ユニフォームを変わらぬ着想源にしつつ、新素材を得てフェミニンに進化。ストイックな職人デザイナーの作る「HYKE」の服が、スタイリストから一般にまで広く長く愛される理由を探る

BY AKANE WATANUKI, PHOTOGRAPHS BY TAKASHI EHARA

 東京のオフィスで毎シーズン行われる展示会は、いつも大勢の人でにぎわっている。ファッション界のプロフェッショナル限定のプレスデイであるにもかかわらず、である。いわゆるモード系だけではなく、コンサバティブ系、スタンダード系と、集(つど)っている人のジャンルは幅広い。しかもこの光景が前身のgreen時代とほぼ不変であり、世代をも超えている。ランウェイショーをすると聞けば「見なければ」と思わせる、このブランドの全方位的な人気はどこから来ているのか。

画像: クリエイティブディレクションは吉原(右)、プロダクトは大出(左)と仕事を分担、デザインはふたりで行う。取材の際、吉原は思考を組み立てて話し、大出は直観的に言葉を発する

クリエイティブディレクションは吉原(右)、プロダクトは大出(左)と仕事を分担、デザインはふたりで行う。取材の際、吉原は思考を組み立てて話し、大出は直観的に言葉を発する

 古着のワークウェアやミリタリーウェアという欧米のユニフォームをインスピレーションソースにしている「HYKE(ハイク)」。これは1998年に吉原秀明と大出由紀子が始めたブランド「green」の頃から一貫している。統一感をもってデザインされ作業に適した機能が備わっているユニフォームは、生活になじみやすく、長く着ていても飽きがきにくい。HYKEのデザインはその本質を損なわずに解体し、現代の服へと再構築している。同い年のふたりの古着への愛は、子どもの頃にテレビで見ていたアメリカのドラマや映画から生まれた。吉原はそこで目にしたアメリカの生活やカルチャーに憧れを抱いたことが、デニムやワークウェアに傾倒するきっかけになったという。古着店を営んでいたふたりは、古着のよさを取り入れた服が作れたらとgreenを立ち上げた。

「greenの頃はどれだけ古着のよさを再現できるかを追求する面が強かった。素材の粗さや、技術的にきれいに作れなかった風合い、綿、ポリエステル、ナイロンとさまざまな縫製の糸。時代によって多種多様なそれらをとことん調べ、再現の方法を模索していました」と吉原。大出は「わからないことはどんどん聞くタイプだから、生地や縫製について専門家に根掘り葉掘り質問攻め。古着を切ってほどいて、『この生地を作って』と生地工場に渡して。試行錯誤の連続でした」と言う。服の中でも古着のユニフォームというある意味狭い範囲を徹底的に掘り下げ、マニアックに調べ尽くす。そして納得がいくまで制作現場とやり取りする。さらに一枚の古着をより深く突き詰めてそこから幾通りも着想する。ふたりのストイックな職人魂はものづくりの信頼度を格段に高め、私たちの着てみたい、買いたいという心の糸を震わせ続けた。

 greenを人気絶頂時に休止したが、5年後に満を持して復帰。HYKEとして再スタートを切った。シーズンテーマを設けず、コンセプトを絞り込んで、古着のユニフォームを別の角度から捉えるように。結果、コレクションを重ねるごとに、風をはらむようなフェミニンでエレガントな服に変化してきた。ミリタリーブルゾンの下にシアーなドレスを重ねたロング&リーンなシルエット、ボリュームのあるカーゴパンツにパフスリーブブラウス。古着のディテールはありつつフレッシュで軽やか。

画像: 2019年春夏コレクションより。 (写真左から)軽やかに揺れるシアーなストライプのラップドレス。カーゴパンツはアメリカンアーミーのフィールドパンツからの着想。短いボレロはザ・ノース・フェイスとのコラボレーション すべてBOWLES(HYKE) TEL. 03(3719)1239 COURTESY OF HYKE

2019年春夏コレクションより。
(写真左から)軽やかに揺れるシアーなストライプのラップドレス。カーゴパンツはアメリカンアーミーのフィールドパンツからの着想。短いボレロはザ・ノース・フェイスとのコラボレーション
すべてBOWLES(HYKE)
TEL. 03(3719)1239
COURTESY OF HYKE

大出は「自分たちが好きだった古着はレプリカを作り尽くし、繰り返し進化する中で、少し変化をつける方向に進んでいることは確か」と話す。そのうえで吉原は「変化して見えるのは、素材の幅が広がったことが影響していると思います。greenのときは天然素材の強さや魅力を取り入れていましたが、HYKEを始めると合繊など新素材の目覚ましい進化に面白さを感じました。それで3シーズンほど前から意識的にトライしています」。かつてはシルクの軽さや柔らかさを求めても、日常性や価格を考えて断念していたが、揺らぎのあるポリエステルを使うことで表現できるようになった。

画像: 資料として買い集めた古着はgreen時代のアーカイブとともにオフィスに大量に保管されている

資料として買い集めた古着はgreen時代のアーカイブとともにオフィスに大量に保管されている

green時代にはほとんど行かなかった生地の展示会にも新素材との出合いを求め足を運んでいる。一方で綿の生地を愚直に作る工場との取り組みも続ける。素材が新しくなっても妥協のなさは変わらず、むしろ強くなっているのを見ると、手を動かす者の誠実さは不変だと思い知らされる。インスピレーションソースは古着のユニフォーム、生地は現代に合う素材。その巧みなバランスと誠実なものづくりが、服のプロの魂を揺さぶり、着たいと思わせるのではないだろうか。マッキントッシュやアディダスオリジナルス、現在行なっているザ・ノース・フェイスとのコラボレーションも、自らが愛用していたり好きだったりした相手であり、協業するならそれが必須という実直な姿勢にも通じる。

画像: ザ・ノース・フェイスの「ジオドーム4」のフライシートを“TAN”カラーで製作した限定モデル。 ¥220,000 ゴールドウイン カスタマーサービスセンター(THE NORTH FACE × HYKE) フリーダイヤル: 0120-307-560 公式サイト COURTESY OF HYKE

ザ・ノース・フェイスの「ジオドーム4」のフライシートを“TAN”カラーで製作した限定モデル。
¥220,000
ゴールドウイン カスタマーサービスセンター(THE NORTH FACE × HYKE)
フリーダイヤル: 0120-307-560
公式サイト
COURTESY OF HYKE

 ブランドを続けるうえでふたりが頻繁に問われるのは、海外進出と旗艦店についてだ。「一度ニューヨークのショールームと契約しましたが、時期の歯車がかみ合わなかった。店舗を持つこともまだ考えていません。HYKEのコレクションとコラボレーションだけで今は手いっぱい。私たちにもスタッフにも育児や家族との時間が必要だし、ワークライフバランスを考えたい。今のキャパシティを超えてまで海外進出やお店をつくるより、自分たちが思う理想の服作りを丁寧に納得がいくまでやりたい」と吉原は言う。

ブランドが成長するとデザイナーが必ず直面する経営の問題も、今自分たちが管理できる範囲以上には拡大するつもりはない。服作りの職人たちの歩みはじっくりこつこつと、そして着実だ。

HYKE(ハイク)
吉原秀明は1969年東京生まれ。大出由紀子は1969年群馬県桐生市生まれ。1998年greenを開始、2009年春夏で休止。2013年秋冬にHYKEを立ち上げる。2014年マッキントッシュ、2015年アディダス オリジナルス、2018年春夏よりザ・ノース・フェイスと協業して話題に
www.hyke.jp

 

This article is a sponsored article by
''.