「すべてのブランドは、もはや中立ではいられない」と語るビッザーリは、いかにしてグッチの‟カルチャー”を構築し、ブランドを再生し得たのか

BY KEI WAKABAYASHI, PHOTOGRAPHS BY YASUHIDE KUGE

 ファッション業界は今、大きくそのビジネスモデルを変化させなくてはならない局面に来ている。それまでのラグジュアリーファッションを支えてきた手法や産業構造は、スマートフォンやSNSの登場によってドラスティックな変化を迫られてきた。もちろん時代の変化を察知することを生命線とするファッション業界は、猛然とデジタル化を遂行し、若年層の取り込みを図ってきた。それが完遂すればひと安心かと思えば実は違った。むしろそれらは前触れでしかなかった。ミレニアル以降の若者たちの価値観に対する最適化は、たとえばダイバーシティ、たとえばインクルージョン、たとえばサスティナビリティといったことに「本気で取り組む」ことを企業に対して要求し始める。そして、その要求は、一企業はおろか産業構造自体を見直すよう強く迫っている。

画像: グッチが推進するサスティナビリティ戦略は多岐にわたる。写真の「グッチアートラボ」は、レザーグッズとシューズの製造においてミケーレの美学をスピーディに具現化し、未来に向けてクラフツマンシップを保全する開発拠点として2018年設立。ビッザーリは「社員とともに育んできた企業文化がパーフェクトに表現された場所」と語る COURTESY OF GUCCI

グッチが推進するサスティナビリティ戦略は多岐にわたる。写真の「グッチアートラボ」は、レザーグッズとシューズの製造においてミケーレの美学をスピーディに具現化し、未来に向けてクラフツマンシップを保全する開発拠点として2018年設立。ビッザーリは「社員とともに育んできた企業文化がパーフェクトに表現された場所」と語る
COURTESY OF GUCCI

 持続可能性という言葉がこれだけ長いこと世の中で語られてきたにもかかわらず、たとえばファッション業界において、売れ残りの衣料をめぐる問題がクローズアップされ世界的に問題化したのは、実に2018年になってからのことだった。その問題は、世の企業はこの間ずっとサスティナビリティの重要性を口にはしてきたものの、産業構造自体を抜本的に見直すような本質的な改善には取り組んでこなかったということを白日の下に晒した。

 ダイバーシティといったテーマも広告キャンペーンを通して語るのは簡単だ。ダイバーシティに取り組んでいるフリはいくらでもできる。とはいえ世の中には、ゲイライツや多民族社会や#MeToo に反対する人たちはいくらでもいる。その人たちもまた「お客さま」であると考えるのがこれまでの企業が殉じてきた「中立性」だった。けれども、今やいったん「ダイバーシティ」を語ったとたん「本気で取り組んでいるかどうか」が問われることになる。それは、人事や採用のあり方の抜本的な変更を最終的には要求するだろう。いま企業は「そもそも企業とは何か」という問いから大きな再考を迫られている。

「企業の幹となるのは、カルチャーです。経営者の最も重要な仕事はそれをつくりあげ、毎日の仕事の中に行き渡らせることです。グッチのCEOに就任した際に、私はこんなふうにブランドのカルチャーを定義しました。グッチはまず『自己表現』を大事にすると。自己表現を大事にするということは、個人を大事にするということを意味しています。個人であることを最大化するためには、どんな人でも等しく尊重されなくてはなりません。そして、私たちはそのカルチャーにどんなスピリットを与えたいのだろうか、と考えました。私たちは、『Happiness』と『Joy』というスピリットを与えることを選びました。こうしたことは、しかし言葉で言っても意味がありません。それがプロダクトやコミュニケーションのあらゆる領域に行き渡っているのは当然のことで、最も大事なのは、会議のやり方、組織内のコミュニケーション、すべてのメールのやりとりにおいても、それが実践されなくてはならないのです。日々実践されないカルチャーはカルチャーではありません」

画像: ジェンダーの平等を掲げさまざまな活動を支援してきたグッチの「CHIME FOR CHANGE」プロジェクト。今年1月、ミケーレがイタリアのアーティストMP5とコラボレーションした最新アイデンティティが、ロンドンやミラノなど世界各地のグッチアートウォールで公開された COURTESY OF SAMUEL KEYTE

ジェンダーの平等を掲げさまざまな活動を支援してきたグッチの「CHIME FOR CHANGE」プロジェクト。今年1月、ミケーレがイタリアのアーティストMP5とコラボレーションした最新アイデンティティが、ロンドンやミラノなど世界各地のグッチアートウォールで公開された
COURTESY OF SAMUEL KEYTE

「ダイバーシティ」についても、それを言いながら取締役に男性しかいなかったり、日本人しかいないということは日本企業にはありがちなことだ。仮に、ビッザーリ氏が日本企業のCEOを務めるとしたらどこから変えるかを問うと「まずは内部を変えることからだ」と即答が返ってきた。しかも、それをトップダウンで実行するとも明言する。

「トップダウンでやるか、ボトムアップでやるのかは、ビジネスのライフサイクルのどこにいるかによって変わります。たとえばグッチで私に求められていたのは素早く業績を回復させるということでしたから、民主的な手続きをしている時間はありませんでした。最初のショーで、私たちが新しく何を体現しようとしているのか、明確なメッセージを素早く出す必要があったのです。ですから私はショーの5日前にクリエイティブ・ディレクターとしてアレッサンドロ・ミケーレを起用したのです。それはすべてトップダウンの決断です。そのショーの前日に私は、アレッサンドロに呼ばれ『どう思うか?』と聞かれたので、私は彼が用意したもののなかから、最も奇抜なものだけをセレクトしました。売れないのはわかっていましたが、その段階ではメッセージを出すことが何よりも重要だったのです。それもまず社内に向けたメッセージです。ビジネスの確固たるフレームワークを作りあげるにはすべてをトップダウンでやる必要がありました」

 新CEOの新しいビジョンが、新クリエイティブ・ディレクターの元で現実化されることで、この会社が何に価値を置き、どういう方向に向けて進もうとしているか、そのメッセージは明らかになる。そうしたメッセージの発動から12~18カ月を経るとやがて社内に、その新しいカルチャーがなじんでくる。そこからビッザーリは、ボトムアップの社内コミュニケーションを採用していくこととなる。「実際、最初のシーズンにおける売り上げは50%も下がりましたが、そこは数字を追いかけるタイミングではなかったのです。いずれにせよ、お客さまがそのメッセージを理解し、ブランドについてくるには3~5年はかかると思っていました。よりコマーシャルな路線を狙うにしてもあとからそれをやるほうがラクですから」

 

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