ウォッチジャーナリスト高木教雄が、最新作からマニアックなトリビアまで、腕時計にまつわるトピックを深く熱く語る。第7回は、時計マニアなら誰もがその名を知る国際団体「アカデミー独立時計師協会」のメンバーに名を連ねる日本人時計師と、彼らが手掛ける時計の魅力を探る

BY NORIO TAKAGI

 もうひとりの日本人AHCI会員、浅岡 肇は、2013年に準会員、2015年に正会員となった。処女作は、2009年に製作した「トゥールビヨン」。浅岡は、この複雑機構を独学で完成させている。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、1992年に浅岡肇デザイン事務所を設立。プロダクトデザイナーとして活躍し、写真と見紛うようなコンピューターグラフィックスの作り手として広告・雑誌業界で知られた存在だった。そして早くから機械式時計に興味を持ち、所有する時計を自分で修理・調整し、また専門書を読み込み、ムーブメントの基本構造や組み立て技術を覚えていったという。こうして2011年3月から日本初の独立時計師として活動を始めた。

画像: 浅岡 肇(HAJIME ASAOKA) 1965年生まれ。神奈川県出身。1990年東京藝術大学デザイン科卒業後、プロダクトデザインやCGなどを手掛ける。2009年に初作「トゥールビヨン#1」を完成。’13年よりAHCI準会員、’15年より同正会員

浅岡 肇(HAJIME ASAOKA)
1965年生まれ。神奈川県出身。1990年東京藝術大学デザイン科卒業後、プロダクトデザインやCGなどを手掛ける。2009年に初作「トゥールビヨン#1」を完成。’13年よりAHCI準会員、’15年より同正会員

 デザイン事務所として使っていた原宿駅にほど近いマンションの一室に、時計製作に必要なさまざまな工作機械や検査機などを整備。ムーブメント用のパーツや微細なピン、ダイヤルにケース、針やインデックスまですべてを自作している。室温や工作機械の温度を一定に保ち、加工時の部材の熱膨張までも配慮した超精密加工が、浅岡の持ち味だ。こうしてできあがったパーツは、手作業で入念に磨かれ、丁寧に組み立てられ、高い美観と優れた精度が両立される。

画像: (左)「クロノグラフ」¥12,000,000(参考価格)/浅岡 肇 2017年製作。フルオープンのダイヤルに、クロノグラフ・モジュールの全容を見せる。時分針を左にオフセットし、その周囲にクロノグラフ機構を巧みに配置した (右)「プロジェクトT」¥9,000,000(参考価格)<受注生産>/浅岡 肇 <ケース径38mm、SS、手巻き、アリゲーターストラップ> 2014年製作。極小のボールべアリングを13個使用し、繊細な複雑機構のトゥールビヨンに優れた耐衝撃性を与えた。キャリッジは、軽量なチタン合金製 http://hajimedesign.com PHOTOGRAPHS: COURTESY OF HAJIME ASAOKA

(左)「クロノグラフ」¥12,000,000(参考価格)/浅岡 肇
2017年製作。フルオープンのダイヤルに、クロノグラフ・モジュールの全容を見せる。時分針を左にオフセットし、その周囲にクロノグラフ機構を巧みに配置した
(右)「プロジェクトT」¥9,000,000(参考価格)<受注生産>/浅岡 肇
<ケース径38mm、SS、手巻き、アリゲーターストラップ>
2014年製作。極小のボールべアリングを13個使用し、繊細な複雑機構のトゥールビヨンに優れた耐衝撃性を与えた。キャリッジは、軽量なチタン合金製
http://hajimedesign.com
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF HAJIME ASAOKA

 またデザイナーでもある浅岡の作品は、どれもモダンでスタイリッシュだ。2017年に発表したトゥールビヨン「プロジェクトT」では、元来は人工ルビー製である軸受けの穴石の多くを極小のボールベアリングで置き換えるなど、機械の独創性にも秀でている。これは航空宇宙部品を手掛ける由紀精密と切削工具メーカーのOSGとのコラボレーションから生まれた作品で、日本の優れた技術を海外へ紹介することも、目的のひとつだった。

2017年に作り上げた「クロノグラフ」は、古典的な高級機の機構を踏襲。スイスやドイツの老舗高級時計ブランドのクロノグラフと比べても遜色のない設計と仕上がり、操作感だと大絶賛された。さらに真珠で知られる「TASAKI」のためにトゥールビヨン・ウォッチを製作するなど、活動の幅を広げてもいる。

 2019年3月には、牧原大造が新たに準会員としてAHCIに入会。日本の高級時計を、3人の独立時計師が牽引する。

高木教雄(NORIO TAKAGI)
ウォッチジャーナリスト。1962年愛知県生まれ。時計を中心に建築やインテリア、テーブルウェアなどライフスタイルプロダクトを取材対象に、各誌で執筆。スイスの新作時計発表会の取材は、1999年から続ける。著書に『「世界一」美しい、キッチンツール』(世界文化社刊)があり、時計師フランソワ・ポール・ジュルヌ著『偏屈のすすめ』(幻冬舎刊)も監修

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