New Balance社のブランドのひとつ「TOKYO DESIGN STUDIO New Balance」が新しく掲げる「Uni-ssentials(ユニセンシャルズ)」というコンセプト。新作コレクションのプレゼンテーションの場で発表された映像作品から、その概念を読み解く

BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: 中村壮志《LAST DANCE》の展示風景

中村壮志《LAST DANCE》の展示風景

 人との暮らしの中で感情を育んでいくAI。散っていく桜、静かに舞う雪、バカンスで行った海辺や都市の夜景ーーそういった風景に人の心が動いていくさまを一緒に行動し学習することは、AIにとってまるで人間とダンスをしているようであった。それはあたかも、学習ではなくみずからの経験として「美しさ」を見出しているかのようだ。

 これは映像作家・美術家の中村壮志が手がけた映像作品《LAST DANCE》の内容だ。残念ながら、現在この作品を見る機会はない。10月31日に開かれた、New Balance社のブランドのひとつ「TOKYO DESIGN STUDIO New Balance」の新コレクションのプレゼンテーション会場で、1日限り公開されたものだった。

「TOKYO DESIGN STUDIO New Balance」のアパレルラインは、2023年春夏シーズンから大きくリニューアルする。ジェンダーニュートラルをより広義に捉える「Uni-ssentials(ユニセンシャルズ)」をコンセプトにすえ、提案するのは、性別や年齢によるカテゴリーを剥ぎ取った「ヒューマン(人間)」のための実験的なアスレチックウエア。中村の作品は、その「Uni-ssentials」という抽象的な概念を、アーティストの視点で表現してみようという試みで作られたものだった。

画像: 《LAST DANCE》の展示風景。写真のモデルは、新作コレクションから、キャップ、Tシャツ、スウェット、ショーツ、フットウェアを着用。ラインナップはアパレル7型とシューズ1型。メンズ、ウイメンズの区別はなく、ウエアに関してはサイズは0から3までの4展開

《LAST DANCE》の展示風景。写真のモデルは、新作コレクションから、キャップ、Tシャツ、スウェット、ショーツ、フットウェアを着用。ラインナップはアパレル7型とシューズ1型。メンズ、ウイメンズの区別はなく、ウエアに関してはサイズは0から3までの4展開

 AIを語り部に、人間の感情の豊かさを描いた《LAST DANCE》は、脱人間中心的な視点で紡がれた「人間についての物語」でもある。その作品中に、ひとつ印象深いセリフがあった。「(人間の)身体は永遠でないから美しいのかもしれない」。それは、肉体をもつ人間は日々、死に向かって生きているという「メメント・モリ」的な意味合いとも取れるが、同時に今回の新コレクションを見たとき、「人間の個々の身体というものは固定されたものではなく、(四季により姿を変える自然と同じように)多様で、流動的なのだ」というメッセージとして読めた。

 実際のコレクションは、多様な身体のあり方をポジティブに受け入れる、そんな工夫が凝らされている。ひとつは、パターンメイキング。さまざまな国籍、ジェンダー、体型のモデルに協力を得て、フィッティングテストを繰り返し、なるべく多く人に快適にフィットする衣服のかたちを目指した。そして、サイズ毎のシルエット。たとえば、サイズ0のブルゾンはサイズ1より全体の着丈に対して身頃を短めにするなど、各サイズごとの最適なボディバランスを考え抜いた。それは、サイズ0と1の間など、既存のサイズの狭間にあるボディバランスの人にも寄り添えるように、という配慮がベースにあるアイデアだが、サイズという規格化されたものから、いかに身体を解放させるかという新しいチャレンジでもある。

画像: ベージュ、ブラック、グレーのベーシックカラーを軸に、アスレチックウエアとしても、デイリーウエアとしても使えるデザイン、そして、New Balanceの真骨頂である機能性とフィット感を追求した

ベージュ、ブラック、グレーのベーシックカラーを軸に、アスレチックウエアとしても、デイリーウエアとしても使えるデザイン、そして、New Balanceの真骨頂である機能性とフィット感を追求した

画像: 《SUNDAY MORNING》の展示風景

《SUNDAY MORNING》の展示風景

 このプレゼンテーションでは、もうひとつ中村の映像作品《SUNDAY MORNING》も披露された。同様に「Uni-ssentials」というコンセプトを出発点にした作品だ。霧が立ち込める空間にうっすらと見える楽器をもった7人の姿。お互いの姿ははっきりと見えない状態で、それぞれ誰かが発した楽器の音に相手の気配、存在を感じ取り、自らも音を重ね、ひとつの音楽を生み出していく。そんな、姿かたちのない世界での共創を表現した、美しく心地よいパフォーマンス映像であったが、楽器=道具というものが、その演奏者の姿かたちに代わってアイデンティティを立ち上らせるものであること、そこにコミュニケーションがうまれる可能性のようなものも暗示させる作品だった。

 New Balanceは、フットウエアやアパレルの、道具としての本質を長く探求してきたブランドである。「Uni-ssentials」にもとづいた「ヒューマン」のためのコレクションは、新しいエッセンシャルなツールとして、現代人の心と体をポジティブにひらいてくれるにちがいない。

画像: 「Uni-ssentials」をコンセプトにしたコレクションは、2023年春より、 New Balanceのコンセプトショップ「T-HOUSE New Balance」や公式オンラインストアなどで発売開始予定 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF NEW BALANCE

「Uni-ssentials」をコンセプトにしたコレクションは、2023年春より、 New Balanceのコンセプトショップ「T-HOUSE New Balance」や公式オンラインストアなどで発売開始予定
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF NEW BALANCE

問い合わせ先
TOKYO DESIGN STUDIO New Balance
公式サイトはこちら

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