BY LINDSAY TALBOT, PHOTOGRAPH BY CHASE MIDDLETON, SET DESIGN BY LEILIN LOPEZ-TOLEDO, TRANSLATION BY CHIHARU ITAGAKI
1966年の創業以来、北イタリアの小都市ヴィチェンツァでレザー製品を生産してきたボッテガ・ヴェネタ。その地にて何世紀も前から伝わる技術「イントレチャート」を用いて、職人たちがバッグなどの小物を手作業で仕上げている。イントレチャートは、短冊状に切ったレザーを交差させながら堅く編み込んでいく技法である。精巧な作りであり、耐久性に優れたこの編み込み模様は、さりげなくラグジュアリーを物語る存在として知られるようになった。
2001年、ドイツ出身のトーマス・マイヤーが同ブランドのクリエイティブ・ディレクターに就任。その頃のファッション界はブランドバッグのブーム全盛期で、バッグにはこれでもかとモノグラムや派手な飾りがあしらわれていた。しかしマイヤーは、こういった流行からは距離を置くことにした。ボッテガ・ヴェネタに来てすぐに、アーカイブの中から1978年ごろのボックス型クラッチバッグに目を止めたマイヤーは、これに手を加え、元の四角い留め具を船の係留ロープのようなデザインに変更した。
この丸みを帯びたミニバッグは、「ノット」と名づけられた。2002年春夏シーズン以来毎シーズンのように、さまざまな素材や色、サイズで、このクラッチバッグのバリエーションが登場することになった。
2021年11月、フランスとベルギーの国籍を持つ38歳のマチュー・ブレイジーが、アーティスティック・ディレクターに就任した。カルバン・クライン、セリーヌ、メゾン マルジェラなどでキャリアを積み、2020年からボッテガ・ヴェネタのレディ・トゥ・ウェアラインを担っていたブレイジーは、デビューとなった2022-‘23年秋冬コレクションで、未来派の芸術家ウンベルト・ボッチョーニが1913年に制作した彫刻作品≪空間における連続性の唯一の形態≫をインスピレーション源にした。「ボッテガ・ヴェネタは、本質的に実用性を重んじるブランドです」と、ブレイジーはショーの配布資料に記した。「バッグを中心にしたブランドなので、持って移動することがテーマとなります。(中略)持ち運べる工芸品という考え方が根底にあります」。
当然のことではあるが、ブレイジーのデビューコレクションでは多くのアイテムにイントレチャートが使われていた。たとえばオーバーニーブーツ、ミニスカート、バケットバッグ、ワイドベルトにドライビングシューズ―― 中でも注目すべきは、今やブランドのアイコン的存在であるクラッチバッグの新バージョン。ブレイジーによる「ノット」は、紙のように薄い短冊状のカーフレザーを織り上げて、少しなめらかなシルエットに仕上げた。結び目の形をした真鍮色の留め具がついていて、オニキスブラックとボーンホワイトの2色展開。この極上の手触りのバッグこそ、間違いなく“ボッテガ・ヴェネタ”そのもの―― ブレイジーの言葉を借りれば、「ファッションというより、時代を超越したスタイル」の代名詞となるものだ。
PHOTO ASSISTANT: NATHANIEL JEROME. SET DESIGNER’S ASSISTANT: SAM SALISBURY