時代を超えて人々を魅了する名品たち。第10回は、ボッテガ・ヴェネタの「ノット」。ローカルに伝わる手仕事の技をラグジュアリーのシンボルに昇華させたいきさつと変遷、話題を呼んだ最新作まで、名作の背景に脈打つ今昔物語

BY LINDSAY TALBOT, PHOTOGRAPH BY CHASE MIDDLETON, SET DESIGN BY LEILIN LOPEZ-TOLEDO, TRANSLATION BY CHIHARU ITAGAKI

 1966年の創業以来、北イタリアの小都市ヴィチェンツァでレザー製品を生産してきたボッテガ・ヴェネタ。その地にて何世紀も前から伝わる技術「イントレチャート」を用いて、職人たちがバッグなどの小物を手作業で仕上げている。イントレチャートは、短冊状に切ったレザーを交差させながら堅く編み込んでいく技法である。精巧な作りであり、耐久性に優れたこの編み込み模様は、さりげなくラグジュアリーを物語る存在として知られるようになった。

画像: アンディ・ウォーホルが1985年に撮影したプロモーション映像『ボッテガ・ヴェネタ インダストリアル ビデオ』より。イントレチャートのミニバッグが登場 PHOTO: ANDY WARHOL STUDIO, STILL FROM “BOTTEGA VENETA INDUSTRIAL VIDEO,” 1985, 3/4" U-MATIC VIDEOTAPE, COLOR, SOUND, 9 MINUTES, PRODUCED FOR BOTTEGA VENETA, DIRECTED BY DON MUNROE, PRODUCED BY VINCENT FREMONT © BOTTEGA VENETA,COLLECTION OF THE ANDY WARHOL MUSEUM, PITTSBURGH, CONTRIBUTION THE ANDY WARHOL FOUNDATION FOR THE VISUAL ARTS, INC., COURTESY OF BOTTEGA VENETA.

アンディ・ウォーホルが1985年に撮影したプロモーション映像『ボッテガ・ヴェネタ インダストリアル ビデオ』より。イントレチャートのミニバッグが登場
PHOTO: ANDY WARHOL STUDIO, STILL FROM “BOTTEGA VENETA INDUSTRIAL VIDEO,” 1985, 3/4" U-MATIC VIDEOTAPE, COLOR, SOUND, 9 MINUTES, PRODUCED FOR BOTTEGA VENETA, DIRECTED BY DON MUNROE, PRODUCED BY VINCENT FREMONT © BOTTEGA VENETA,COLLECTION OF THE ANDY WARHOL MUSEUM, PITTSBURGH, CONTRIBUTION THE ANDY WARHOL FOUNDATION FOR THE VISUAL ARTS, INC., COURTESY OF BOTTEGA VENETA.

 2001年、ドイツ出身のトーマス・マイヤーが同ブランドのクリエイティブ・ディレクターに就任。その頃のファッション界はブランドバッグのブーム全盛期で、バッグにはこれでもかとモノグラムや派手な飾りがあしらわれていた。しかしマイヤーは、こういった流行からは距離を置くことにした。ボッテガ・ヴェネタに来てすぐに、アーカイブの中から1978年ごろのボックス型クラッチバッグに目を止めたマイヤーは、これに手を加え、元の四角い留め具を船の係留ロープのようなデザインに変更した。

 この丸みを帯びたミニバッグは、「ノット」と名づけられた。2002年春夏シーズン以来毎シーズンのように、さまざまな素材や色、サイズで、このクラッチバッグのバリエーションが登場することになった。

 2021年11月、フランスとベルギーの国籍を持つ38歳のマチュー・ブレイジーが、アーティスティック・ディレクターに就任した。カルバン・クライン、セリーヌ、メゾン マルジェラなどでキャリアを積み、2020年からボッテガ・ヴェネタのレディ・トゥ・ウェアラインを担っていたブレイジーは、デビューとなった2022-‘23年秋冬コレクションで、未来派の芸術家ウンベルト・ボッチョーニが1913年に制作した彫刻作品≪空間における連続性の唯一の形態≫をインスピレーション源にした。「ボッテガ・ヴェネタは、本質的に実用性を重んじるブランドです」と、ブレイジーはショーの配布資料に記した。「バッグを中心にしたブランドなので、持って移動することがテーマとなります。(中略)持ち運べる工芸品という考え方が根底にあります」。

画像: クラシックなクラッチバッグを再解釈した、ボッテガ・ヴェネタの“ノット”。カーフレザー製で真鍮色の金具が。¥429,000/ボッテガ・ヴェネタ ボッテガ・ヴェネタ ジャパン フリーダイヤル:0120-60-1966

クラシックなクラッチバッグを再解釈した、ボッテガ・ヴェネタの“ノット”。カーフレザー製で真鍮色の金具が。¥429,000/ボッテガ・ヴェネタ
ボッテガ・ヴェネタ ジャパン
フリーダイヤル:0120-60-1966

 当然のことではあるが、ブレイジーのデビューコレクションでは多くのアイテムにイントレチャートが使われていた。たとえばオーバーニーブーツ、ミニスカート、バケットバッグ、ワイドベルトにドライビングシューズ―― 中でも注目すべきは、今やブランドのアイコン的存在であるクラッチバッグの新バージョン。ブレイジーによる「ノット」は、紙のように薄い短冊状のカーフレザーを織り上げて、少しなめらかなシルエットに仕上げた。結び目の形をした真鍮色の留め具がついていて、オニキスブラックとボーンホワイトの2色展開。この極上の手触りのバッグこそ、間違いなく“ボッテガ・ヴェネタ”そのもの―― ブレイジーの言葉を借りれば、「ファッションというより、時代を超越したスタイル」の代名詞となるものだ。

PHOTO ASSISTANT: NATHANIEL JEROME. SET DESIGNER’S ASSISTANT: SAM SALISBURY

名品の最初と最新 一覧へ

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.