グッチのクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレは、わずか3年間のうちに、ファッションの流れを大きく切り換えた。世の中の価値やジェンダーの概念、さらにアイデンティティにまで、新しい視点をもたらしながら

BY FRANK BRUNI, PHOTOGRAPHS BY MICHAL CHELBI, FASHION STYLED BY JAY MASSACRET, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

 少し前まで無名だったアレッサンドロ・ミケーレ。クリエイティブ・ディレクターに大抜擢された新生グッチを隆盛に導き、ファッションの観念そのものも刷新した彼は、どのような人物なのか。モード界の通例とはかけ離れたミケーレの素顔に迫るインタビューの「後編」をお届けする。


 ミケーレが誰よりも輝いている理由はまだほかにもある。そのひとつは、ショーピースと会場で配られる分厚いリリースから伝わってくる、彼の深い知識と、興味と好奇心に満ちたエスプリだ。これは彼の中に根づいたローマと深いかかわりがある。ミケーレはローマの中心部で生まれ育った。芸術を愛する両親と、それを享受できる環境に恵まれた彼は、彼の姉とともに芸術に慣れ親しんできた。母親はイタリアの映画会社の幹部のアシスタントを務め、映画の世界にどっぷりとつかり、父親はアリタリア航空の技術者で、自由時間を彫刻に費やしていたという。

今年6月、ローマにミケーレを訪ねた際、彼は「生まれてすぐから、僕は古代の廃墟の中を歩き回っていたんだよ」と言って笑った。私たちは彼のオフィスの、グリーンのビロードソファに腰かけていた。見上げると息を呑むほど壮麗な格天井が目に入る。グッチのデザインオフィスは、ラファエロ・サンティ(註:盛期ルネサンスの代表的な画家・建築家)設計の、16世紀初頭に建てられた大邸宅の中にあるのだ。

画像: ジャケット¥440,000、シャツ¥235,000、パンツ¥175,000、チョーカー¥96,000、ネックレス¥110,000、ブーツ(参考商品) グッチ ジャパン カスタマーサービス(グッチ) フリーダイヤル:0120-88-1921

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 ローマの街は、多様な時代の図像やアーキタイプ(註:時代や文化を超えて普遍的なイメージや象徴をもたらすもの)の宝庫だ。それらは積み重なり、あちこちに散らばり、ぶつかり合っている。ルネサンスの遺跡と呼べるグッチのデザインオフィスを出ると、その右手にテベレ川の橋があり、橋の両端にジャン・ロレンツォ・ベルニーニによるバロック様式の彫刻が並んでいる。川の向こうには、ローマ帝国のハドリアヌス皇帝が一族の霊廟として2世紀に建造した、円筒型の巨大なサンタンジェロ城がそびえ立っている。ミケーレの視点やスタイルが、この街に影響を受けているのは明らかだ。「父親とは公園で遊ばなかったし、スポーツもしなかった。でも美術館にだけは行っていたんだ」と彼は回想する。「美しい彫像を眺めて時間を過ごしていたよ。その顔や体に見入りながら」

 ミケーレが学んだアカデミア・コストゥーメ・エ・モーダは、グッチのデザインオフィスを出て、石畳の道を数ブロック歩いた先にある。彼の指導にあたっていたエリザベッタ・プロイエッティは、「アレッサンドロには、ローマの血が流れていますからね」とつぶやいた。この学校では、コスチュームデザインとファッションデザインの両方を3年かけて学ぶが、これがミケーレの作品に驚くほど影響を残していると彼女は言う。コスチュームのデザインをするには、歴史を隅々まで知り尽くすことが肝心なのだそうだ。

確かに、ミケーレのグッチはさまざまな時代の遺物が詰め込まれた宝石箱に似ている。彼は、ファッションのヘリテージ(エリザベス様式、ヴィクトリア様式、ロシア帝政様式、デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』)に、10年先、あるいは1世紀先のボキャブラリー(カフタンドレス、ボクシージャンプスーツ、フラワー柄やアニマルモチーフ、ブロケード)を掛け合わせた新しい物語を紡ぎ出しているのだ。そして彼自身とほかのデザイナーたちがポップカルチャーに抱く“戯れの愛”とは違う、もっと一途な情熱を、ミケーレは過ぎ去った時代に注いでいる。そのうえ彼は読書好きで、あらゆることに目を向け、勉強熱心でもある。「ミケーレは何にだって興味があるの」とプロイエッティは言う。「とにかく好奇心旺盛だから」

 女優兼モデルのハリ・ネフは、ミケーレに初めて会ったときのことをよく覚えている。彼から連絡を受けてウエストハリウッドのシャトー・マーモント・ホテルでディナーをしたとき、彼女はコロンビア大学を卒業したばかりだった。「大学のカリキュラムで、ヴァージニア・ウルフとギリシャ悲劇、ホメーロス、アイスキュロスを読まなければならなかったの。あのときはその内容を鮮明に覚えていたから、いつもそのことばかり考えていたわ」。そんなハリ・ネフがする話にミケーレはきちんと応じた。こうした物語がミケーレの頭の中にも刻まれていたからだ。「正直なところ」ネフが切り出す。「こんな文学マニアみたいな話ができる人に、ファッション界ではめったに会えないものなのよ」

 ミケーレは、ファッションという業界に浸るつもりも、こだわりもない。彼がローマを好むのは、デザイナーやジャーナリスト、プレスにセレブリティといったちょっと面倒な人々にすれ違わずにすむからだ。彼のアイデアはトレンドに毒されたりしない。「距離をもって接したいんだ」とミケーレ。「ファッションから離れていたいんだよ。ファッションにはインスパイアされないし、僕はもっと別の視点でもの作りをしているから」

 

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