ひたすらに技を究め、日本人ならではの繊細な美意識をジュエリーに映し出す。世界に誇れる優れたジュエリーが今、ひそやかに着実に日本で生み出されている。宝飾史研究の第一人者、山口遼が、潮流を成す注目の4人の作家とその作品を紹介する。第三回は、伝統と革新が鮮やかに共存するジュエリーの作り手、吹田眞輝江さんについて

BY RYO YAMAGUCHI, PHOTOGRAPHS BY SHINSUKE SATO

 20世紀の初めころ、西欧、とくにフランスやベルギーを中心として起きた美術の中に、アール・ヌーヴォーがあります。日本や中国などの美術に大きく影響を受け、流れるような曲線、左右非対称、動植物などの奇抜な具象のデザインを特徴とし、美術の様々な分野で広まりましたが、中でもジュエリーでは多くの名作が残されています。こうしたジュエリーは、その後の戦争やら過度の大衆化、工業化が進む中で消滅しますが、今また日本から、日本人ならではの素材、技術、デザインを生かした新しいジャポニスムともいうべきジュエリーが生まれようとしています。その多くは、大きな宝石店やメーカーのものではなく、一人ひとりの作家がコツコツと作っているもので、量産などとは程遠いものです。そうした作家たち四人を選び、ここにその作品と共にご紹介します。どうか隠れた名作家たちを応援してください。

吹田眞輝江さんーー古い伝統を継ぎながら大胆不敵なデザインを

画像: 黒の部分は黒うるし、白い部分はホワイトゴールド。ブローチ「翁格子」<K18、ホワイトゴールド、黑漆> ¥550,000

黒の部分は黒うるし、白い部分はホワイトゴールド。ブローチ「翁格子」<K18、ホワイトゴールド、黑漆> ¥550,000

 漆黒の四角と白い金属に線を加えた格子を七つ並べただけのシンプルなデザイン。格子模様の中にさらに小さな格子をつけたデザインを、翁格子と呼びます。古い、ほとんどの人が知らない和のデザインを応用して、これほどモダンでありながら、日本人ならではの作品を作る。それが京都のいとはんというのも面白くないですか。
 吹田さんは、京都にあって古くから宝石の加工に携わってきた名門の末裔です。古くは甲府にも、石の加工技術を伝えたと言われる家柄で、その16 代目のひとり娘。大学卒業後、神戸の真珠企業に勤めたのちに独立し、両親の指導を受けながら、今では清水寺の近くにアトリエを構えています。京都に生まれ京都で育った女性らしく、日舞は幼少の頃から四世 井上八千代師に、お茶は表千家に直門で学ぶなど、ジュエリー作り以外の勉強も怠らない。その成果が作品に反映したジュエリー作家だと思います。

画像: ブローチ「光と影の間」<プラチナ、ダイヤモンド>¥3,080,000

ブローチ「光と影の間」<プラチナ、ダイヤモンド>¥3,080,000

 プラチナの板の上に、ダイヤモンドと鋭い直線を配して、割れ始めた氷の表面を描いたブローチ。応挙の作品にもこれと似た屏風があったような気がしますが、そうした瞬間とも言える様な一瞬の姿を捉え、それを硬い金属とダイヤモンドで表現するところに、日本人ならではの感性が息づいています。この真四角の鋭い外形は、古い曲線を中心としたジャポニスムとは異なります。それでいて、これは日本人しか思いつかないデザインなのです。

画像: ブローチ「ORIGAMI」<プラチナ、ダイヤモンド>¥1,815,000

ブローチ「ORIGAMI」<プラチナ、ダイヤモンド>¥1,815,000

 「折り紙」ではなく、世界には通用するORIGAMIとしたところが、なんとも面白い。平面の紙を折り曲げることによって様々な立体を作り出す日本の折り紙細工は、世界の人々を驚かせていますが、それを金属で表現しようとした、全くに新しいジュエリーの発想です。いかにも折り紙らしく三角や四角の平面をならべ、軽く盛り上がった立体を描く。すべてが平面と鋭角だけの構成、全体としてはどこから見ても日本、面白いですね。

画像: ブローチ「天と地」<プラチナ、ダイヤモンド、白蝶貝真珠、、アコヤ真珠>¥1,320,000

ブローチ「天と地」<プラチナ、ダイヤモンド、白蝶貝真珠、、アコヤ真珠>¥1,320,000

 このブローチのデザイン、ぱっと見て思い浮かぶのは、百人一首の札か花札が重なった所でしょうか。中央の四角の部分は空洞で、ブローチの下の衣服の色が見える仕掛け。四角の鋭い角の部分にはダイヤモンドをL字型に並べ、中央には大小の真珠を、彼女にして珍しく曲線状に埋め込んであります。それも真珠を半分に切るのでは無く、丸のまま埋め込んでいますから、裏面にも球体の半分が見えている。名付けて「天と地」、おそらく天地が重なると空間が生まれるという暗喩でしょうか、実物はすごく綺麗ですが、なんとも大胆不敵ではないですか。

 吹田さんの作るジュエリーは、日本固有のデザインを多用しながら、実に大胆不敵というか、独創的というか、まったく新しいジャポニスムともいえる面白いものです。日本固有の曲がりくねった左右非対称の曲線ではなく、鋭い直線、鋭角、角のある図形、どれをとっても、西欧に渡ってジャポニスムとなったものとも全く別の造形です。しかし、そのデザインの源となっているのは、格子であり、氷であり、折紙細工です。その意表をつく組み合わせが、吹田さんのジュエリーの面白さであり楽しさです。

問い合わせ先
山清堂(S.MAKIE) 
TEL. 075-525-1470
公式サイトはこちら

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