画『フランケンシュタインの花嫁』(1935年)らしい。これらがいったいどんなふうに結びついて作品になるのか予想もつかなかったが、まあ私はそれを知る立場ではないだろう。

画像: (左)トップス¥130,000、パンツ(参考商品) (右)ジャケット、スカート、ネックレス・ベルト(すべて参考商品) グッチ ジャパン カスタマーサービス(グッチ) フリーダイヤル:0120-88-1921

(左)トップス¥130,000、パンツ(参考商品)
(右)ジャケット、スカート、ネックレス・ベルト(すべて参考商品)
グッチ ジャパン カスタマーサービス(グッチ)
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 4人のアンドロジナスなメンズモデルは、それぞれが個性的なルックスをしていた。彼らは、せわしなく着替えては出たり入ったりを繰り返している。そこで試着していたのは、タック入りのふんわりしたスカート風のショートパンツ、ショッキングピンクやターコイズブルーの、プラスチックのようなツヤのあるロングスリーブシャツや、テカテカしたジャケットなどだ。4人の中でいちばんほっそりしたモデルは、ロングヘアをシニョンにまとめ、淡いモーヴ色のシャツにボルドー色の腰回りがゆったりしたボトムを着ている。女性的な、クラシックなコーディネイトかと思いきや、ボトムの上には局部サポーターのような、白いショーツをレイヤリングしていた。

袖の長さや配色にあれこれと悩んでいたミケーレの背後では、ビョークの『ユートピア』が流れている(同アルバムの1曲目「ザ・ゲート」のミュージックビデオでビョークが着ている衣装はミケーレがデザインした)。ミケーレは何度も「ベッロ(伊語で美しいの意味)」「カリーノ(キュートの意味)」と繰り返す。こうした言葉自体が、彼がデザインするすべてのものに共通する遊び心と結びつくような気がした。

 あるとき私は彼に尋ねた。これまで手がけたコレクションの中でいちばん気に入っているのはどれか。つまり、いちばん思いどおりに仕上げられたコレクションはどれかと。ミケーレは、ドラゴンのコレクションだよ、と答えた。それは2018-’19年秋冬のウィメンズ・メンズ合同ショーで、タイトルは「サイボーグ」。くだんのドラゴンは脇役で登場している。ショーでは自分の生首の複製を手にしたり、マスクで顔を覆ったりしたモデルに続いて、ミケーレらしいエキセントリックなショーピースが次々に登場した。ロイヤルブルーのターバンに、黒の二重塔型ヘアピース、カラフルなプリントのヘッドスカーフ、あちこちできらめくクリスタル。

そのなかでも最もスタンダードなスーツやソフトカラーのジャケットは、どうしたわけかメジャーリーグのロゴがついていた。ルビーレッドのセーターは、胸元に「パラマウント・ピクチャーズ」のロゴと有名な山のモチーフがあしらわれ、巨大な袖はモップのようにバサバサとけば立っている。ミケーレは、このショーを通じて今の人々のアイデンティティのあり方を探りたかったという。ソーシャルメディア映えするポーズから、誰もが気軽に受けられる美容整形まで、本来の自分を隠したり、注目を浴びたり、別人のように変わったりするための方法が幾千もあることに、彼は驚きを隠しきれないでいるのだ。

「あのショーは実験室みたいなものなのさ」。ミケーレが口火を切った。「人生だって実験室みたいだよ。その昔、人間は地球と自然に命を与えられた、かけがえのない存在だって考えられていたけど」。今は違う。彼は現代を「ポスト・ヒューマン時代」と呼ぶ。「何でも操作できる時代なんだ。ちょっと怖いところはあるけど、同時に面白くもある。なぜって、ひとりの人間がいくつもの違った人生を過ごせるんだから。本来の自分とは別のものになろうって決めることもできるんだ」

 ファッションはこうした現実をきちんと反映させなければならない。ミケーレは主張する。ファッションは他人の理想に自分を縛りつける“鎖”ではなく、自分らしさを見つける手段を与え、自由を認める“ライセンス”であるべきだと。「今のファッションはベッドに横たわり、死期を間近に控えた老婦人みたいだよ」。彼は昨年、米『ハーパーズ バザー』誌でこんなふうに語った。「この老婦人(ファッション)はいっそ亡くなったほうがいいのかもしれない」

 つまりミケーレは「ポスト・ファッション」を模索しているのだろうか。私がそう尋ねると、彼は少し考えて答えを見つけようとした。そして、「たぶん、そうだね」とつぶやいた。「というか、僕はファッションなんてどうでもいいんだ。ファッションは土台にすぎない、という意味でね。それにそもそもスタイルって、人の生きざまでしかないんだから」。それを決めるのはほかの誰でもない自分だ。変化を伴う、完璧とは言えない発見を繰り返すうちに、生き方にふさわしいスタイルが、少しずつ、また偶然に作り上げられていく。あらゆるストーリーもあらゆる街も、こんなふうにしてそれぞれのスタイルを築いてきたのだ。ならば自分以外の何かに変わる必要などなぜあろう。ただ、自分自身であることを心から楽しめばいいのだ。

MODELS: MARYEL SOUSA AT THE SOCIETY, WILLIAM DE COURCY AT FUSION, TIANNA ST. LOUIS AT NEW YORK MODELS AND ALEECE WILSON AT ELITE. HAIR BY JONATHAN DE FRANCESCO AT LGA MANAGEMENT. MAKEUP BY SEONG HEE PARK AT JULIAN WATSON AGENCY. SET DESIGN BY JILL NICHOLLS AT BRYDGES MACKINNEY. CASTING BY SAMUEL ELLIS SCHEINMAN.

LOCATION SCOUT: ANDREA RAISFELD. LIGHTING TECH: DARREN HALL. PHOTOGRAPHER’S ASSISTANTS: ALEX HERTOGHE AND DAVIS McCUTCHEON. HAIR ASSISTANT: ERICA LONG. MAKEUP ASSISTANT: SUHYUN PARK. SET ASSISTANTS: MIKE WILLIAMS, TODD KNOPKE, NOELLE TOCCI, CAMERON MICHEL, ESTHER AKINTOYE AND JAY JANSEN. STYLIST’S ASSISTANT: OLIVIA KOZLOWSKI. LOCAL PRODUCTION: JENNIFER PIO. ON-SET COORDINATOR: CAROLIN RAMSAUER. PRODUCTION ASSISTANTS: FRANK COOPER AND BOBBY BANKS

アレッサンドロ・ミケーレはこうしてグッチと、
ファッションの定義を革新した<前編>

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