BY LINDSAY TALBOT, STILL LIFE BY SHARON RADISCH, SET DESIGN BY REBECCA BARTOSHESKY, TRANSLATED BY CHIHARU ITAGAKI
今やラグジュアリー・ファッションの代名詞となっているルイ・ヴィトンだが、彼の生い立ちはいたって慎ましいものだった。農民の父と、女性用の帽子職人だった母のもと、フランス東部にあるアンシェイ村で育ったルイは、1835年、14歳でパリへと向かう長い徒歩の旅に出た─約450㎞の道のりを2年かけて踏破し、たどり着いたパリの地で彼は、熟練のマルティエ(註:トランク製造職人)の指導を受け、20年近くかけて木箱の製造技術を習得した。ナポレオン三世の皇后ウージェニー御用達のトランク職人に任命されたのち、1854年に最初の旅行用トランク専門店を開く。ヴァンドーム広場近くのその店では、革製の旅行用品や、キャンバス素材のスチーマートランク(註:蒸気機関車や蒸気船での旅に使われた箱型トランク)を扱っていた。商売は好調を極め、1888年にひとり息子であるジョルジュが、今もメゾンを象徴する存在であるチェッカー柄の「ダミエ」を商標登録。1901年には、大西洋横断航海中に出る洗濯物を入れるためのスティーマー・バッグを発売した。そして1930年代、ルイ・ヴィトンは「キーポル」バッグを発表。もともとはコットンキャンバスの折りたたみ式トートバッグで、スーツケースに収納できるサイズだった。
そして今シーズン、ルイ・ヴィトンのメンズ クリエイティブ・ディレクターであるファレル・ウィリアムスと、コラボレーターであるミュージシャンのタイラー・ザ・クリエイターは、1930年代の「キーポル」を「ダミエ・ゴルフ」として再構築することにした(ファレルがメゾンのアーカイブである「ダミエ」柄をアレンジするのは、昨年6月、パリ・ポンヌフ橋で開催された2024年春夏メンズ・コレクションのショーでの「ダモフラージュ」が最初だ。この柄は、モノグラム・パターンのコートやだぼっとしたスーツ、ウールジャカードのジャケットなどにあしらわれていた)。この新しいダッフルバッグは、コーティング加工されたキャンバス素材で、青磁色を彷彿とさせる淡い緑色のチェック柄が特徴だ。バッグのライニングには、タイラーの愛犬の絵がプリントされ、天然牛革のトップハンドルには、取りはずし可能なバブルガムピンクの花形チャームが。この、メゾンの伝統に対する遊び心たっぷりの再解釈は、「キーポル」そのものと同じく、若々しいエヴァーグリーンな気分に満ちている。
PHOTO ASSISTANT BY MICHELLE GARCIA, ARCHIVAL PHOTO: ARCHIVES LOUIS VUITTON MALLETIER
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